第34話 王都での一幕

「でしたら、私がお連れ致しますよ」


ドルテアの問いに、ジーニスと話していた者が答えた。


「ではジーニス様、お願い致します」

「分かった」


返事の後にジーニスは、部屋の扉を開けてから、目前の男の襟首をつかんで部屋から引摺り出した。


「戦場の状況を聞いただけじゃないか!」

「お前の様な、現実を見ない奴には、じっくりと説教してやる」


抵抗する事務員を無理矢理に事務所の外まで引摺り出し、更に裏路地へと引っ張っていくジーニス。

その後を、眉間にシワを寄せたアキラとドルテアがついていく。


Sランク冒険者の暴挙に事務所の人間は勿論、周囲の住民すら怯えて見守るしか無かった。


「よほど、逆鱗に触れる様な事でも口走ったのだろう」

「あそこは、いつも揉めているな。流石に死人は出てないが」


住民達の反応も、少し呆れ気味だ。


裏路地に引き込まれた段階で、事務員は擬装魔法を切り替えて全くの別人に化けた。

上着を脱いで脇に抱え、何事も無かった様に裏路地の反対側から歩いて出てきた。

当然、その後をアキラ達三人も歩いている。


「皆さんの力量に合う店は、あまり有りませんが、最良の物を御提供したいと思います」


事務所の前の通りを避ける様にに気を付けながら、男は三人を案内していった。




数ブロック離れた店に、四人は入っていく。

裏が工房らしく、金属加工をするハンマーの音が聞こえてくる。


事務所の男は擬装魔法を戻して、前の姿になっている。

そのまま、見通しの悪い店の奥へと進んでいった。


「もうすぐ雨が降るらしいぜ」

「傘はかさないぞ」

「よこせよ」


事務所の男と店主らしい老人のやり取りは、一種の合い言葉なのだろう。


二人の顔に笑顔が浮かぶ。


「で、そちらの御仁は?見たことのあるつらが二つ有るが?」

「どっちも本人じゃあない。喰らったそうだ」


店主が机のボタンを押すと、部屋中に紫色の光が満ちる。


事務所の男はリザードマンの姿になり、店主はロックマンへと変貌した。


「変わらないな!人間・・・のわけがないし、何者だ?」

「ワーウルフとヴァンパイアだよ」

「道理で・・・で、そっちの見ない顔は?」

「彼の事は、どうでも良い。我々は本国から特務で来たのだが、手頃な武器を持ち込めなくてな。刃こぼれした剣の修理と、予備や追加装備が欲しい」

「そりゃあ、ご苦労様ですな」


ボタンから手を離し、店主は差し出された剣を見て溜め息をついた。


「何をお斬りになった?」

「ベヒモスと遊んだだけさ」

「よりによって・・・」


店主は再び溜め息をついて、後ろの棚に置いた。


「前より鋭くなっても?」

「かまわない。あくまで冒険者用だからな」

「一週間は掛かりますぜ」

「代わりの物さえ用意できれば問題ない」

「あんた等なら魔剣でも使えるだろうに」


「有るのか?」


店主とジーニスの会話にアキラが割って入った。


「そう言えば、あんたの背負っているのは【霧シリーズ】かい?」

「あぁ。【朝霧】だ」


店主がアキラを見る目が、少し変わった。


「見るかい?」

「是非にも」


アキラの言葉に、ジーニスとドルテアも頷く。


案内されたのは、地下の工房だ。

恐らくは10メートルくらいは下がっている。

途中に何枚も魔力妨害の皮膜が使われた扉があった。


「ここは、何千年も隠匿されてきた地下工房で、人間に支配される度に埋められて隠されたものです」


流石のアキラも、この存在には気付かなかった。

何かが埋まっている程度の認識だ。


「こちらが秘蔵されてきた魔剣です。やっと日の目を見る事ができるのですな」

「中々のものじゃあないか!」


ズラリと並ぶ数十本の剣を、アキラは興味深く見つめていた。


「これなんかは面白い。強化魔法を打破して傷を付け、呪いによって再生を妨害するのか?」

「再生能力を持つ者すら居りますからな」


店主は、チラリとワーウルフであるドルテアの方を見た。


「こっちは、レーザー光線銃じゃないか!」

「れー?何ですかな?それは炎の光を発する杖で、相当量の魔力を必要としますぞ!」


アキラは店主の目の前で、両手のひらの間に、レーザー光線を走らせて見せた。


「何者なんですかな?この方は?」

「人間や我々よりも高貴な御方だ」

「どうりで・・・・」


ジーニスの言葉に、店主は納得した顔をした。


「魔剣と言えば、皇太子妃の持つ剣には注意なされよ。アレは霧シリーズの改造版ですからな」

「王族と言うなら人間なんだろう?」

「魔力の弱い者用に、自動で大気中の魔素を吸引して使えますからな。人間でも連続で30分は使えます」


魔剣の流出に、ジーニスがコメカミを押さえた。


「どうして魔剣が人間の手に?」

「下級冒険者を演じていた同胞が、事故死しましてな。その時に流出したようですじゃ」


魔族と言えども種族差や個人差がある。

そして冒険者の装備は、家族か同僚が引き継ぐ。

身元隠蔽の為に家族無しとするのは、工作員には良くある事だ。


「しかし、人間側と魔族側の技術レベルの差は、なぜこんなにも開いているんだ?」


共和国でも感じていたが、アキラは歴然とした技術差に驚愕を覚えた。


「それは、それぞれの寿命に関係しているのではないでしょうか?大戦後に技術者が生き残って技術を再建しようにも、更地からやり直すには数百年かかるでしょう。しかし人間の寿命は短く、最新だった技術を正しく伝えるのは不可能なのではないでしょうか?」

「それに対して魔族の寿命は千年前後で正しく再建できる訳か!まさに【少年老いやすく学成りがたし】だな」


この世は不平等で不条理だった。

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