第41話 王都での転生者

誰も、そのアキラを追う事は出来なかった。


近衛兵の一部が走っていったが、レオルドはアキラの気配を追うのに必死だった。


「はい、陛下。彼はアキラと言うEランク冒険者です。女神の泉ギルドで、活躍していたのですが、同僚に陥れられ古代遺跡の転移魔法で戦場に送られました。そこの二人ジーニスとドルテアに救われて、事件が解決するまでココにて保護していた者です。」


国王とギルド長が会話をしている。


『【女神の泉】?確か、僻地にある観光地と聞いていたが・・・・チッ!』


アキラの名前に気を取られた瞬間にレオルドは、高速移動するアキラの気配を見失った。


ギルド長が続けている。


「アキラを調査した結果、その過去は不明ですが勤勉で人柄も良く、力を振り回したり誇示する事もない様です。あの様な行動に出る者ではないと、私も感じておりました。見たところ【両親を】とか【殺された】とか申しておりましたから、その過去に勇者殿と余程の因縁があっての暴挙と思われます」


ギルド長の視線をレオルドは感じた。


『いや、だから知らねえし』


下手に会話に入るのは面倒だ。


「では勇者殿が、この騒ぎの原因なのですな?」


賢者の言葉に、レオルドもカチンときた!


「いや、言った通りに俺はアイツに会った事もない。何かの間違いなのに、咎人とがびと扱いされてはたまらない」

『ボケてんのか?口先だけの老害が!俺は被害者だろうがぁ』


「チッ!」


誰かの舌打ちが聞こえた。


『今、舌打ちしたのは将軍か?部下の力不足を俺のせいにするなよ』


「人柄や行動は兎も角、あの魔力は何なのだ?魔力の無い我々でも分かるほど空気すら歪んで見えたぞ!レオルド・フォルカスが勇者だと言うのなら、あの力は何なのだ?」

「確か、勇者殿が【遥かに膨大】とおっしゃっていましたな?」


『そう!奴の力は異常過ぎる』


レオルドも、疑問に思った。


そもそも、【勇者】の称号を持って生まれてくるからレベルアップもココまでできるのであって、レベルが高いから勇者に成れる訳ではないのだ。


しかし、アキラが真の勇者と思われてはレオルドの立場も無い。

彼は思わず口を押さえた。


「それに、あの二振りの剣。私の聖剣ギギリと同等か、ソレ以上と見ました」


皇太子妃の言う通り、あの剣は凄い力を発していた。

魔力で渦巻く空気を、更に引き裂いていた様だ。


「では、あのアキラとかが真の勇者なのか?」

「恐れながら陛下。レオルド・フォルカスの勇者認定は、教会のお墨付きでございます」

『ヤバイ。無知な奴達の話が変な方に進んでいく』


国王の暴言をギルド長が否定してくれるのはありがたい。

だが、それもギルド長の保身的行動と言えなくもない。


「よもや、あれが魔王では?」


将軍が呟いた一言が、謁見の間を凍りつかさせた。


『いや、ソレはソレで色々マズイって』


アキラは異世界転生の唯一の理解者だ。

今までの苦難を分かち合える存在をレオルドは失いたくなかった。

それに、圧倒的魔力を持つアキラが魔王ならば、勇者レオルドが敵対しなければならなくなる。


『勇者チームを編成しても、勝てる気がしねえよ!』


幸い、ギルド長に加えて、あの賢者までも魔王説を否定しはじめた。


『勇者チームと言えば、勇者に賢者に魔法使い、聖女も定番だったっけ?老害め、自分も敵対する羽目になる事に、気が付いたか?』


レオルドの予想は当たっていた。

しかし、将軍もあきらめてはいなかった。


「しかしですな。既にアノ者は咎人。協力者にする訳にはまいりません。下手に魔族に協力されるより、【魔王】として早急に処分する方が後々の禍根を残さないのではないですか?」


「しかし、それでは・・・『ヤバイ、ヤバイ。コレじゃあ、後で和解もできないじゃないか!残る手は、奴を【真の勇者】に仕立てあげる方法だが、ソレでは俺はどうなる?』」


迷っているレオルドをよそに、国王が玉座を立った。


「勇者レオルド・フォルカスとSランク冒険者に命ずる。あのアキラと申す咎人を処分せよ!これは勅命である。軍もこれを支援せよ」


勅命は、一切の変更や妥協を許されない絶対命令だ。


『コレだから、社会主義とか封建政治は嫌だったんだよ。アキラは【日本イボンとか言っていたな?中国の一部だったか?確か民主主義でオタクアニメの国だったか?民主主義万歳だよ』


外国人の日本に対する認識は、こんな物だった。


かといって、ここで反論しても反逆罪に問われる。


レオルドはギシギシと歯ぎしりをしながら、国王に頭を垂れた。


色々と考えながら、レオルドは城を出た。


「フォルカス殿。我々は今までの付き合いを元に、アキラ殿を探すとします」


アキラを助けたと言う冒険者が話しかけてきた。

考えれば、彼等も貧乏クジをひいたものだとレオルドは考える。


「ならば、俺は冒険者の情報網を使って調査しよう」


適当な話をしながら、レオルドは今後の行動を考えていた。

二人の姿が見えなくなってから、歩き出した足取りは冒険者ギルドへと向かっていた。


ワーカフォリックと言う奴だ。


「ギルド・・・・確か【女神の泉】って所には、【聖女】とか呼ばれている巫女がいるんだっけか?勇者、賢者、聖女か。アキラの調査次いでに勇者チームでも結成しておくかな?』


ひとまずは行動指針を決めたレオルドはギルド本部へと向かい、【女神の泉】へ行く準備に取りかかった。


「長く王都に拘束されていたが、ようやく大手を振って外に出れるよ」

「勅命だからな。確かにアキラが向かう先として古巣である【女神の泉】は妥当だな」


レオルドと話しているのは、同席していたギルド長だ。


少なくとも公に冒険者であるアキラが魔王認定されなかったのは、冒険者の長である彼にとって幸いだった。


「お前さんにとって、王都でやり残した事も無いだろうしな」


レオルドは数年間、王都の守りとして拘束されていた。国の守りである軍や、権威のトップである賢者からの嫌がらせも、それ故だ。


「やり残した事かぁ」

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