第42話 王都での遺恨

「「やり残した事かぁ」」


偶然にも同じ言葉を発した二人の男は、翌日に冒険者ギルドで再会する事となる。


レオルドは旅支度を始めており、ドルテアは酒浸りで臭っている。


「勇者殿。少し外でお話が有るのですが?」

「あぁ、アキラの事か?」

「ドルテア?何の話だ?」


何も話されていなかったジーニスだけがキョトンとしていた。


荷物を手放したレオルドとドルテアの後を追って、ジーニスも急いで外へと向かった。


「勇者殿よ。あなたの存在自体が、アキラ殿をアノ様な立場にしたのだよな?」

「だから、本当に奴とは初めて会ったんだよ!俺の責任か?」


まぁ、レオルドにしてみれば、見に覚えの無い事だ。


「世の中には、存在自体が【悪】とされているものが有ると言うが?」

「まぁ、世の中は不条理に満ちているからな」


ラノベや物語りの中の悪役は、大抵が【存在自体が悪】とされている。

彼等にも家庭や信念、愛や友情が有るだろうにも関わらず。


「ソレが分かっているなら、【我々からアキラ殿を奪った】と言う訳で・・・・・・」


ドルテアが、いきなり抜刀してレオルドに斬りかかって行った。


だが、流石にレベルが高いレオルドは、ソレを寸前で回避した。

だが、


「オイオイ!その速度はSランク冒険者じゃ無いだろう?SSランク?いや、ソレ以上だぞ」


生まれながらのスキルが無ければ、SSSランクに近付く事は出来ない。


「ドルテア、何を?」

「問答無用!」


ジーニスの言葉も無視して、ドルテアは自らの上着を引きちぎった。

膨らむ肉体、豹変する容姿。

ソコには3メートル近い獣人の姿が有った。


「全力で来るのかよ?」


レオルドも一部を獣化させ、対応しようとする。

だが、ソレは装備に隠れた部分や、頭部の一部だ。

見ようによっては、兜と鎧に見える。

まだ【人間】に見える範囲を保っていた。


ランク下には目にも止まらぬ攻防を繰り返す二人だが、ドルテアの剣は、いまいちレオルドには届かない。


ドルテアは、幾つもの傷を負っているが、みるみる再生して怯む気配はない。


「ドルテア相手に流石は勇者と言ったところか。しかし、これが【やり残した事】とはなぁ」


ジーニスにも判らぬではない。

アキラとの毎日は、彼の人生にも鮮明に刻まれている。


「遺恨か!」


そう口にすると、ジーニスの肉体が霧になって消えていく。


そして、ドルテアと戦うレオルドの後方から、幾つもの手と剣が迫った。


「もう一人居たか!」


回避はしたが、何本かの剣がレオルドの背中に刺さっている。


間合いをとったレオルドの前に、ドルテアと並ぶジーニスが姿を現した。


「俺も仲間に入れろよドルテア」

「俺より先に一撃をいれやがって!」


悪態をつくドルテアだが、口元は笑っていた。


「貴様ら獣人とエルフ系じゃ無いな?」

「問答無用と言った!」


ジーニスの剣は、既にレオルドから抜けており、傷口も再生しはじめている。


再開された戦いは勇者劣性になった。


流石に二人相手では勇者と言えども防ぎ切れず、ドルテアの剣を防ぐので精一杯だ。

だが、ジーニスの小剣では致命傷になっていない。

装備の下には、強固なドラゴンの鱗が守っている。


業を煮やしたジーニスが、実体化して武器を大剣に持ち変えて斬りかかる。


それを避けようとした勇者に、若干のスキができ、ドルテアの剣が勇者の顔をかすめる。


「浅いか!」

「テメエ、痛てぇだろうが!」


鱗が薄い顔を斬られては、流石に声が出る。


「ドルテア、マズイぞ!」


ジーニスの声に視線を動かせば、冒険者達は私闘だと思って傍観していたが、彼方から百人近い軍の兵士が走って来ている。


「クソッ!これまでか?」


ジーニスがレオルドを牽制している間にドルテアが逃げ切り、残るジーニスは、霧化して姿を消した。


「奴等、魔族か?マジでアキラが魔王みたいに見えてきたな」


魔族と冒険者達ハーフの明確な境目を示す事はできない。

【勇者】などと言われているが、肉体的には9割り以上が魔族と同じなのだ。


近付く軍隊に、レオルドは獣化を解いた。

彼は隠蔽魔法を使わなくとも人間の姿に成れるのだ。


「レオルド殿、この騒ぎは何なのですか?」

「いや、ちょっと彼等と方針の相違がありまして、こじれてしまったんですよ」


ここで、彼等を魔族扱いしてしまっては、アキラとの和解は望めない。

可能性がわずかでも、残しておきたいレオルドだったのだ。


「何があろうと、勅命を受けた同士が争うのは困ります」

「確かに。申し訳なかった」


頭をかいて謝るレオルドを見て、話していた軍人が気が付いた。


「レオルド殿、お顔に傷が!」

「あれっ?なぜ再生しないんだ?」


全ての傷を瞬間再生し、腕を切り落とされても数秒で生え代わるレオルドの肉体に、消えぬ傷が残っていた。


左目の上下にクッキリと。







◇◇◇◇◇◇



「ドルテア、その剣は!」

「ああ。例の武器屋で手に入れた魔剣さ。再生阻害の能力が有るから奴にでも致命傷を負わせられると思ったんだが、浅かったな」


既に、王都の外まで逃げていた彼等は、森で一息ついていた。


しんがりを勤めていたジーニスは、レオルドの顔の傷が再生していないのを見ていたのだ。


「そいつは、お前にも危なくないか?」

「勿論だ。だからこそ、他の奴に渡らない様に確保しておいたのが、こんな形で役に立つとはな」


ドルテアは対勇者用に、この魔剣を用意していた訳では無かった様だ。


「じゃあ、取り合えず帰るか?」

「そうだな。勇者の強さとか、いろいろと報告は必要だしな」


二人は西へ向かって歩き出した。

戦場を抜けて、その先の祖国へと。

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