第30話 王都での証明

一同はギルド本部へと入っていった。


受付でギルド証を使い本人確認をして、更に奥へと案内される。


所属と名前のみが刻まれたギルド証は、本人がかざさないと内容の照会ができない様になっている。

ギルドの人間による内容改竄かいざんの事件があった為だ。


広めの会議室に案内された彼等だったが、扉は施錠され、ドアの外には軍人が立哨している。


軍の士官が、出てきたギルド長に詰め所での調書の写しを見せていた。


「これは、本当なのかね?冒険者が同僚を騙して罠にはめたと言うのは?」

「コイツが目立ち過ぎたんだ。女どもの人気や仕事を独り占めしやがって。俺は嫌だったがザックの奴が【殺すんじゃなくて封印するだけだから】って言うから」

「嫉妬じゃあねえか!しかし封印ねぇ?一生出れなきゃあ殺人と変わりないだろうがぁ」


答えたCランク冒険者は論破され、半泣き状態で踞っていた。


「封印の魔法陣と思っていたのが、実際には転移の魔法陣だったと言う訳だな?」

「転移?封印じゃなかったのか?あの小娘め騙しやがって!」

「小娘?」


アキラは、ベンザイに聞いていた工作員の事を思いだし、ギルド長とCランク冒険者との会話に加わった。


「確かに武器屋の店員が居ましたが、脅されている様でした。行き付けの店の店員で【東方神器】って店です」

「商人が得意先を売るとは思えない。生きていれば証人になってくれるでしょう、口封じされていなければ良いが」


アキラの言葉にジーニスが付け加える。

確か、武器屋には護衛も居たし、エアリア達が見殺しにするとも思えない。


ただ、Cランク冒険者だけは、彼等をそそのかした小娘が完全に被害者扱いされている事に疑問をもっていた事だろう。

しかし、【得意先を売るわけがない】と言われると、反論の余地がない。


「確かにアキラ殿が行方不明と言う報告は伝わっている。彼がアキラ本人であると言うのは、ギルド証と加害者の者達が証明しているし、魔族領の奥で見つかったと言う戦場のSランク冒険者の証言も、ある意味で証拠と言えるだろう。ギルド本部としては【女神の泉】のギルドと協力して、加害者の捕縛と処分をしたいと考えている」


ジーニス達が戦場に居た事は、軍が証明してくれる。


罪状は殺人未遂。

ギルド長の裁決に、一同は納得して頷いた。


「その調査に軍部も参加させて欲しい。稼働した転移魔法陣が有るなら調査の必要性がある」

「軍としては、転移魔法陣を放置もできないでしょうからな」


後ろから攻撃されるハメになる転移魔法陣を残しておくのは愚策でしかない。

利用できないにしても破壊しておく必要はあるだろう。


「俺は、どうしたら良いんですか?」

「アキラ殿は事が片付くまで、この王都に居るのが良いと思います。我々も警護できますし、他の残党との遭遇にも対処が早い」


アキラの疑問には、前もって用意していた話をドルテアが口にする。


「そうだな。最終的にギルド本部で裁判とかになった場合、被害者として必要だからな」


その案にギルド長も同意した。



ギルド受付で、ギルド銀行に預けてある金の一部をおろして、アキラ達はギルド本部を出た。


宿屋や普通の自宅に金品を置いておけるほど、この世界のセキュリティは充実していない。

ましてや【魔法】と言う力を持つ者が集まる場所では意味がない。


本人しか使えないギルド証を使った預金システムが冒険者の財産を守る数少ない手段だったのが、アキラには幸いした。


『ラノベでは、こんなシステムを持っている作品は少なかったな』

〔それだけ常識はずれな作品が多かったという事だろう〕


久々のメタトロン様の登場だった。


「先ずは、宿屋の確保ですねアキラ様」

「ドルテアとジーニスの家は無いのか?」

「ドルテアは既婚者ですが、身内や知りあいにはバレやすいので【証人の警護】として帰宅しないでおいた方が良いでしょう」

「俺達は、あと数年は戦場から離れられない契約になっていた筈ですから、警護でも無ければ戦場へ戻らなくてはならないんですよ」


記憶に残るドルテアとジーニスの情報を、二人が解説する。


自分の事だか、他人事だ。


話によると、彼等は死後に捕食するので、昔からの記憶や直前の記憶は残りやすいが、近年の記憶は定着が不十分で、取得が難しいらしい。


肉体的に差異がなくとも、会話の内容によっては正体が知れてしまう場合がある。

用心の為に、元となった冒険者の種族は、外観が似ている獣人とエルフの系統を選んではいるが。


〔軍部の人間で、二人を怪しんでいる者が居る。できる限り接触は控えさせよ〕

『分かりましたメタトロン様』


ギルド本部の宿泊施設も考えたが、根掘り葉掘り聞かれてアラが出るのもマズイ。


「少し離れた場所に、高級ですが面識の無い宿屋があったはずです。いや、娼館だったか?」

「【黒猫亭】の事か?基本的には娼館だが、密談にも使われるので女を呼ばないのもできる筈だ。まだAランク冒険者の時に貴族の警護で行った記憶がある」

「そこで良いんじゃないか?魔族領あっちで貰った金塊もあるし」


二人の話にアキラも同意する。


あやふやな記憶を頼りに町を行く三人を、ギルドの情報部がツケているが、彼等はソレを無視した。


戦場帰りの男三人が娼館に出入りするなど、珍しい事でも無いだろうから。


「何はともあれ、今日は柔らかいベッドで寝れるな。ジーニス達は女を呼んでも良いぞ」

「滅相もない。アキラ様を御守りする為に、酒まで控えているのですから」

「そう言えば、ドルテアは飲ん兵衛だったな。戦闘中は勿論、国王のパレード警備の時も飲んでいたのだろう?」

「ここには、勇者と見られている男も居るのだ。飲んでいては遅れをとってしまうだろう」


彼等の実力は勇者に匹敵すると考えられているが、逆に言えば酔っていては負けるかも知れないと言う話だ。


日本の神話では八俣の大蛇が。インドの神話ではアスラが酒に酔って遅れをとった話がある。


「我々が隣室にて交代で起きておりますので、アキラ様は、ゆっくりと御休み下さい」

「ソレがお前達の仕事なら、そうさせてもらうよ」


上の者が、無理を言って部下の後悔を生んではいけない。

アキラは、二人の言う通りにした。


「側仕えの居ない寝室は、久しぶりだな」


移動中の農村などでも、従者の二人が同席していた。

建物の作りは華奢きゃしゃだし、部屋数も限られる為だ。


ただ、ここは密談にも使われるらしく、隣室の声が聞こえない様に、壁も窓も丈夫に作られている。


窓に鉄格子まではめられているのは、娼婦の逃走避けか?

料金を踏み倒す客を防止する為か?


用心の為に能力を隠すコートを上に掛けて、アキラは久々の熟睡を堪能した。


そして、王都での初めての朝を迎えた。

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