超絶冒険者 編

第9話 超絶冒険者は仮Fランク


「に、認可されたのですか?てっきり魔族認定されて・・・・」


【認可】の印が押された書類を提出された受付嬢が、驚きで目を見開いている。

女神が、一定量以上の魔力を持つ者を魔族と認定する様に言っていたので、過去にも魔力量が多くて魔族認定された者が居たのだろう。


それとも魔族のスパイが偽装して来た事件が有ったのか?


「当然ですよ。俺は魔力は有りますが、純粋に人間ですから。女神様が、見間違う筈ありませんよ」

「そ、そうなんですか?」


受付嬢との会話を聞いて、他の冒険者の視線が集まる。


「常談だろ。すぐに化けの皮が剥がれるさ」


小声で罵る声もする。


この世界の常識から外れる話しだから、仕方がないのだが、ソレだけではない。


冒険者達の使う魔法は、寝たり気絶したりすると継続できない。

肉体は兎も角、心は人間であろうとする彼等にとって、普通の人間が恋愛対象になる事は有るだろう。

しかし、共に夜を過ごした後に、その関係は豹変する。


朝には偽装の魔法が解けた状態で、愛する者に姿を曝すのだ。


知らされなかった者は勿論、頭で理解していても生理的に拒絶してしまう者が出てきてしまう。

生まれた子供にウロコでも付いていたら、産婆の口から周知の事となる。


結果として魔族扱いされ、姿と名前を変えて、別人の冒険者として再出発するしかない者も出てくるのだ。

その様な者達にとって、魔力と人間の肉体を持つ者は、嫉妬の対象にしかならない。


だがアキラに、その様な視線を相手にしている暇は無かった。


「このまま、研修を受けて仮登録まで行きたいのですが?」

「そ、そうですね。換金を急いでいると言ってましたからね」


指定された銀貨5枚をテーブルに出すと、アキラは受付嬢を急かして別室へと案内され、教本を渡されて教官が来るのを待った。


講義の内容は、いたって簡単だった。

基本的な法律の話し。

人間の殺害禁止と暴力行為の禁止。

但し、正当防衛と犯罪者確保などの特別な場合を除く。

麻薬や呪物などの禁止要項。

周辺状況の説明と、魔物や魔族の情報。

有用植物や、魔物や動物の有用部位の解説。


殆どが、教本を読みながら進む内容なので、忘れても教本を見返せば済む内容だ。


講義は、休憩を挟んで二時間程で終わり、彼は30分くらいの自習時間の後にテストを頼んだ。

中には翌日にテストを求める受講者も居るそうだ。


「本当に良いのかね?」

「はい。急ぎますので」


試験の内容は、主に法律関係のマルバツ式と言っていたので、そのまま続行したのだ。


案の定、試験内容は日本人の常識と、ラノベ知識が多少有れば十分な内容だ。

そもそも、普通の日本人に受け入れられる様に作られた物が基礎なのだから【不信心者には死を!】や【麻薬は合法】みたいな法律は無い。


筆記試験はアッサリ合格し、アキラは、その日の夕方には仮Fランクの認定書類を渡された。


「当日受験にしては、かなりの高得点だったみたいですね?」

「そうなんですか?母国の法律と大差無いものだったので、運が良かったのでしょう。冒険者では有りませんでしたが、地元では似た様な事をしていましたから」


高い魔力と学力、経験のあるルーキーの登場に、受付嬢の対応が変わりつつあった。


「実地試験は、明朝にコノ受付に来てください。まず、アキラさんにはFランクに多い、町の清掃業務を行ってもらいます」

「その後にゴブリン退治ですよね?」

「だいたいが、清掃業務に丸一日掛かるので、ゴブリン退治は翌日になるかと思いますよ」

「そうなんですね?」


一応は、納得するアキラだった。


「ところで【換金】は裏手でしたよね?」

「そうですね。中を通っても行けますから、ご案内しますよ」

「ありがとうございます。お願いします」


当番制である新規冒険者の受付は、とても少なく、依頼受付等は他にも居るので、多少の便宜はできるらしい。


「受付さん。この町には不慣れなので、安い宿屋を紹介してもらえませんかね?」

「一泊くらいでしたら、銀貨2枚で、このギルド内に停まれますよ。それから、私の事はソフィアと呼んでください」

「ソフィアさんですね。それは有りがたい。道に迷って、遅刻しなくて済みそうですから」

「では、手配しておきますから、泊まる時に私の受付まで来てくださいね」

「分かりました。いろいろとありがとうございます」


そのままギルド内を通って、裏手の作業場に行き、換金所で魔石を現金化するまでソフィアはアキラに付き合ってくれた。


『ここまでサービス良いものなのかね?』


ギルドの裏口から食事の為に去っていくアキラに、見えなくなるまで手を振るソフィアに、腑に落ちないものを感じつつ、アキラは町の散策と食事へと向かった。


超感覚でも情報は得られるが、肉眼で見るのとは、少し印象が異なるのだ。


「しかし、下級オーガで銀貨10枚かぁ」


日本円に換算して、およそ5万円。

恐らくは、魔物レベル × 1,000 = 円 相当なのだろう。


「ゴブリン一匹なんかは、宿泊費にもならないな」


換金所の表を思い出して、アキラは唸った。


軽く食事を終え、冒険者に必要な短剣や紐なども買い揃えてギルドに戻ると、受付嬢のソフィアを探し、ギルドの二階にある宿舎の部屋を案内された。


「三階が職員宿舎か?」


一階がサロンと受付、事務室や会議室、保管庫。

二階は、少しの宿泊施設と書庫や倉庫になっている。

実際には、町中に安い宿屋も有ったが、アキラが案内された部屋よりは質が悪かった。


真夜中、なかなか寝付けないアキラの部屋の鍵が開けられ、誰かが入ってきた。


だが、ベッドの1メートル手前で、アキラの張った結界に阻まれ、鼻をぶつけてうずくまった。


「ソフィアさん!何をやっているんですかぁ?」


受付嬢のソフィアが、透けたネグリジェ姿で鼻を押さえている。


「アキラさんが、緊張して眠れないんじゃないかと思ってね」


〔明確な青田刈りだな〕

『そうですね。手が早いと言うか、何と言うか』


メタトロンも呆れた声だ。


「御好意は有りがたいのですが、俺は独りじゃないと熟睡できないので、よけい明日に響くんですよ。今日の所はお帰り下さい」

「そう?夜の話し相手が欲しくなったら、相談に乗るからね?」


渋々と帰るソフィアを確認し、アキラは、魔法でドアの内側に家具を移動させる。


「職員が合い鍵を乱用するとは・・・」


その後もアキラは、なかなか寝付けなかった。




ーーーーーーーーーーー


物価目安

金貨500,000円

銀貨5,000円

銅貨500円


日本刀 金貨5枚

2,500,000円


冒険者登録費用 銀貨5枚

25,000円


ギルド内宿泊 銀貨2枚

10,000円

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