第45話 失踪の後の人達
全ては概ね【社会の輪廻】のスケジュール通りに進んでいた。
勿論、アキラの
レオルドとの争いも、レオルドが女神の泉に来なかった事も、全ては仕組まれていた事だ。
【女神だから嘘はつかない】などと盲信してはならない。
物語のキャラクターは作者の指先で。
人間は女神の手の平で踊らされているだけだ。
神への信仰の是非すら、万能の神ならば操る。
共和国の都市から外れた森の中に、小さな小屋があった。
多くの食肉は、都市内で飼育されているが、一部の種類は野生の物を狩って利用している。
エアリア達は、ほとんど食事をしないが、成長期には幾らかの食事を必要とするためだ。
その様な野生動物を狩る人々が、例外的に都市外に居住を許可されている場合があるのだ。
「ゼスト様、御食事の用意ができました」
「いつもすまないなミア」
一見、普通の獣人の様に見える男女だが、二人とも毎日の様に食事をしていた。
他に人など居ないので、奇異に思う者はいないし、エアリアだからと言って、毎日の食事ができないわけでもない。
夫婦と言うより主従関係に見える二人は、勿論、寝所も別だ。
定期的に町へも出入りはするが、ほとんど森で暮らしている。
「今日のシチューは上出来だな」
「教えていただいた料理を試行錯誤した結果です。お誉めいただいて幸せです」
あくまで一線を引いた関係を二人は貫いていた。
美味しそうに食事をしていた男が、ふと、手を止める。
「文字通り、嗅ぎ付けられたか」
「どうなさったのですか?ゼスト様」
ゼストはミアの方を向いて、溜め息をついた。
「お前同様に、側に居た獣人に居場所がバレたらしい」
「我々は仕えた方の臭いを忘れませんから」
ミアの返事にヤレヤレと首を振る。
「俺の見知った奴だ。お前は何も喋らなくて良いからな」
「はい」
しばらく食事を続けていると、ドアを叩く音がした。
「どなたかな?」
扉の前に立っていたのは、一人の
人狼は出てきたゼストを見て少し戸惑ったが、鼻をヒクつかせ、咳ばらいをしてから口を開いた。
「じ、実は森で迷ってしまって、この美味しそうな匂いに誘われてココへ辿り着きました。食事もしておりませんので、できれば少し分けてはいただけないでしょうか?」
「お困りですね?あまり量はありませんが、どうぞ中へ」
エアリアは基本、食事を必要としない。
勿論、両方が【嘘】だと分かっていてのやり取りだ。
話を聞いてミアが、予備の食器と椅子を用意し、シチューを器によそった。
「肉とミルク、野菜の匂いがまろやかに溶け合って、実に美味しそうだ」
ひと口シチューを食した人狼は目を見開いて、無言で食べ進めた。
小さな器は、あっと言う間に空になっている。
「お陰で、ひと心地つきました。御礼に、何か御返しがしたいのですが?」
「いえいえ、お構いなく。困った時は御互い様です。では、近隣の都市まで御案内しましょうか」
ゼストの言葉に、人狼は慌ててテーブルの端を掴んだ。
「いいえ!是非とも御礼を!」
首を左右に振って、絶対にひかない姿勢だ。
溜め息をつくミアと苦笑いをするゼスト。
「じゃあ、外に伐採木が有るので薪割りまでやってもらえますか?」
「はい!喜んで~」
人狼は笑顔で立ち上り、玄関へと向かった。
「ああ、自己紹介がまだでしたね。俺はゼスト。こっちは家事担当のミア。あなたの寝所も用意しますので、薪割りは今日中じゃなくて良いですよ」
玄関で立ち止まった人狼が、もの凄い勢いで尻尾を振っている。
「じゃあ、よろしくお願いしますねドルテアさん」
END
長らくありがとうございました。
ラノベからの新世界 魔王編 二合 富由美 @WhoYouMe
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