第3話 女神様は鳥頭者

流石は創造主様だけの事はあって、世界そのものを案内役につけてくれた様だ。


〔異世界から来たサエグサ アキラよ。一般に世界で【神】と呼ばれているのは、我の事だ。女神様の命により、これからなんじをサポートする為に、記憶と能力を見せてもらいたい〕


日本の宗教概念としては、唯一神信仰ではなく【八百万の神】として、その性質もランクも様々に存在する。

アキラに、違和感は無い。


それに、今後いろいろとサポートしてもらう為に、御互いの齟齬そごは無くしておくべきだろう。

相手が【世界】ならば、自慰行為からケツの穴まで、どうせ見られてしまうのだ。


「わかりました。痛くはないんでしょう?」

〔勿論だ。それに一瞬だ!〕


そう言った瞬間、頭の中が、いきなり真っ白になって、アキラの足がふらついた。


確かに痛くはなかったが。


〔・・・・・・・少し、質問して良いか?〕

「はい。でも、頭の中を見たんでしょう?」

〔だからこその質問だ。異世界で、この世界の者に殺されて、その代償として、この世界に来たのだろう?〕

「確かに、その通りです」

〔・・・・では、ナゼ記憶を残したまま、時間を巻き戻して死亡を回避しなかった?〕

「・・・・・そんな事ができたのですか?」

〔女神様なら可能だし、宇宙の法則を曲げる必要も無い。【殺された事実】が無かった事になるのだからパラドックスも発生しない。襲われる事を知っているのは【予知】として見れば、汝の世界でも有り得るのだろう?〕


アキラは、口を開けたままで固まった。


「・・・・・・ちょ、ちょっと女神様を呼び出してもらえますか?」

〔それは、こちらからでは出来ないし、もう覚えていないだろう〕

「覚えていないって、ついさっきの事ですよ」


アキラには、訳がわからなかった。


〔絶対者とは、その様なものだ〕

「女神様って、いったい何なんですか?」


〔【女神様】とは、個々の世界/宇宙の外に有り、全知全能で永久不変の存在だ。本当は性別も無い。今回【女神】となっているのは、【ラノベ】とやらの影響らしい〕

「はい。その辺りは予想してました。ああ、外に居るから、こちらからは連絡が取れないって事ですか?でも【覚えていない】って、どう言う事なんですか?」


アキラの目の前で突然、地面から植物の芽が出てきて、みるみるうちに成長した。

花が咲いて、しおれて種が風に飛ばされ、枯れて土に帰った。


まるで植物など存在していなかったかの様に。


〔変化とは、時の流れ。【不変】である為には、時の流れを止めるか、リセットする必要がある。成長や変化を続けていたら、その存在は【不変】ではなくなり、【変化】の前では全知も全能も維持できなくなるかも知れないのだ〕


アキラは、顔をしかめて頭を掻いた。


「リセット?何なんですかソレは!女神様は三歩あるくと全てを忘れるって事ですか?それで時間の巻き戻しみたいな事も失念していたと?」

〔更には、女神様の世界。つまり、この宇宙の外では時間の概念が異なる。アキラが女神様に御会いしたのが、遥か過去かも知れないし、まだ起きていない事かも知れないのだ〕


アキラはうずくまって、情報の整理をした。

アホな創造主の為に、復活のチャンスを失い、そしてソレは、もう後戻りができない。


この世界と女神の世界とに、時間の連結性が無いのであれば、元の世界との連動性も、無いのかも知れない。

この世界から日本に戻るだけでも時間移動が出来て、死が回避できそうなものだが、どうやら既に遅い様だ。


〔頭を抱えるのも理解できる。創造主とは多くの点において、被造物と真逆なのだ。人間にも有るだろう?自分に無い物を求める性質が〕


そうなのだ。

人間は創造主に自分にはない能力を妄想する。

それ故に、【恐れ】を起点としない宗教は人を魅了する。

だから、その教義の多くは、利己的にも自らに都合の良い事ばかりだ。


赤子の時は、慈愛に満ちて全知全能に思えていた母親が、現実には本能で動く非力なエゴイストでもある様に、世界の創造主が理想道理である筈など無いのだ。


「女神様より、メタトロン様の方が、よっぽど【神様】っぽいですよね」

〔だから申したではないか。【一般に世界で神と呼ばれているのは、我の事だ】と。だが、我とて知りうるのはコノ世界の【今まで】であり、管理者である為に出来る事に制限がある。また、宇宙に始まりと終わりが有る様に、我は【不変】でも【永遠】でも無い。むしろ、ラノベとやらの影響で過大な自由度を与えられた、この世界の【キャラクター】の方が能力が上の面すらある〕

「ぶっ壊れてますよね、この世界は」


かつて、アキラが多くのラノベを見限った時期を思い出す。

まさに、ラノベの創造主達にんげんは、自分達に無い物を求めていたのだ。


〔それを言ってくれるな。記憶を見た限りでは、汝の居た世界の管理者は楽そうだな〕

「でも、面白味も無い世界ですよ」

〔しかし、戦争や災害も有るのだろう?程よい安定が一番だ〕

「御互いに無い物ねだりですね」

〔「ははははは・・・・・」〕


超感覚を使っても、周囲に知性体は居ない。


メタトロン様との会話は、壮大な独り言にしか見えないので、アキラは会話の間も周囲の警戒を緩めてはいなかった。


〔さて、被造物である我々に後戻りは出来ない。未来を見るしか無いのだが、汝の【ステータス】は、大丈夫なのか?〕

〔【大丈夫なのか】とは?ラノベ主人公らしい十分なステータスでしょう?」


〔ああ。主人公には十分なステータスだが、【人間】と言うよりも【放射能を吐く巨大怪獣映画】の主人公怪獣ではないのか?〕


ラノベでは、主人公が強大な能力を得て、ソレを使って敵を倒したり問題解決をしたりしている。


「俺は、怪獣扱いですか?隠蔽とかは出来ないんですか?」

〔海中や山奥じゃなく街中で、怪獣を隠蔽できるとでも?レベルやスキルがメインの世界で、それらを偽装や隠蔽なんて無理であろう。当然、隠蔽魔法を開発しても、感知や鑑定の技術も直ぐに追い付くだろう〕


「またも、女神様の【考えなし】かぁ~」

〔ラノベの読者も、そう言った事を考えながら読んでは居ないのだろう?【御約束】として処理すると記憶には有るが?〕

「メタトロン様の仰る通りですね・・・」

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