第28話 魔族領からの帰還
エアリア達にとってアキラは人間側でもエアリア側でもない、神側の存在だ。
その行動と判断は、彼等の思想や存在の上方にあるので、一切の拒否や意見を挟む事はない。
翌日には、人間の国グラシアの首都近くにある転移陣に繋がる転移陣の、ある都市へと馬車で移動し、説明を受けていた。
「ところで、この転移陣は古代の技術だと言っていたが、人間側への侵攻には使わないのか?」
「仰有る事は分かりますが、これらの転移陣は移動の人数が限られる上に、消費する魔力が半端ではありません。魔石に加えて利用者の魔力をも大量に消費するので、密偵の派遣位にしか使えないのです」
「コスパが悪いのか!俺が居れば魔力量には問題がないって話だったのか」
アキラの無尽蔵な魔力だから、疲労感も魔力切れもなかっただけだったらしい。
「こす?こすぱとは?」
「何でもない。専門用語だ」
ベンザイが首を捻る。
地球での略語は、ここでは説明と理解が難しい。
「御使い様に護衛など無用と存じますが?露払いの為に従者をお付け致したく思います。冒険者登録証も持っておりますので、冒険者チームの部下として御使い下さっても結構です」
「そうだな。チームが無かったのは、楽だったが不都合もあった。俺は気軽に生活がしたいだけなんだよ。気兼ねなく使える奴は助かる」
二人のエアリアが、アキラの前で膝をつく。
外見は偽装できているし、コートで能力も隠せている。
だがアキラの超感覚の前では丸裸だが。
「ワーウルフとヴァンパイアか?」
「流石でございます。サリアはお連れになりますか?」
「いや、側仕えを持つ冒険者など居ない。戦闘力も低いし、連れて回れば目立つだけだしな」
後ろに控えていたサリアの耳と尻尾が項垂れる。
「今まで御苦労だった」
「御言葉をいただけ、恐悦至極にございます」
言葉とは裏腹に、彼女は意気消沈している。
「この二人には転移陣の場所をマスターさせておりますので、お好きな時に、またおいで下さい」
頭を下げるベンザイ達を見ながら、再び視界が光に満ちて、アキラと従者二人は、転移陣で移動をした。
「暗いな」
「今、灯りをつけます」
ワーウルフが指先に小さな稲妻を起こして明かりにした。
空気は澱んでいるが、爆発の危険性は無かった。
蓄えていた魔力で、水中であろうと数時間の生存ができるレベルの者達だ。
そして、やはり転移陣のある場所は、古代遺跡として埋もれていた。
元は魔族の領地だった所にあった建造物だが、存在意義も使い方も分からず、魔力量も足りないので起動もしない。
結果として取り壊されたり、森の一部として埋もれていたりする。
開拓が進む人間側だが、取り壊しの労力が見合わない場合は、放置されたりするのは有りうる事だ。
ここぞとばかりに【自然保護】などと言う偽善用語で、無力を覆い隠そうとするのだ。
遺跡からの脱出方法は簡単だった。
ヴァンパイアの水魔法で、小さな穴から開けて、徐々に大きくする事で、埋もれた遺跡からの脱出は成功したのだ。
ピンポイントで地中の水分を奪い、脆くなった場所を高圧水流で穿っていく。
ソレを繰り返し、小さな穴が外まで開けばソレを排水口にして土砂を外部に排出して行ったのだ。
「一応は、塞いでおきましょう」
脱出後には、同じく水魔法を使い、開いたトンネルの天井を崩した。
ワーウルフ。冒険者登録の名前は【ドルテア】と言っていた男が、地図を広げて現在位置をアキラに見せた。
「御使い様。この転移陣からだと王都までは三日ほど。途中に幾つかの村があります」
勿論、一般人の速度ではなく、彼等の速度での話だ。
「
【ジーニス】と名乗ったヴァンパイアが、練られた案を提示してきた。
彼等の姿と冒険者証の出所が、予想できるし、全ての計画が事前に組まれていた事が理解できる。
「その案で問題ないだろう。ただ、今後は俺の事を【アキラ】と呼べ」
「「承知致しました。アキラ様」」
この二種族が従者に選ばれたのには、幾つかの予想がつく。
まず、共に隠蔽魔法を解かれても、人間の姿を維持できる点。
次に、ワーウルフの雷属性は速度と破壊力が有るが、命中性に難がある。
ヴァンパイアの水魔法は、浸透性が有るが、破壊力が強くはない。
だが、この二つを合わせれば水の流れを使って、ピンポイントで出力自在の落雷を送り込む事ができる。
また、耐性に関しても火の魔法は水で防ぎ、土の魔法は雷が吸収する。
風の魔法は雷で防ぐと言う風に負担が少ない。
この様に二つ以上の属性持ちを組み合わせる事は、冒険者チームでも行われている様に、攻撃と防御のレパートリーを増やす利点がある。
「この太陽の位置ですと、近い村はコッチですね」
「ああ。間違いない」
この世界で、この大陸の位置は、地球の北半球と同じように太陽が南側に有り、東から西に向かう。
地磁気との向きで、長距離転移をして現地時間との差異が有っても、おおよその時間と方角が分かるのだ。
「早く移動して、明るいうちに近くの村に着いた方が良いでしょう。我々は夜の森でも大丈夫ですが、普通の村人は夜中に訪問されると不都合が多い」
「私も同感です。たとえ冒険者と言えど、夜走りが得意とは限らないでしょう」
「そうだな。少し急ごうか」
ドルテアとジーニスの提案をアキラが承認する。
当然、24時間営業のホテルなど無いし、田舎の村で夜中に訪問者に起こされるのは強盗ぐらいしか無いだろう。
それに冒険者と言えども夜中には安全の為に野宿を優先する。
三人は、尋常ならない速度で、森を突っ切っていく。
やや日が傾いているとは言え、街道に出れば馬車や野宿覚悟の者に遭遇し、その人間離れした機動力を目撃されるかも知れないからだ。
「ついてこれているか?」
「だ、大丈夫です。ですが流石にコレ以上は・・・・」
木々を踏み台にして、横向きに登る様に進むドルテアが、額に汗を浮かべている。
ヴァンパイアのジーニスは、水と言うより【霧】属性なので、木々の間を流れる様に飛んでいた。
風を使い、木々の穂先の高さをギリギリの位置で飛んでいるアキラは、二人に速度を合わせて少し飛行速度を落とした。
そんな無理をしたお陰で、何とか日が沈む前に小さな村に到着した。
「そこの方、村長さんの家は何処でしょうか?」
ジーニスが、農作業を終えた村人を見付けて、村長の家をたずねる。
これで野宿はしなくても済みそうだった。
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