第39話 王都での遭遇

そして、この爆発が元で、王城にはアキラ達と話題の【勇者】が召喚されたのだった。


国王と大臣達に加え、皇太子妃も交えて、謁見は行われた。


発光現象を調べに行った者が、現在は奇病で動けない状態なので、彼等が残した調書を元にSランク冒険者の意見を聞く事になったのだ。


現在、戦線で活動中の冒険者や将校を呼び寄せる訳にもいかず、たまたまた王都に滞在していたドルテアとジーニスに白羽の矢が立った。


再三、彼等との謁見を求めていた皇太子妃も、万が一の時の保険にと列席が許されたのは彼女にしてみれば、幸いか?


戦場からの連絡を受けている、冒険者ギルドのギルド長も同席している。


「その後ろに控えている男は?」

「彼は下級の冒険者なれど、我々が保護している対象の為に、同席を願いたく」


大臣がアキラの事に注視したが、この件は二人が頑なに嘆願した。

ギルド長も、同意している。


「まぁよかろう。で、先日の光と雲は見たであろう?あれは何だと思う?」

「恐れながら、我々が見たのは一瞬だけ明るくなった事と、樹の様な形の雲だけにございます」

「あれだけでは、なんとも申せませんが、魔族の行ない以外には考えられませぬ」


ドルテアに続いてジーニスが、自分達に都合の良く、当たり障りの無い返答をした。


「やはり、詳細はわからぬか!」


こればかりは、調査隊の報告書でも、戦場の生き残りにも分からなかったので、しかたないと国王も考えた。


だが、


ガタン!


「あれは核爆弾という兵器で、魔法とか魔族とかと関係のある物ではありません!」


謁見の間のドアを打ち開き、一人の男が入りながら叫んだ。


アキラは頭を垂れていたが、その超感覚で、その男がドラゴンとリザードマンの血をひく者だと言う事を認識した。


「おお!レオルド・フォルカスか!【かくばくだん】とな?しかし戦場では魔族が爆発に呼応し、驚くこともなく開戦したと報告されておるぞ。ならば魔族の魔法に違いあるまい」

「しかし、あれは・・・」


アキラは、二人の会話を聞いて疑問に思った。


魔族の古文書には名称は無かったし、アキラは【原水爆】と言う言葉は使ったが、【核爆弾】という単語を使ってはいなかった。


つまり、魔族達から知ったと言う事は無いだろう。


『【勇者】と呼ばれている男か?なぜ【核爆弾】という単語を知っている?まさか地球人?しかし肉体的には・・・そうか、【転生】か!』


ラノベのアルアルに、アキラは思い当たるものがあった。

『あの女神様なら、ありうる』と。


ここで勇者と接触を持つのはマズイと考え、アキラは能力を必死に抑え、【その他大勢】の一部に成りきった。


「フォルカス殿、私は王国のみならず、多くの国の書物を読みふけっておりますが、【かくばくだん】なる言葉を存じません。また、あの様な雲や破壊を書物で読んだこともございません。勇者殿は、どこで、その様な知識を得られたのですか?」


そう問いただしたのは、近隣で【賢者】と呼ばれている老人だった。


この国は、【勇者】だけでなく【賢者】まで抱え込んでいたのだ。


「それは・・・・」


流石の勇者も、異世界転生の事を口にする事はできなかった。

なぜなら、証明する事もできず、証明してくれる人も居らず、幼少期には妄想家扱いされたからだ。


「勇者殿は、御自身でも訳の分からぬ事を申されておる様ですな?現場では魔族が【御使い様】とか【呪いのイカズチ】と叫んでいたそうです。恐らくですが【御使い様】とかがもたらした【呪いの雷】と言う魔法ではないかと思われます」


そう発言したのは軍部の将軍を引き受けている伯爵だ。


言葉の感じでは、勇者を筆頭にした冒険者の存在を、快くは思っていないのだろう。


「冒険者側の調査は、とうなっておる?」

「勇者殿には悪いが、戦線に参加した冒険者からの報告にも、将軍が申されるのと同じ報告があがっております」


一応は同じ冒険者だが、国王からの問いに、ギルド長として事実を曲げる訳にもいかない。


「おお!確かに。凄まじい光と巨大な雲。謎の病など、【呪いの雷】と言う名に相応しい現象ですな。そうすると、魔族に【様】呼ばわりされている、その者こそが【魔王】かも知れません?報告にあった被害は前代未聞!勇者殿は、あの力に勝てぬので『魔法でも魔族でも無い』と申されておるのではありますまいな?」


賢者の老人も、勇者を快く思っていない様だ。


『脳筋のクズ勇者め!能力もたいした事ないのに、でしゃばるからだ。いったい、どんな顔で泣いているのやら?」


チラリと視線を向けたらアキラの目は大きく見開かれ、頭の中で【ブチッ】と言う音が響いた。


謁見用にアンダーウエアに加工した、能力隠蔽の布がチリジリになって弾けとんでいく。

空気が歪むのが見える様に、大量の魔素がアキラの周囲で渦巻きだした。


「アキラ様。ここではマズイです」

「御力が漏れております」


ドルテアとジーニスの言葉も聞こえない様で、アキラは無言のまま恐ろしい形相で立ち上がった。


謁見の間の壁を突き破り、朝霧の二本がアキラの両脇まで飛んできた。


既に超振動を発しており、壁や家具に反響して高周波の音を部屋中に響かせている。


「なんなんだ?お前は!その魔力・・・勇者の俺より遥かに膨大な・・・・」

「お前が、お前が両親を傷付け俺を殺した奴だったのか!」


朝霧を両手に持って迫ってくるアキラにレオルドは、完全にされていた。


「殺した?お前は生きているじゃあないか?それに俺は初めてお前を見るんだぞ!人違いだろう?」


謁見の間には、武器は持ち込めない。

明らかに不利な状況に、レオルドは腰をついて後退りしはじめた。


「地球の日本で、お前に殺されて、俺はココに来たんだ。その顔と左目の傷を忘れはしないぞ!忘れは・・・・傷が・・・傷が無い⁉どう言う事だ?」


アキラの魔力が、一瞬で止まった。


「俺が知るか?それより、お前、【地球ジムヤ】とか【日本イポン】とか言ったな?じゃあ、お前も転生者なのか?」


アキラは、いまだに困惑していた。


「俺はロシア人のダニール・イワノフって言うんだ。いや、言っていた。やっと転生が分かる奴に会えたぜ」

「勇者殿!何を話しておるのか?その者は何じゃ?」


勇者の独り言に、国王が突っ込んだ。

だが、唯一無二の理解者を見つけたレオルドは、国王パトロンの言葉に耳を貸さない。



そしてアキラにも、誰の言葉も届いていなかった。


アキラを殺した男に、顔は間違いがない。装備も幾つか見覚えがある。

だが顔に傷が無い。


ドッペルゲンガー?双子?パラレルワールド?全部に可能性がある。


「俺を見た事がない?」


アキラが困惑するのも当然だ。


『メタトロン様!』

〔アキラよ。確かにソナタの記憶のある男と同じ様だが、奴は転生してからずっとココに居る。管理者として間違いないと言える。お前の世界には行っていない〕

『違うのですか?』


ただ、我に帰って周りを見ると、近衛兵達がアキラに明らかな敵意を向けている。


「謁見の間で剣を抜いては・・」


完全な反逆罪だ。

特に貴族でも近衛でも軍人でもない。例外的な勇者でもないアキラは、死刑か良くても終身刑だ。


ようやく届いたジーニスの声に、国王や皇太子妃まで居るのを思いだしアキラは、身体加速でソノ場を走り去った。



誰も、そのアキラを追う事は出来なかった。

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