第40話 王都での失踪
誰も、そのアキラを追う事は出来なかった。
近衛兵の一部が外に向かって走っていったが、見つける事はできないだろう。
「確か冒険者だと言っていたな?ギルドマスター、あの者は何なのだ?」
問いに答えぬ勇者を見限り、国王は冒険者ギルド長へとその問いを向けた。
「はい、陛下。彼はアキラと言うEランク冒険者です。女神の泉ギルドで、活躍していたのですが、同僚に陥れられ古代遺跡の転移魔法で戦場に送られました。そこの二人ジーニスとドルテアに救われて、事件が解決するまでココにて保護していた者です。」
「何っ!転移魔法とな?」
「陛下。その件は軍も冒険者ギルドと共に調査中でございます」
将軍が口を挟んだ。
国王は『後で報告を』と目配せで指示し、将軍が頭を垂れる。
二人のやり取りが終わったのを確認して、ギルド長が続ける。
「アキラを調査した結果、その過去は不明ですが勤勉で人柄も良く、力を振り回したり誇示する事もない様です。あの様な行動に出る者ではないと、私も感じておりました。見たところ【両親を】とか【殺された】とか申しておりましたから、その過去に勇者殿と余程の因縁があっての暴挙と思われます」
ギルド長がチラリと勇者の方に視線をやり、国王達も『確かに』と頷いた。
だからと言って、謁見の間にて国王の前で剣を抜いた罪が軽くもならないのは、封建政治の特徴だ。
「では勇者殿が、この騒ぎの原因なのですな?」
「いや、言った通りに俺はアイツに会った事もない。何かの間違いなのに、
賢者の問いを勇者が否定する。
原因となれば、勇者と言えどもお咎めなしとはいかないのだ。
「チッ!」
誰かの舌打ちが聞こえた。
「人柄や行動は兎も角、あの魔力は何なのだ?魔力の無い我々でも分かるほど空気すら歪んで見えたぞ!レオルド・フォルカスが勇者だと言うのなら、あの力は何なのだ?」
「確か、勇者殿が【遥かに膨大】とおっしゃっていましたな?」
賢者の指摘にレオルドは自分の発した言葉を思いだし、思わず口を押さえた。
「それに、あの二振りの剣。私の聖剣ギギリと同等か、ソレ以上と見ました」
近衛兵以外で唯一、剣を持ち込む事が許されていた皇太子妃が傍らに用意された聖剣を見ながら言った。
「では、あのアキラとかが真の勇者なのか?」
「恐れながら陛下。レオルド・フォルカスの勇者認定は、教会のお墨付きでございます」
国王の疑問に、ギルド長が反論する。
「よもや、あれが魔王では?」
将軍が呟いた一言が、謁見の間を凍りつかさせた。
「いや、アキラ君の行動は、決して人類に敵対するものではありませんでした。その貢献度は実績があります。更には、例の【雷】の時は王都に居た事も確認されております」
「そうですな。フォルカス殿の顔を見てからの私怨以外は、【勇者】にも【陛下】にも無反応の様にも見えましたぞ」
ギルド長の言葉に続き、賢者すら魔王説を否定しはじめた。
「しかしですな。既にアノ者は咎人。協力者にする訳にはまいりません。下手に魔族に協力されるより、【魔王】として早急に処分する方が後々の禍根を残さないのではないですか?」
「しかし、それでは・・・」
将軍の意見も、もっともであった。
理解者を失いたくないレオルドだったが、弁護に必要な言葉を持っていなかった。
更には
ただ、ジーニスとドルテアだけが握り拳を秘かに震わせていた。
「勇者レオルド・フォルカスとSランク冒険者に命ずる。あのアキラと申す咎人を処分せよ!これは勅命である。軍もこれを支援せよ」
国王が席を立って、三人に命じた。
【勅命】と付けられれば反論も拒否も許されない。
為政者には悪と思われようと、間違いだと分かっていなくてもやらなくてはならない事がある。
【呪いの雷】と【冒険者アキラ】の両方に気を揉むよりも、ハッキリと目の前にある危険要素。
つまりはアキラを優先的に排除しようとするのは当然と言える。
恐怖政治にも見えるが、【疑わしくは排除】が最高の危機管理だからだ。
三人はギシギシと歯ぎしりをしながら、国王に頭を垂れた。
「フォルカス殿。我々は今までの付き合いを元に、アキラ殿を探すとします」
「ならば、俺は冒険者の情報網を使って調査しよう」
城を出た三人は、無表情に言葉を交わした。
だが、両方ともソレを気になどしていない。
御互いに、相手の違和感を気にする余裕などないほど、内心乱れていた。
ジーニス達は、同胞の武器屋を訪れ、情報の共有を図った。
「御使い様を魔王に?我々としては喜ばしい限りですが、御本人の意図する事ではありますまい。直ちに本国への報告と情報の収集に務めます」
すぐには情報は集まらない。
武器屋を出た二人は、酒場へと向かった。
「やはり軍は二流だな。いくら衣装を変えても、あの角刈りと軍支給の剣をぶら下げてたら、バレバレだぜ」
城から代わる代わる二人をツケていた者達の素性を見抜いて、ドルテアはアクビをした。
「あ~っ!酒でも飲まねえとやってられねぇぜ」
「ああ。全ては、あの
調べれば、二人の下げている剣が、以前とは違う事は容易に分かる。
それに先程、勅命の支度金として国から金が渡されたばかりだ。
しばらく酒を飲んでいた二人だが、ただ憂さ晴らしをしていた訳ではなかった。
「ようよう~Sランク冒険者様よう~。王様からデカイ仕事もらったらしいじゃあ~りませんか?俺も咬ませてくれませんかねぇ~」
「タカりか?金なら使っちまったぜ。残りも今、飲んでるところだ」
やって来た冒険者からは、サフレインの香りがした。
「そんなに言うなら、財布の中身を見せてやる!」
ジーニスが、冒険者の襟首を捕まえて、自分の胸元へと引き寄せた。
「目撃情報を集めますと、城の窓が割られ、西に向かって大きな魔力の移動を感じた者が多数おります。しかし、本国側では消息を掴めておりません」
小さく囁く声は、酒場の雑踏に紛れて他者には聞こえていない。
「なっ?ここの飲み代も前払いしたからスッカラカンだろ」
ジーニスが、酔いに任せた大声で叫ぶ。
「なんでぇ!しみったれてんなぁ?」
「
呆れ顔で離れていく冒険者に悪態をつきながら、二人は壁に背を凭れ、小声で囁く。
「これで俺たちも御役御免かな?」
「けっこう楽しかったんだがなぁ」
「初めて海って行ったよなぁ。塩でヒリヒリしたっけ」
「俺、頑張って金を集めた!」
首に掛けた紐に、小さな金の玉がぶら下がっている。
「じゃあ、帰るかぁ?」
「やり残した事はないか?」
ドルテアが自分の手のひらを見つめている。
「やり残した事かぁ」
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