第44話 失踪の後のデルタファイブ

御使いであるアキラに因縁の深い共和国のデルタファイブでは、司祭長のベンザイ・ディーヴァが二人の剣士から直接に話を聞いていた。


「ガードガとヴィダには落ち度が無いと判断します。むしろ、よくぞ一太刀刻んだと誉められるものです」


ガードガとヴィダとは、ドルテアとジーニスを演じていた者達の事だ。


「連絡の後に、各都市に通達を回して、更にはデルタファイブから面識のある者を調査に回してもいるのですが、いまだに報告はありません」

「我々は御使い様に見捨てられたのでしょうか?」


ベンザイ・ディーヴァは目を閉じて頭を左右に振った。


「そうではないでしょう。むしろ、本来の立ち位置になられたと見るべきだと思います。例の【呪いの雷】も、そのままに残されているのが、その証でしょう」


司祭長の判断に、二人は胸を撫で下ろすが、その不安は既に共和国全体に蔓延していた。


「とはいえ、くだんの【勇者】をそのままにしておくのはどうかと思う。力も二人掛かりならば何とかなる様だし、いざとなれば【呪いの雷】を使う事も躊躇すべきではないな」

「司祭長のおっしゃる通りと思います。何ならば、このガードガ自ら勇者を道連れにする栄誉をお与えくだされば幸いです」


ドルテアことガードガなれば、爆弾の扱いも聞いている。


「件の勇者も、所在を調べさせているので、その際は汝に任せましょう。【女神の泉】で消息を絶ってから、行く先不明のままなのでね」


司祭長の許可に、ガードガが頭を下げた。


「それで、御使い様の行く方を探していると言うお話でしたが、進捗の方は?」


ベンザイの顔が曇る。


「御使い様の側仕えをしていたサリアを筆頭に、広範囲を調べに行ったが芳しくはない。幾人か消息を絶っているので、探されるのを嫌がっておられるのかも知れぬ。調査は中止すべきかのう?」

「近くの都市にも現れないとなると、本当に【隠者】として見守って下さるおつもりなのかも知れませぬな」


ヴィダも、可能性の高さに首を縦に振った。


「ともあれ、我々も国内を回って御使い様をお探しいたしましょう。人間の駆逐は順調に無理なく進んでいる様ですし」


【呪いの雷】テスト以来、各国は首都の守りを重視し、出入りを制限し始めた。

結果として最前線は手薄となり、共和国の侵攻速度は早まっている。


降伏する国や地域も出たが、【人間の減少】が目的の彼等に捕虜をとる意味はなく、ひたすら殲滅されつづけた。


高い城壁に守られた都市部は兎も角、農産部は防御も儘ならない為に蹂躙され続けた。

その結果として都市部の兵站がままならず、陥落する要塞都市が増え続けている。


利便性を追求した都市形成が、その命綱を守りきれずにいるのだ。


「許可しよう。勇者の足どりも掴めぬ今、そなた達の様な上級騎士が前線に出向く必要は無いしな」


司祭長の同意を得てガードガ達は、その場を去った。


「御使い様を見付けたら、どうするつもりなのだ?ガードガ」

「御使い様が隠れておられる以上、報告するなど不敬だろう。身の回りの御手伝いをして暮らしたいと思っている」


匂いで探すガードガの方が、いくらも分が良い。


「俺には知らせてくれるよな?」

「御使い様が人手を望めばな」


聞き返さぬとも、ヴィダも同様な行動をとる事は、御互いに分かっている。


暗黙の了解として含みのある笑いを交わして、二人はデルタファイブを後にした。


神殿に残ったベンザイは、二人を見送った後に、お茶を飲みながら呟く。


「サリアに続き、どちらがアキラ様の元にたどり着けるか、楽しみではあるな」


実は女神とも繋がっているベンザイ・ディーヴァもサラスヴァーティも、アキラの所在などリアルタイムで認識しているのだ。


「まぁ、多少の変更はあったが、パラドックスも生じずに進行している。このまま折り返し地点まで何も事は起きないだろう」


全ては概ね【社会の輪廻】のスケジュール通りに進んでいた。

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