第12話 超絶冒険者の合格
「だから、ソフィアさんよ。アキラ君にFランク冒険者合格の証明書を作ってやってくれ」
「御手数をお掛けしますが、よろしくお願いします」
頭を下げるアキラに、サロン内の誰も動く事ができなかった。
「アキラ君。この時間だと、証明書・・・と言うより冒険者プレートができるまで、時間が掛かると思うから、明日に出直したらどうかな?たぶん、昼くらいになると思うが・・・」
「そうですか。じゃあ、合格祝いに飲みに付き合ってくれませんか?ラーガンドさん。臨時収入も入った事ですし」
「いや、俺は・・・・そうだな。独りで酒を飲む事は無いよな」
アキラには祝い酒だが、ラーガンドには、やけ酒になりそうだった。
いや、ここでアキラに嫌な印象を持たれるのは先々で不利になるだろうから、接待酒をするべきか?
そんな事を考えながら、ラーガンドはアキラの後を追って、冒険者ギルドを出ていった。
「おい、おい、おい。ちょっと明細を見せろよ!」
「ラーガンドの奴、いったい幾らの金を積まれたんだ?いくら魔力が凄いからって、初戦でコレは無いだろう?」
「ラーガンドなら、これくらい朝めし前だろうが、あからさまにやり過ぎだ」
サロンに居た全ての冒険者がソフィアの元へと詰め寄った。
判定者のサポートは、ある程度黙認されていたが、基本的には規定値ギリギリに抑えて行われていた。
だが、今回のは度が過ぎている。
サロンは騒ぎ立てる者達で、ごった返していた。
「いや、そんな事は無い様だぞ。この成果は、アキラ君が独りで、苦もなくこなしたと、報告が入っている」
二階への階段から、そう言いながら降りてきたのは、ギルド長だった。
今回、多少は騒ぎになった冒険者候補生に、ギルド長が調査員を別に手配していたとしても疑問はない。
「本当なんですか?ギルド長」
「ああ。本当だ」
ギルド長の眉間に寄った皺は、問題が単に成果だけでない様子を物語っていた。
「そう言えば、ラーガンドが【勇者】とか言ってなかったか?」
「確かに、そんな言葉も話していたな」
再びざわついてきたサロンを尻目に、ギルド長は一階の事務室へと入り、アキラに関する書類を確認し始めた。
調査員の報告が、とても信じられない内容だったからだ。
「教会の認可印は間違いない。かつて偽造された事も有ったので、改良された点もクリアしているが・・・」
ギルド長は、一応、教会に人を走らせて、確認する様に指示した。
「本当に大丈夫なのか?もし、本物ならば、かなりの騒ぎになるな・・・・せっかく田舎のギルドに収まったのに、面倒事は嫌なんだよ」
泉のお陰でソコソコの地域収益と仕事が有るが、大事が起きなかったコノ町は、穏健派のギルド長ルシウスにとって、安住の地であったのだ。
翌日の昼。
ラーガンドは町を彷徨っていた。
正確には二日酔でボーっとしており、無意識に近い状態でブラブラしていたのだ。
昨晩は、アキラの祝い酒に付き合った後に、別の店で独りヤケ酒をしていた。
何とか自宅に帰ったものの、飲酒の原因がヤケ酒だった為に、毒耐性を発揮する獣化をする気もなく、そのまま就寝して二日酔の朝を迎えた。
頭痛で獣化する気力も沸かない。
近所の井戸で水をガブ飲みしてから帰るつもりで、何故か町をブラついていたのだ。
気が付けば、冒険者ギルドの前に来ていた。
たまの休みに、何も考えずに近所の町をブラブラしていたら、いつの間にか会社へ向かう電車に乗っていたとか言う話が、日本でもある。
「あれから、どうなったかな?さぞや騒ぎになっているだろうな」
ギルド長が調査員を走らせていた事は、匂いで分かっていた。
隠れていても、魔力感知が苦手でも、風は存在を知らせてくれる。
今は、いつもの全身鎧を着ていない状態だが、獣化しなければ必要は無いのだ。
ラーガンドはギルドへと入っていった。
サロンの状況は、いつもと違っていた。
依頼書掲示板を遠巻きに見守る様にして、冒険者達が離れている。
いつもなら、掲示板の回りに十名くらいが集まっているものだった。
「いったい、どうなって・・・って、もう、配付されたのか?タイミングが悪かったな」
掲示板の前には、アキラが独りで立っていた。
他の冒険者達は、アキラに話しかけられるのを嫌がって、遠巻きにしていたのだ。
アキラも、名前も知らない人に、いろいろと聞くのを
「ああ、ラーガンドさん。おはようございます。ちょうど良かった!少し伺っても?」
『捕まったかぁ』とラーガンドは思いながらも、諦めて掲示板の前へと足を運んだ。
周りの冒険者も『やっと人柱が来たか』とか思っているのだろう。
「このギルドには、元Aランク冒険者のギルド長をはじめ、ランクB、ランクCの冒険者まで居るのに、なんで依頼書がランクD以下の物ばかりなんですか?」
ラーガンドは受付嬢達の方を見たが、彼女達の視線は『それはラーガンドさんから』と言っている様だった。
「アキラ君。それはだね、このギルドの活動範囲は、ソノ様なハイレベルな案件が皆無な平穏な地域と言う事だよ」
「C以上が必要な案件が無いと?」
「うんうん!皆無だね。魔族は勿論、ワイバーンやベヒモスも来ない」
アキラが受付嬢達の方を見ると、全員が揃って相槌を打っている。
「なのに、AからCランクの冒険者が在籍していると?」
「そうだね、アキラ君。建て前として、今は確かに皆無だが、将来的に発生しない保証もないから。つまりは【備え】と言う事になっている」
アキラは、首を捻る。
「案件がないのに、どうやって昇格試験を行ったのですか?冒険者同士で腕比べですか?」
「なぁに、簡単な話しさ。ギルド長は勿論、俺を含めた上位の冒険者は、移籍組ってだけだよ」
他のギルドで活躍して昇格した冒険者が、大きな事件の無いコノ町のギルドに移籍する事が無いとは言えない。
一応の納得はあるが、ここで新たな疑問が生まれる。
「そんな自分の能力を活かせず、更なる昇格も望めないギルドに在籍し続ける理由って、何なんですか?」
「確かに、Cランク以上には昇格はできないだろう。君の様に、これから登ろうとする者には理解できないかも知れないが、皆が頂点を目指している訳じゃ無いんだよ」
人物紹介 ーーーーーーーーーー
*三枝 彰(さえぐさ あきら)
主人公 日本人男性大学生
女神の不手際により21歳没
ラノベベースの異世界へと超絶主人公として転移した
*女神様
幾つもの世界を作った創造神
全智全能永遠不変である為に、昨日の記憶は無い
*メタトロン
ラノベ異世界の管理システム
アキラのサポートをする
*サラスバーティ
ラノベ異世界における女神の分体で、教会の巫女17歳
*ソフィア
冒険者ギルドの受付嬢25歳
リザードマンの血を引く
*ラーガンド
Cランク冒険者男性35歳
人狼クォーター
アキラの冒険者試験の判定者
*レオルド
ルードの町に居るSSSランクの冒険者
【勇者】と呼ばれている男
*ルシウス
ギルド長
元Aランク冒険者で59歳
穏健派で事勿れ主義
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