王都 編
第29話 王都での再会
ほどなく、アキラ達はグラシア国の王都へと到着した。
かつては戦場だった名残で、この都市も高い防壁に囲まれている。
その朽ち果て具合が、長い年月の流れを想像させてくれていた。
「防壁の作りが、所々で違う様だな?」
「流石はアキラ様。この都市は長い歴史の中で、人間とエアリアの双方が交互に要塞として使用しているので、修復と改修が繰り返されているのです」
「そうか、そういう歴史が有るのか。ただ、【エアリア】ではなく【魔族】な!間違えるなよ」
「失礼致しました」
既に、人間領に深く入っている。
どこに耳があるか分からない。
門で冒険者証を提示して、通行料を払った。
「アキラ様。先ずは軍の詰め所に行かせて頂いてもよろしいでしょうか?【救助者】の報告をしないと、敵前逃亡の罰を受ける事になりますから」
「場所は分かるのか?ジーニス」
「はい。ドルテアと私の種族は、捕食した生物の姿と記憶を取得できるのです。ただ、記憶は完全ではありませんが、二人の記憶を合わせれば、大丈夫でしょう」
二人の従者は、記憶の擦り合わせをしながら、都市の中央付近にある建物へと進んだ。
「すみません。ここには少ししか居なかったので、手続き方法を忘れてしまったのですが、戦場から要救助者を連れ帰った場合は、どうするんでしたっけ?」
「あぁん?これだから冒険者はぁ!」
受付士官の一人が、面倒臭さそうな顔で、書類を幾つか出してきた。
「で、要救助者って怪我人か?だったらなぜ野戦病院で・・・」
「いいえ、Eランク冒険者です」
「Eランク?一般人じゃないか!なんで戦場に?いや、コッチの部屋で詳しく聞こう」
軍人以外で、対魔族戦に参加できるのは、Sランク以上の冒険者だけだ。
それ故に、Aランク以下は【一般人】扱いにされている。
受付士官についていき、奥の会議室で三人は供述をはじめた。
「要約すると【女神の泉】で冒険者の同僚に騙されて、古代遺跡の魔法陣で戦場の魔族側深部に跳ばされたと。そこでチームが壊滅したドルテアとジーニスに助けられ、激戦で危険な本陣側に行くよりはと遠回りして戦線を離脱し、直接に王都まで報告に来た訳だな?」
士官の話に三人が頷く。
あくまでアキラ側から見た主観でしか話していない。
敵側内側に突出してしまった彼等の位置から、後方にあたる最前線に戻るよりは横向きに移動して戦闘の少ない地域を抜けるのが無難だ。
魔族の行動は、侵攻重視よりも兵士の撃退を主にしていた為に、人間の少ない場所には魔族も少ない。
「はい。【一般人の救助】は最優先事項なのでやむなく戦線を離脱しました。それに、この件は冒険者ギルドにも通報が必要ですから、ギルド本部もある王都の方が合理的と考えました」
「それで、一ヶ月ちかく掛かったわけか?確かにな。本陣や他の都市では二度手間に成りかねないからな」
士官が事の異例さにコメカミを押さえた。
「しかし、転移魔法陣かぁ。確かに、遺跡の研究では転移や封印の魔法陣ではないかと話をされているが、稼働する物が存在していたとは、要報告だな」
そんな話を聞けば、ある点で対魔族戦に応用できると考えるのが軍人である。
他の士官を呼び、書類の複写や伝令を走らせて、受付士官は再びアキラ達の元へ戻ってきた。
「で、アキラ君。これからギルド本部へ行くんだろう?我々も同行して良いかな?その魔法陣の情報を詳しく知りたいのでね」
「我々が同行しますが?」
「証人として、君達の同行は必要だろうが、これは軍部にとっても見逃せない案件だからな」
ドルテア達冒険者は、軍部の支援部隊としての意味合いなので、規律は甘いが責任と権利が薄い。
アキラは、ドルテアとジーニスにアイコンタクトを取ってから頷いた。
部屋に来た士官の一人が、じっとドルテアの方を見ていたが、何も言わずに立ち去ったのが多少気になる。
「では、アキラ君達は先に出てくれ。我々もスグにギルド本部へと向かう」
これで、ドルテアとジーニスの敵前逃亡の罪は免れた事になる。
アキラ達が軍の詰め所を出た少し後に、受付士官を含む数人の軍人が後を追っていく。
残された士官達が、その姿を見送り、思い出した様に会話を始めた。
「あの会議室に居たのはドルテアだよな?」
「確かに、ドルテアの筈だが?」
「いや、装備の付け方も変わっているし、何より俺との約束を忘れているなんて・・・」
「だが、ギルド証は本人以外では認識しないんだろう?」
「確かに、そう聞いている。まさか・・・・」
見送る男は、思い出した様に資料室へと走った。
Sランク以上の冒険者を使うだけあって、冒険者ギルドと軍の詰め所は、さほど離れてはいない。
冒険者ギルドの周辺には、多くの冒険者達がたむろしていた。
やって来たアキラ達を見て、何人かの冒険者がざわめきたった。
アキラ達は【最前線に集められているSランク冒険者の帰還】に驚いているのだろうと思っていたが、そうでない者も居た様だ。
「おい、アキラ!なぜオマエがココに居る?」
「マズイぜ兄貴、騒ぎを起こしちゃあ」
「アイツの口を塞がないと、もっとマズくなるだろう!」
アキラの行方をふさぐ三人の冒険者。
二人は剣を抜いている。
「お知り合いで?」
「いや、覚えはないが・・・」
ジーニスの問いにアキラは必死に思い出そうとする。
恐らくはCランク冒険者だろうが、Cランクの男達と絡んだ記憶が少ないのだ。
「どうやって、あの封印から逃げたか知らないが・・・」
「あぁ、ザックと一緒に俺を罠にかけた・・・」
そこまでアキラが言いかけた時に、二人の冒険者が剣を振りかざして走り出した。
周囲の冒険者達も、事の尋常でない状況に声をあげた。
次の瞬間に、アキラの後方に控えていた二人の姿が消える。
いや、瞬時に走りだし、斬りかかってきた二人の肉体を両断してしまった。
「無礼者が!」
ドルテアが睨むと、残る一人は腰を抜かしてなみだ目になっている。
当然、CランクとSランクでは戦闘力に雲泥の差がある。
ましてや中身はソレ以上なのだから。
「殺し合いだぁ~」
「いや、正当防衛だろ!」
周りの冒険者達が騒ぎ、ギルド本部からも職員が出てきた。
後方から歩いてきたグラシア士官達も駆け寄ってきた。
「これは、どう言う事だ?」
「アキラ殿を罠にかけた者達が偶然にソノ姿を見付けて、口封じをしようとしていたらしい。剣を抜いたのも、斬りかかってきたのも、コイツ等が先だ」
「あぁ、正当防衛なのは見えていたから分かるが」
Sランク冒険者ならば、戦闘不能で止められたんじゃないかと言うのが、士官の思いだった。
偽装魔法が解けて、正体が
獣化した姿を一般人に晒すわけにはいかないのた。
「中で話をうかがっても?」
「ああ。勿論だ」
「我々軍部も同行しよう」
「関係者なのですか?」
「無関係ではないし、この件の目撃者でもある」
ギルド職員がアキラ達と生き残ったCランク冒険者に声をかけ、軍の士官が口を挟む。
一同はギルド本部へと入っていった。
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