第10話 超絶冒険者の魔法

アキラは、なかなか寝付けなかった。


朝には、ドアを抑えていた家具が多少動いていたので、ソフィアは再度の侵入を試みたのだろう。


加護のおかげか、短い睡眠時間でもアキラの体調が崩れる事はなかった様だ。


フロアに降りると受付には、何事も無かった様にソフィアが待っていた。

だが、偽装の魔法を看破できるアキラの目には、寝不足の顔が見えている。


『申し訳ないが、モフモフが限度なんだよ』


ソフィアの実体は、リザードマンの血をひく存在で、目は黄色く、身体の各所にウロコが生えている。


アキラは爬虫類系が苦手ではないが、抱いて寝たいとは思わなかった。

家では犬を飼っていたので、犬を抱き締めて寝るくらいは問題ないが、流石に性行為の対象には、いまだに想像ができない。


冒険者や関係者の外見は、とても美形だが、偽装を解いた実体は魔族の要素が各所に表れていて、中には夢に見そうな者も居るのだ。


ソフィアの受付の前には、既に同行するらしい冒険者が立っており、彼女を口説いているが、寝不足の彼女は反応が軽い。

だが、アキラが姿を見せると、席を立ち上り、アキラに手を振った。


「アキラさん、こっちです」


ソフィアの豹変に、狼らしいマスクの全身鎧に身を纏った男が、あからさまに舌打ちして、鎧の中からアキラを睨んだ。



「俺が、同行するCランクのラーガンドだ。お前が仮免か?」

「おはようございます。アキラと言います。よろしくお願いします」


アキラは、先輩への礼儀として、頭を下げた。


「じゃあ、さっさと行こうか?今日はドブ掃除だ。夕方までには終わらせるぞ」

「はい、ラーガンドさん。頑張ります」


ラーガンドに付いていき、アキラはギルドの裏手へと向かう。

先日の換金所の隣に、道具の貸出し所があり、そこで台車とスコップ、土嚢袋などを受けとった。


「今回は、講習料に含まれているが、本当は料金を払って借りるか買うかするんだぞ」

「分かりました」


冒険者が個人で持たない台車などの道具は、冒険者ギルドで借りる事ができるらしい。


宿屋住まいの冒険者などは、道具を大量に所持する事が、事実上できない。

【ストレイジ】などと呼ばれる空間をねじ曲げて物を収納する魔法は、最高位とされているらしいので、使える者は殆んど居ないらしい。


『確かに地球の現代科学でも、空間をねじ曲げたり、亜空間を作る事はできないからねぇ。できたらワープで大マゼラン星雲まで行けちゃうよな』


最低でもマイクロブラックホールが必要となる。

宇宙戦艦並みの技術を、個人が持ち歩くなど、どう見ても非常識ではある。


アキラは、道具を台車に乗せて、ラーガンドの後を付いていきいく。

彼は、あくまで案内と指導と見届け人なのであって、実際の作業はアキラが独りで行わなくてはならない。


ラーガンドは、アキラに依頼書を見せ、位置関係と作業内容を説明していく。


「番地表示は建物の、この辺りに書かれている。地図に使われる目印としては、あの塔と、そこの橋が頻繁に使われるが、一応は町の地図を購入しておく事を勧めるぜ」

「わかりました。早めに入手します」


若輩者の指導は、上級ランクの必須科目らしく、彼の説明や指導は大変優しいものだった。


そしてラーガンドは、アキラの肩に何気なく手を乗せた。

実は【隠蔽魔法】が掛かっているかを、確かめているのだ。

ソレを確かめてから、彼は話を進めた。


「アキラとか言ったか?お前が冒険者になるのは、箔付けか何かか?」

「箔付け・・・とは?」

「魔力が無い者でも、若干の体力と良い武器が有れば、Fランク登録はできる。冒険者登録をできれば、地方での発言権が増すのだろう?少し光り物を出してくれれば、こっそり手伝ってやるぜ」


どうやらラーガンドは、アキラが一般人で、肩書き目当てで試験を受けに来ていると思ったらしい。

オーガの魔石も、印象付ける為に商人などから買った物と思っている。

自動車のペーパードライバー同様に、冒険者活動をしないのであれば、多少のズルはギルドに影響しない。


「いや、俺は魔法も使えるんで大丈夫ですよ」

「まさか、冗談だろ?」


ラーガンドは、アキラの体臭を嗅いでから、再び肩に触れて鎧の手甲の魔石を見た。


「人間の匂いしかしねえし、隠蔽魔法も使ってない。どこから見ても、脆弱な人間じゃあないか?」

「そう言うラーガンドさんも、隠蔽魔法を使ってないですよね?」

「俺は【特別】だからな」


他の者は、門番ですらアキラの魔力を感じ取って武器を向けた。

だが、ラーガンドは純粋な人間同様に、感じていない様だ。

アキラは、少し彼に興味を持ち、彼のステータスを詳しく見た。


◆◆◆◆


*ラーガンド

種族:ワーウルフ/クオーター

 HP1,000:TP2

 MP1:MT1

総合レベル2,001


魔力耐性・毒耐性・呪い耐性・不死性・超速再生・変身能力


◆◆◆◆


『ははははっ!人狼かぁ?魔力感知能力が皆無とは・・・・人間の姿を保っているのは、隠蔽魔法じゃなくて、身体能力ってかぁ~面白い奴だな』

「それは、魔法に反応する魔石ですか?確かに、今は魔法を使っていないので反応が無いのでしょうが、ちゃんと使えますよ」


元々、人狼は魔法を使えない。

魔素の力は、体内で消費されてしまうので、その力はMPではなくHP換算されてしまう。

更に、魔力を体外に放出する能力が皆無な為に、そのMPは最低レベルになってしまうのだ。


匂いでアキラが人間である事を感じたラーガンドは、そんなアキラを鼻で笑った。

魔法陣と魔石を組み込んだ魔導具などで、初歩の攻撃魔法を使えるのだろうと思ったからだ。


「まぁ、お手並み拝見させてもらうよ、アキラ君」


ニヤケるラーガンドに、アキラも笑みを返した。


そんなやり取りをしているうちに、目的地に着いたらしい。


「今回のクエストは、このブロックと、隣のブロックの側溝の掃除だ。蓋を開け、中のゴミを取り除いて町の外に捨てにいく。この依頼書が有れば、門の出入りは自由にできるからな」

「これは、古代コンクリート製?町を歩いている時は気がつかなかったが、こんな廃水設備が完備されていたなんて」


雨水や汚水、糞尿も一緒になっているが、廃水設備が有るのと無いのでは、町の衛生面が段違いになる。


「これの重要性が理解できる様だな?この側溝の目詰まりが、悪臭を放ち、衛生面を悪くするから清掃が必要なんだ。一般人も清掃するが、どうしても手が回らない時は冒険者ギルドに依頼が来る。基本的に冒険者の方が体力が勝っているからな」

「それでFランクや、食い繋ぎの駄賃稼ぎに使われるんですね?」

「よく分かっているじゃないか」


体力面を見る実地試験にもなり町の為にもなる、このクエストは、一石二鳥なのだった。


「ラーガンドさん、二・三質問しても?」

「構わんよ」


アキラは、少し考えてから質問をした。


「魔法で処置しても構いませんか?あと、町の外に捨てに行かなくてはいけませんか?」

「そうだな。体力より魔法が得意な奴も居るから禁止ではないが、側溝を焼いたり傷付ける様なのは駄目だ。別に捨てに行かなくても良いが、煙りを出すのも禁止だ」


アキラは、ラーガンドの返答に頷きながら、空中に魔法陣を組みだした。


「先ずは範囲を結界で囲んで、感知スキルと素粒子加速魔法をサブルーチン化し、ベーシックのループプログラムを基本に、魔法を構築。水素は1、炭素は6、酸素は8個の陽子だったな」

「おいおい、アキラ。何をしている?」


ラーガンドの手甲の魔石が光を放ち、魔法が行使されている事を示してる。


更には聞いた事もない呪文を唱え出したアキラに、想定外の事が起きているのを魔法に疎いラーガンドでさえ感じていた。


「独自の魔法ですが、心配しないで大丈夫ですよ。次に水を合成して、流動性を持たせ、中性子による核分裂で元素を酸素か炭素にまで分解。同位体も混ざるが大丈夫だろう。発生したエネルギーは運動エネルギーに変換して、他の元素は水素にまで分解してっと、ここまでをループ化して範囲内完結まで繰り返させて・・・・」


近年では普通科の学校でも教える、コンピュータのプログラムを流用し、自動処理の魔法を組み上げていくアキラ。


結界により側溝自体には影響なく、内部のゴミが核分裂反応により、次々と粗い炭素の塊へと変貌して行く。


「最後に結界を狭めて、軽く圧縮すれば、燃料用の炭が出来上がりっと!」


そう言うと、アキラは側溝の蓋を一つ開けた。

中から大量の蒸気が上がったが、火災と間違う程ではない。


そして、中に有った黒い塊をスコップで土嚢袋に入れて台車に乗せた。


ラーガンドが、その開口部から側溝の中を覗き込んみると、中が綺麗に成っているのが見えたのだった。


「いったい、何をやったんだ?」

「中のゴミを捨てるだけじゃあ勿体無いので、魔法を使って燃料用の炭に作り替えたんですよ。錬金術モドキって奴ですね」

「錬金術っ?お前、何者なんだ?」

「だから、魔法が使える人間ですよ」


口を開けて、呆然と立ち尽くすラーガンドを尻目に、アキラは次のブロックの側溝へと向かっていた。




ラノベの話に有るのと同じように、住所表示から依頼者を探し、作業のでき具合を確認してもらってから、側溝の蓋を閉めてサインを貰った。


この辺りの手順は、講習で使った教本にも書いてある。


「まだ昼前ですが、ゴブリン退治にでも行きましょうか?」




ーーーーーーーーーー


ワープ

アメリカの有名SFドラマに出てくる【ワープ】は、宇宙船を疑似亜空間で包み、接点を超光速移動させる事により、銀河の彼方へと旅をしている。



古代コンクリート

ローマン・コンクリートとも呼ばれ、ローマ帝国時代に使われた建築材。

火山灰、石灰、火山岩、海水を混ぜ合わせて作られており、現在のコンクリートに近い強度と耐久性を持っている。

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