第37話 王都での開発

矛盾を感じながらアキラは、ほどなくして10Kg前後の玉を6つ作った。


安全の為に、一つづつを鉛の箱に詰めて、王都内の六ヵ所に分けて保存している。


「どうだ?時限装置の案はできたかい?」


再び地下工房だ。


原水爆を開発していた職人。

名前を【ヤバル】と言う青年は、幾つかのイラストをアキラに見せている。


「草案はできたのですが」


草案は樽や箱の形をした物が多く、都市などへの持ち込みを前提にしている事がうかがえる。


イラストを見ながらアキラは、使用するウラン235と同サイズの鉛を手渡して、ヤバルに説明をはじめた。


「ウラン235の起爆時の形状は、なるべく表面積が小さい方がいい。つまりは半球形二個をくっつけて球形にするとか、長方形二個をくっつけて正立方体にするとかだ。実用化された物には、ドーナツ状の円柱と穴を埋める円柱の合体をしたタイプも有ったらしい」


ヤバルはアキラの話をイラストにおこして、再認識をしている。


「なるほど!参考になります」

「別に、時限装置の起動を魔法に固執する必要も無い。火薬と線香や蝋燭を使った物でも構わないし、ゼンマイ仕掛けのドッキングでも問題ない」

「そうですね。使用が簡単だからと魔法に頼りきる事もない訳ですよね」


むしろ、魔法が使えない一般人の方が、細工物や工芸品に秀でている。


全ての人間が多少の魔法を使える世界では、それに頼りきって知識や文化の発展は少なく、結局は力の差による両極端な社会となり、奴隷の数が増大するのだ。


それに、この世界は【社会の輪廻】を成立させる為に生物を媒介としない魔法が存在しない。

魔素の吸引はできても、魔法に変換する事ができない。


魔物の臓器を道具に組み込んで、特定の魔法陣を動かしての発動はできるが、臓器の寿命分しか使用できない。

ソレでも、誰かが一部のスイッチを入り切りしないと、魔法が常時発動してしまう。


つまりは、時限装置に使うのは難しいのだった。


「可能ならばテストは、戦場から見える無人の荒野などで行いたい。呪われても今後に差し障りのない岩場などは無いか?」

「その【爆弾】の影響範囲は、どのくらいになるのでしょうか?」


アキラの言葉に、親方と呼ばれた老人が聞き返してきた。


「完全破壊は半径2キロ前後。直後に焼けたり呪われるのは4キロ以上になる。爆風で建物が吹き飛ぶのは8キロ程度だが、その後に黒い雨が降って広範囲に不治の病が広がるだろう。呪いは数年後に現れる事もあり、子々孫々にまで残る」

「こんな樽一つで、なんと恐ろしい」


アキラが話したのは、より規模の大きな広島原爆の影響だが、被害を少なくする為には良い説明だっただろう。


「だからこそ、切り札や抑止力として使える。その犠牲は無駄にはならない」


原爆を【悪魔の兵器】と呼ぶ者も居るが、本当に忌み嫌わなくてはならないのは、ソレを使わなくては止められない戦争を行っている人間自身ではないのだろうか?


いなかる正しい理由があっても、日本人に310万人以上の死者をだしても止まらなかった太平洋戦争。


二つの原爆により止められた戦争と、その爆弾で犠牲になった72万人。


どちらの犠牲が有意義だったのかは、意見が別れるだろうが。


「テストが上手くいけば、それすらもデモンストレーションとして使えると思うのだが?敵には前もって告知せず、爆発を合図に魔族側が一斉攻撃しても魔族側の力である事は誇示できるだろう。失敗した時は、各自の判断で開戦して、テストなど無かった事にすれば良い」

「そうなれば作る方もプレッシャーを感じなくて済みます」


テストすら失敗を許されないと思っていたヤバルが、安堵の息を漏らす。


仮に、爆発を合図と限定していると、爆発を待ちすぎた魔族が人間側からの先制攻撃にヤられる事も有るだろうから。


「その鉛をウランに見立てて、実験をするといい。幾つかの候補を製作して試すのもアリだからな」


爆弾と花火の違いは、火薬の種類もあるが、主に容器にある。

同じ火薬を使っても、密閉が甘く端から燃えていくのが花火なら、幾重にも紙で巻かれて、なかなか膨張できないようになっているのが爆竹と言える。


なぜか剣と魔法の世界では、火薬の使用が少ない。

銃がなくとも焚き火から発展した花火や、その事故から発展する爆弾の発明が無いのは、現代人が転生や転移しているなら、なおさらおかしい。


理由が『火炎魔法が有るからだ』とされているが、全ての登場人物が魔法を使えるわけではないのだから、装備の増強としては必要だろう。

また、詠唱や発動にタイムラグの有る魔法は、避けたり防いだりできるが、導火線による時限爆破は不意打ちとなりダメージが大きい。


総括するならば、ラノベで使われている戦術は子供の喧嘩や西洋での肉弾戦を主としている。


因みに火薬を使ったミサイルは、古代の中国で実戦登用された記録があるらしい。

遅れて西洋では1867年にノーベルがダイナマイトを商品化するまでは、兵器への使用は少なかった。


火薬による爆発は、ダイナマイト程の破壊力は無かったが、中に鉄片を入れることにより、周囲の者を傷付け、戦意を削ぐのにも役立った。


原爆も、その放射能避けも含めて、強固な容器を必要とする。

核の連鎖反応が充分に起きる前に、容器が崩壊してはならないからだ。


「試作した中で、一番結果が良かったのは、この樽型です」


外観は酒樽だが、中身は分厚い鉄板が使われている。


「ほう?ウランの絶縁には、鉛を含んだ砂を使うのか?」

「はい。樽から砂がこぼれ落ちて、上下二つのウランが接触します。鉛が残っても、放射熱で溶けて流れる様にしてあります」


つまりは、砂時計の流用だ。


この方式は、エジプトのピラミッドでも通路の閉鎖などに使われている。


ウラン235は、質量が23Kg以上になると連鎖反応で核爆発を起こす物質だ。


量の効率で言えばプルトニウム239の方が良いが、海水の様な自然界にプルトニウムが無いので手間がかかるだけだった。


「試作段階では三時間で完全結合する見込みですが、結合前の発熱で前後する可能性もあります」

「その辺りは、俺も基本原理しか知らないから、テストの結果次第だな」


アキラとて専門家ではない。

ただ、この原爆は材料が揃って仕組みと注意事項さえ分かっていれば、ダイナマイトより簡単に作れる。


魔族側でも抑止力となり、勇者をも倒せる爆弾に関心がないわけでもない。

当然、環境問題もあって反対意見もないわけではないが、【御使い様】の御達しとあって押し通されている。


「これが幾つも有れば、人間なんぞ殲滅できるのでは?」


職人の一人が口走った。


「お前達の神官は『人間を殲滅せよ』と言っているのか?」

「いいえ。『減らせ、自然を取り戻せ』とは言われていますが」

「では、言われた事以上をするな。御神託には、理由と意味があるのだ」


口走った職人が頭を下げて退く。

神の御使いであるアキラの言葉は神官よりも尊いのだ。

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