失踪の後 編
第43話 失踪の後に女神の泉にて
アキラの追跡調査を名義に、レオルドは【女神の泉】と言う町に来ていた。
当然、軍の尾行も認識している。
ここは戦場から、かなり離れた田舎町で、現在では観光地として存続していた。
宗教的な遺跡もある場所だが、教会の本拠地も今は別の国に移されている。
「あんたも、アキラを調べに来たのか?だが彼を悪く言う奴に話す事は無いぜ。【魔王】だなんて以ての外だ。ちゃんと教会のお墨付きを貰って冒険者に成ったんだからな」
冒険者同士の争いで、既に軍と冒険者ギルド本部の調査団が常駐している上に、軍が【魔王容疑】を吹聴していたらしい。
「謁見の間でも最初は魔力を感じなかったし、隠蔽魔法で姿を変えられてたら、地元の協力無しじゃあ、探し出せないか」
レオルドは、せめてアキラと地球の話がしたかったのだが、軍人が徘徊していては、それも無理っぽかった。
ギルド本部で貰った調書を元に、アキラが出入りしていた武器屋にも行ったが、既に店じまいしていた。
「ここも、軍と本部の出入りで逃げ出したか?」
冒険者ギルドでも『全て本部と軍に話した』の一点張りで、取り付く島もない。
「確か【聖女】が居るんだっけな」
情報源を見つけられないままギルドを出たレオルドは、隣にある教会に視線を移した。
「遅い!遅過ぎるわよ勇者!せっかくラノベ知識のある男を転生させて勇者にしてあげたのに、今ごろ来ては遅すぎるのよ!」
すぐに拝謁が許され、現れた聖女の言葉がコレだった。
確かにレオルド・フォルカスことダニール・イワノフは、祖国では珍しく日本のラノベを読みふけっている青年だった。
勿論、翻訳された物なので、その種類と数は限られている。
寒くて、物不足で自由のない社会で、ラノベの中は楽園そのものだった。
ラノベの新刊を買いに行く途中で、ビルの壁に張り付いていた氷塊が降ってきて、彼は世を去ったのだ。
だから、転生してからの彼の対応は早かった。
知名度の少ないスキルやレベルアップを駆使して、冒険者のトップに躍り出た。
だが、想定外だったのが、強者に対する国の横暴さと自由度の無さだった。
「Sランク冒険者以上になったら、国から出られなくなるなんて」
「だから15歳の時に、地元の教会で【勇者】スキルを与えた時に、すぐにココへ向かえば良かったのよ。【聖女】の存在も、その時までに知っていたでしょう?」
勇者パーティに必要なメンツは前世でも知っていた。
確かに、地元でも【聖女の居る遺跡、女神の泉ツアー】と言う旅行が流行っていた。
逆に【賢者】が実在すると知ったのは、Sランク冒険者になって、王都に行ってからだ。
「あの時は、レベルアップが先だと思っていたので」
「仲間と共に苦難を乗り越えてのレベルアップが定番でしょうに?」
「確かに、そうだけど・・・」
レオルドは弱いままでの旅立ちを恐れて、身近でのレベルアップを優先したのだ。
そのうちに周囲に誉められ、おだてられて、更なるトップを目指してしまったのは、学生時代のスポーツクラブ時代を思い出してしまったのだろう。
「取り返しがつかないそんな事よりも・・・」
「女神の計画を【そんな事】?・・・そうね。もう
「次って何だよ?俺は御払い箱か?」
「原因は、あなたが調子にのって
「負け戦前提って、どういう事だよ」
聖女は、溜め息をついて呆れ顔で【社会の輪廻】についてレオルドに話した。
「今回のあなたは最後まで人間を守って、ソレなりに頑張る配役だったのよ。子供も作って【希望の光】としてソコソコ良い人生を送るはずだった。でも、アキラを敵視させたせいで全てが台無し。魔族に完全敵視されたあなたは、核兵器で殺させる展開が待っているわ」
魔族側では、勇者が現れても【呪いの雷】を使うかどうかは迷っていた。
だが、ジーニスとドルテアの報告により【勇者抹殺断行】へと移行している。
レオルドの行為以後、御使いであるアキラの消息が掴めない事に、共和国全体が不安を覚えたのだ。
【女神様に見捨てられる】と。
「そもそも、あの【アキラ】って、何なんだ?俺と同じ転移者らしいが、魔王じゃないならラノベでの配役はどうなっているんだ?」
膨大な魔力と武器。
中には【彼こそ真の勇者だったのに】と豪語する者まで居る。
「彼は【隠者】。女神の多大なる加護を受けた中立にして不可侵な存在。人間にも魔族にも有益な存在。あなたが勇者として立たなければ勇者代理として。魔族が劣勢の時には魔王として立つ予定だったけど、今は完全に【隠者】として引き込もってしまっているわ。幸いにも全体的なスケジュールには問題ないけど」
「そんな重要な役割なら、勇者である俺に早く教えてくれないと・・・」
「だから、ソレはセオリーを無視したアナタが原因なんでしょうが?」
「いやアイツが、あんな暴挙に出なければ済んだんだ」
他力本願でエゴイストなレオルドは、そもそもの時系列を無視して、全ての不満をアキラに向ける事で、自分を正当化しようとした。
「奴は、アキラは何処に居る?どうしたら奴に勝てる?」
「この世界で絶大な力を得たアキラには誰も勝てない。それが【この世界の摂理】として成立してしまっているから」
「ならば、ここに来る前の奴を倒せばいい。聖女なら、いや女神なら、時間を遡る事もできるだろう?」
「異世界である地球の時間軸に食い込む事はできるけど、ココに転生したアナタは一切のスキルや加護、レベルを失って死ぬわよ?」
中世の人間にはタイムトラベルの概念は無い。
この発想は、彼がダニール・イワノフという現代地球人であったからに他ならない。
「地球でも、この剣で倒せはするんだろう?どうせ、この世界でも殺されるなら、奴も道ずれだ」
レオルドは左目の上下にできた傷を触りながら、憎しみを顕にした。
――――――
この話から、第一話へと繋がります。
ニワトリが先か?ニワトリの卵が先か?
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