第11話 超絶冒険者の戦闘力

「まだ昼前ですが、ゴブリン退治にでも行きましょうか?」


二時間も掛からずに目的の範囲の処置を終えたアキラは、台車を押して門へと進んだ。


思考が停止しているラーガンドは、幽霊の様に彼について行く。


「ラーガンドさん。依頼書を借りますよ」


ラーガンドの懐から依頼書を取り出すと、アキラはソレを門番に見せ、台車を預けて外へと走り出した。


「お、おいっ、ちょっと待て!」


我に帰ったラーガンドが、必死に後を追うが、アキラを捕まえる事ができない。


ラーガンドの顔が、次第に狼へと変わって行く。

その走る速度が数倍に跳ね上がるが、まだアキラに追い付けそうにない。


「冗談だろ?あんな魔法を使える上に、身体能力で俺を上回るって、魔族でも有り得ないだろ!」


ラーガンドの身体能力は、ほぼ先祖返りレベルだったので、それを上回るアキラの能力が信じられなかったのだ。


アキラを追って街道を走っていると、商人の馬車が近付いて来た。


「やべっ!」


このままでは魔族認定されてしまうので、ラーガンドは鎧のマスクを下ろして、顔を隠した。

金属で出来た狼のマスクの下に、生身の狼顔があるとは、誰も思わないので、正体がバレずに済んでいる。


「脇道から森に入ったか!」


森に入ったアキラの速度は、少し遅くなっていた。

だが、それは、速く走れないのではなかった様だ。


「ホーミングレーザー」


アキラの両手から幾つもの赤い光が走り、弧を描いて森の各種へ飛んで行く。


「あの赤いのは、ファイアボールか?いや、違う何かだな!」


見たこともない魔法を眺めながら、ラーガンドは、ようやくアキラに近付きつつあった。


そして、ようやく止まったアキラの前には、巨大な死体が幾つも重なって倒れていたのだった。


「これは、ゴブリンエンペラーか?」


ゴブリンエンペラーは、ゴブリンの最上位種だ。


驚くラーガンドをよそに、重なり合う巨大な死体を片手で軽々と持ち上げ、その胸へと手を突っ込んで、中をまさぐるアキラ。


「魔石を集めれば良いんですよね?」


引き抜いた手には、緑色の大きな魔石が握られていた。


「ああ。確かにソウだが、ゴブリンソルジャークラスを3個で良かったんだぞ」

「そんなのじゃあ、酒代にもならないでしょ?取るなら、これくらい集めないと」


エンペラーの脇には、ゴブリンロードの死体も幾つか転がっている。


体内の魔石の位置を把握したアキラは、次々とゴブリンの胸を刀で切り開き、手を突っ込んで魔石を集めて行った。


「いったい、幾つ退治したんだ?」


森の中を蛇行しながら歩くアキラの行く先々には、頭を撃ち抜かれた上位ゴブリンの死体が転がっていた。

中には上級オーガの死体も含まれている。


その胸から集められた魔石の数は、既に二十を越えて三十になろうとしていた。


「これだけできれば、合格ですよね?ラーガンドさん」

「いや、アキラ君。これはBランクの試験じゃないんだけどねぇ」

「えっ?Fランクの試験でしょ?」

「いや、既にレベルを越えてるんだよ。やり過ぎだよ、君は」









冒険者ギルドのサロンへと、ブツブツ言いながら帰ってくるラーガンドの姿があった。


「駄目だ、駄目だ、あんなのが居たら。駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ・・・・」

「お帰りなさいラーガンドさん。流石にアキラさんは失格でしたか?」


ラーガンドに声をかけた受付嬢のソフィアは、少し落胆した様に肩を落とした。

過去に体力面で劣り、ノルマが達成できない受講者が居なかった訳ではない。


期待のルーキーほど、意外な所でポカをやらかすものだ。


「駄目だ、駄目だ・・・・って、失格ぅ?、そうだな。奴に比べれば、俺なんか冒険者失格って言われても仕方がないのかも知れないが、あんなバケモノに、どう抗えば良いって言うんだ?」

「バケモノ?そんなにオゾマシイ正体をしていたんですか?アキラさんは?」


どうも、二人の会話が噛み合っていない様だ。


「正体?アキラの正体を教えてくれよ!魔術も体力も、正確性も、あんな奴を見たこともない。あれが魔族じゃ無いって言うのなら、伝説に聞いた【勇者】って奴なのか?」

「アキラさんが【勇者】って、レオルドさんより強いって事ですか?」

「俺には、両方とも高み過ぎて区別がつかん!」


レオルドとは、他の町に居るSSSランクの冒険者で、魔族に対抗できる勇者ともくされている男だ。


ラーガンドとソフィアの会話を、多くの冒険者達が聞き耳を立てていた。

あれだけの魔力量を持つアキラの存在は、昨日から話題に上っており、話題から外れていたのは魔力感知能力の乏しいラーガンドくらいのものだったのだ。


誰もが、アキラを要注意人物と見ていたので、結局は無関心だったラーガンドに判定者の白羽の矢が立ったわけだった。


「勇者?あれが・・・ラーガンドってCランクだよな?」

「ああ。トップではないが、ここではトップクラスと言えなくもない」


回りの者が小声で噂をする中、くだんのアキラが、裏手の換金所から姿を現した。


「御待たせしましたラーガンドさん。あと、ソフィアさん。これが換金の明細です。クエスト達成の証明として受付に出す様にと言われました」

「クエスト達成って事は、今日の分は合格したんですね?おめでとうございます。ラーガンドさんが変な事を口走っていたから心配しちゃいましたよ」

「ラーガンドさんには、いろいろと御指導いただいたのに、心配を掛けてしまって、申し訳ありませんでした」


呆れるラーガンドを横に、アキラは換金の明細を受付テーブルに出した。


「でも、換金明細って、今日のクエストは側溝清掃だった筈ですよね?」


顔を手で被って項垂れるラーガンドをチラ見して、ソフィアはソノ明細に目を通した。


「えっえ~っ!【魔石:上級オーガ2、ゴブリンエンペラー1、ゴブリンロード5、ゴブリンナイト他21、燃料用炭60kg】って、コレ何の明細ですか?」


大声で騒ぐソフィアの声に、顔を被った手から目を覗かせて彼女を見たラーガンドが、疲れた声を発した。


「それは、側溝清掃の後に時間が出来たからと言って、アキラが独りで倒したFランク冒険者試験の課題だった【ゴブリン討伐】の結果だよ。つまりは、前代未聞の成績で、アキラはFランク冒険者試験に合格したって事さ」

「・・・・・・・・?」


アキラの登場で、ざわついていたサロン内に、静寂が訪れた。


いや、誰もが動きを止め、口と目を大きく開けて、アキラを見ていた。


アキラ以外で思考できていたのは、ラーガンドくらいのものだろ。


「だから、ソフィアさんよ。アキラ君にFランク冒険者合格の証明書を作ってやってくれ」

「御手数をお掛けしますが、よろしくお願いします」


頭を下げるアキラに、サロン内の誰も動く事ができなかった。

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