第36話 王都での新兵器

私の意見は、世界には反映されない。


「そんな武器を、誰が使いこなせるって言うんだ?」

「そりゃあ、大量の魔素は必要だけど」

「大量って量じゃねえだろう?何百人の勇者が必要なんだよ!」


私の造った武器は、いにしえの技術を再現した広域破壊兵器だ。

理論上は、首都の一つや二つを消し飛ばせる。

サイズは荷馬車でしか運べないが、能力に対しては小さい方だろう。


だが、如何せん。起動に必要なエネルギーが尋常ではなかった。


地下の工房で更なる効率化を目指しているが、根本的な問題が幾つも残っている。


「これは、水素爆弾?いや、原水爆か?」


作業をしている後ろから、図面を覗き見る姿があった。


「古文書にあった水素を使った広域破壊兵器を作っているのですが、御存知なのですか?」

「まぁね」


見ると、親方をはじめ数人の者が、その者の後で狼狽えている。


「これは、小島でも吹き飛ばせるんだが、分かってるのかい?」

「はい。これができれば、人間の都市など一発のはずなのですが、うまくいかなくて」


「プルトニウムは・・・無いから火炎魔法と重力魔法で代用しようとしている?水素化リチウムは入手困難だろうから重水素か。確か海水から採れた筈だから、液化するまで圧縮して・・・」


小さな独り言を言う、この人ならば完成形を知っている様だ。


「いや、水爆の起爆には原爆を使う筈だからイッソのこと・・ねえ、君。都市さえ破壊できれば、もう少し規模が小さくても良いかい?」

「はい。別に都市クラスが破壊できれば・・・」

「ならね、元素の反応を使うのは同じなんだけど、もう少し小規模で良いなら、簡単な物があるんだけどな?」


どうやら、古文書に乗っていた物には、高度な技術と特別な水素が必要な様だ。


「師匠、是非ともご指導を!」

「師匠って・・・・まぁ原理は水素の反応と逆で、不安定な元素が崩壊する時に出すエネルギーで周囲を加熱するんだけど、その物質【ウラン235】は、20Kg以上になると・・・」


新しい兵器原理に、私は一心不乱にメモをとった。

【ウラン235】とかは、この御方が用意して下さるそうなので、私は兵器の容器製作と有害なエネルギーから身を守る装備をつくれば良いらしい。


説明と注意を正確に記録して、後で理解すればいいのだ。


「ウランの原子番号は92だからウラン235の中性子は143個か!海水から採れるウラン238に雷系魔法の電磁力で中性子を3個引き剥がして・・変換魔方陣をプログラム化してループ処理にしていけば・・・」


何か魔法で物質を作っておられるらしい。


「おっと、ホウ素で中性子を防がないと・・・・」


サンプルとして渡された小さな塊は、嫌な空気を発している様だった。

若干だが熱を感じる。


「問題は、設置してから逃げるまでの時間。数時間後に作動する時限装置なんだが・・・」

「このガンバレル方式と言うのならば、簡単に作れそうです。その程度の絡繰カラクりならお任せ下さい」


時間が来たら点火材に着火して、二つの塊をくっつけるだけの時限装置だ。

輸送の際には安全装置を付けねばならないだろう。

大きさ的には全体が樽ほどでできそうだ。


「そうか?先ずは実験用に一つ作り、改良した二つ目の威力を見せて人間を威嚇する。三つ目は存在をほのめかすだけで実在しなくても良い。これを使うと大地は呪われ、百年以上も祟られるから出きるだけ使いたくないからな」


古文書には、病気や奇形が発生すると書かれていた。


「アキラ様、よろしいので?」

「もし、【勇者】とかが現れても、都市や戦場ごとコレを使えばひとたまりもない。勇者の死とデモンストレーションを同時に行えば、一石二鳥だろう。但し場所を選べよ」


御方をはじめとした三人が頭を下げている。

この御方は戦略的な事まで、お考えの様だ。

御名前は【アキラ】様か!心に刻んでおこう。


「そうだな。この兵器の正式名称は【呪いのいかづち】としよう。隠語としては【大きいキノコ】だ」

「【大きいキノコ】ですか?なんだか可愛いですね」


アキラ様は、軽く微笑んだ。


「近くに海は有るかな?少し泳ぎに行こうか!」



◇◇◇◇◇



〔剣と魔法の世界で核兵器を作るのか?〕

『中高生の時のミリオタ知識が役にたちましたよ。だって、異世界人が地球の技術を持ち込むのは、料理にしろ技術にしろ定番化してるじゃないですか!それに古代の技術として原水爆を用意していたのは、誰なんですかね?』

〔【実は未来の地球でした】とかの伏線ではないのか?もしくは太古に異世界転生や転移が大量にあったとかの?〕

『前者は【猿の○○】ってSFですね。後者はラノベでも使われているし』

〔実際に、転生者とかは存在するしな〕

『俺の事ですよね?ソレ』




海までは、王都から馬車で数日の距離だった。


冒険者ギルドには、頻繁にクエストをこなすと他の冒険者の生活に支障がでる点と、Sランク冒険者や、いわく付きの者が居ると王都内が騒がしくなる点をあげて、しばらくは王都を離れる事を告げてきた。


勿論、行き先は報告してある。


港町を離れ、海水浴場の様な所をぶらつく三人。

やはり、ギルドの調査員が尾行しているが気にしていない。


ラノベで舞台に利用される、このような中世風世界は、女性が肌を見せるのを良くは思っていない。

アニメの様なビキニアーマーや水着回は実際には無い。

日焼け止めやスキンケア用品が無い文化で、日光浴などもっての外だ。


「アニメや漫画に出てくるビキニアーマーって、大量のナイフや撒き菱を投げられたら、どうするんだろう?」


砂浜に居るのは子供達ばかり。

わずかに波打ち際で涼んでいたり、貝殻を拾っているくらいだ。


「アキラ様。まさか本当に漁業の真似事を?」


大人が海で遊ぶ風習は無い。

子供も水遊びであり、水泳ができるのは海産物を収穫する漁業関係者くらいだ。


冒険者は、川や池に落ちた時に備えて水泳の訓練はしてはいるが・・・


「海は、いろんな物の宝庫なんだがなぁ」


海に半身を沈めたアキラは、その手に輝く塊を持っていた。


「そ、それは、まさか【金】ですか?」


放り投げられたソレは、ズッシリと鉛の様に重かった。


「1トンの水に対して1ミリグラムの金が含まれている。わずかしかないから、水魔法と土魔法を併用して莫大な魔力を消費する。同様な割合だが先の【ウラン】も海水内に2~3ミリグラムほど含まれているんだ」


次にアキラが持ち上げたのは、灰色の塊だ。


「ドルテアよ。目には見えないが、物凄い量の水流が生じているぞ。アキラ様が人気のない場所を選んでいるのも頷ける」


ジーニスは、水属性の為に感じ取った様だ。

アキラの周囲では、港などで行えば余波で船が沈むのではないかとさえ思える大規模な水流が、水面下で生じていた。


魔力や水の動きが見えぬ者には、単に海底から石を拾っている様にしか見えないだろう。


「俺は魔素の使い方が、お前達とは違うから出来るが、決して真似しない事だ」


ジーニス達なら、数時間でパチンコ玉くらいの大きさしかできないだろう。


金にしても同じ時間の分だけ冒険者のクエストをやった方が、労力も少ないし現金も多い。


「その玉は、危なくないのですか?」


ウランで都市を丸ごと破壊できると聞いていたドルテアが、少し怯えている。


「ああ、大丈夫だ。ここから、もう一段の加工をしなければ爆発はしない。とは言え有毒なエネルギーは出ているから鉛の箱などにしまっておくが」

「その加工も、大変なのでしょうねぇ」


アキラには、なぜ彼等がコノ程度の事で驚いているのかが、よく分からない。


「有る物をイジル方が、無から炎や水や岩を作るより簡単だろう?」


『そもそもラノベの転移者は、なぜ核兵器を作らないで、一瞬に大量の魔力を消費する大魔法を使うのだろうか?放射能アレルギーか?無から有を作る、神のような力より、目の前にある元素から中性子を3個はがす方が、よほど楽だろうに?』


物理の授業プラスアルファで、この手の原爆は簡単にできる。

地球で簡単にできないのは、知覚能力と物理能力が、ラノベ世界に比べて劣っているからだ。


ソレゆえにウラン235は現代技術では、時間と手間ヒマを掛けても容易には入手ができない。

兵器としての原爆や、原発にプルトニウムが使われているのにもソレだけの訳がある。


だが、地球環境プラス魔法であるラノベ世界で、核兵器の知識さえ有れば作れないわけがない。

魔王の城まで行って、使わない筈がない。

普通に考えれば・・・・


『やはり、日本人は放射能アレルギーなのかな?太陽が地球の数万倍の大きさを持つ原水爆だと言っても、大気中に常時、放射性物質が含まれていると言っても納得しない大人が居たな。確か【ゼロベクレル】を叫んでいたっけ』


兵器を知れば、物理法則や法則を知る必要が出てくる。


〔兎に角、見えないし、理解しようともしない【放射能】が恐いのだろう?〕

『でも、【魔法なら大丈夫】って勝手に思っているなら御都合主義も極みですよね。魔力が溜まれば魔物が生まれるダンジョンが出きるとか、呪われた土地とかでアンデッドが発生すると言いながら、魔法や不思議な力を連発するなんて』


矛盾を感じながらアキラは、ほどなくして10Kg前後の玉を6つ作った。

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