第32話 王都での御仕事
「あ~っ!あまり長居すると、鬱になってしまいそうだ。明日は王都の外で魔物狩りでもしよう」
早々に酒を買い込み、アキラ達は宿へと帰った。
勿論、泥酔して嫌な事を忘れる為だ。
宿屋で飲んだのは、酒場で飲んでいると超感覚を使わなくとも、聞きたくもない話が聞こえてくると思ったからだ。
どんなに飲んでも、翌日に二日酔いにならない身体能力を持つ三人は、翌朝には冒険者ギルドで仕事を探した。
そう言っても、正体がバレそうな二人はギルド前で剣の素振りをし、アキラが掲示板で依頼を物色していたわけだが。
「オイオイ!兄ちゃんはEランクだろ?そこはAランクやBランクの依頼の欄だぜ」
アキラの首からぶら下げている冒険者証を見て、ギルド内では暇でお節介な冒険者が、からかい気味に声を掛けてきた。
「ええ。外にいるSランクの先輩に、暇だから適当な依頼を見繕って来いって言われまして」
「そんな常談を誰が・・・」
アキラの返答に、そう言いかけた冒険者は、離れたカウンターに居るギルドの受付嬢が必死に頷いて肯定しているのを見て、言葉を止めた。
気が付くと、ギルドの外から金色のSランク冒険者プレートを付けた二人組が睨んでいる。
「なんだ?使いっ走りか!」
言い掛りを付けて遊ぶ相手が悪かったとばかりに、
バックにSランクが居たのでは命が幾つあっても足りないのだろう。
「田舎と違って、大物が揃っているな。ドライアドにワイバーン、ベヒモスかぁ」
魔族領に近いと大きな森が増え、魔物や動物が増えるので、大型や厄介な魔物が増える傾向にある。
ドライアドは植物性の魔物だ。
森を広げる為に必要だから、狩らない方が良いだろう。
エアリア達の邪魔をするのは芳しくないとアキラは考える。
「ここは、小型の魔物や動物を増やす為に、食物連鎖の頂点であるワイバーンとベヒモスにしておきますか・・」
他者に聞き取れない程度の独り言を口にして、アキラは二枚の依頼書を壁から引き剥がした。
帰還した二人のSランク冒険者の事は冒険者ギルドの職員なら知っている。
王都に残っている理由も。
本来なら、活動には女神の泉ギルドでの移籍手続きが必要なアキラだが、生活の為に金を稼がなくてはならないし、事件の事もあったので、今は冒険者ギルド本部の預かりになっている。
「この二件をお願いします」
「承知致しました」
そんな訳で依頼書を受けた受付嬢の対応は、すんなり進んだ。
「我々も【狩り】は久しぶりですよアキラ様」
「
「我々クラスになると要人の護衛が主な任務になりますから、狩りは下位の者の仕事になっています」
「ジーニスもドルテアも、ここ数年は戦場でしたかね。時間潰しにはちょうど良いでしょう」
そう言って三人は、王都の外に出て、離れた場所にある森を散策しはじめた。
散歩がてら、縄張りを侵害されて出てくる魔物や動物を、軽く追い払って、奥へ奥へと進んでいく。
Sランク冒険者でさえ一日で終わる仕事では無いにしろ、
「ベヒモスが何頭か、あっちに居るな」
アキラの言葉を疑う二人ではない。
何の疑問も持たずに質問もせずに、二人の冒険者は先行し、邪魔な雑木林を切り開いて、アキラの為に道を切り開いていく。
Sランク冒険者がEランク冒険者に顎で使われ、道を用意するなど他の者が見れば、自分の目か常識を疑うだろう。
「あぁ、匂いがしてきましたね」
準備の為に既に獣化しているドルテアが、鼻をヒクヒクさせている。
地球での神話に出てくるベヒモスは、大食漢の巨大な象として伝えられているが、この世界のベヒモスは十メートルを越える大亀だ。
その甲羅は、あらゆる魔法を防ぎ、中に引き込まれると厄介なのでAランクが十人以上で対処する。
『確か、【巨亀のベヘモス】が出るラノベも有ったな』
地球で読んだラノベの幾つかを思い出し、アキラがほくそ笑んだ。
「確か【女神の泉】付近には、この様な大物が居なかったのですよね?」
「ああ。Cランクぐらいまでが現役で対処できる魔物ばかりだったからな。正直、力を抑えるのが厄介だったよ」
このメンツならば、アキラは地震を起こそうと、大陸を更地にしようと、疑問に思う者も質問責めにする者も居ないだろう。
そう言った意味では、気兼ねなく好きに能力を使えるのは楽である。
見えてきた五頭のベヘモスに、アキラはソノ力量を測っていた。
「俺がやっちゃうと、直ぐに終わっちゃうから、二人で楽しんでいいよ。俺はアノ混沌から抜け出れただけで満足だから、観戦させてもらうよ」
「よろしいのですか?では御言葉に甘えて・・」
ジーニスとドルテアが、アキラに一礼をしてベヒモスの方に歩み寄る。
能力隠蔽のコートを着ているので、ベヒモスからしてみたら、目障りなザコが近寄ったくらいにしか感じていないのだろう。
先ずは普通に斬りかかるが、甲羅は勿論、手足ですら剣を弾く強さを持っていた。
何度もうるさく斬りかかると、ベヒモスは魔法を使って周辺の地面から鋭い岩の槍を突き出してきた。
二人を追い払おうとしているのだ。
「はははははっ!なかなか面白いじゃないか」
手足の振り回しや槍攻撃を華麗に避けながら二人は、わざと魔物をイラつかせて遊んでいる。
見かねた他のベヒモスが横から噛みつき攻撃で、目障りな二人を排除しようとしてきた。
「仕方ないなぁ、おまえもかまって欲しいのか?」
一番大きいベヒモスをジーニスに任せ、ドルテアは別のベヒモスへと向きを変えた。
やがて辺りは魔法で生み出された岩の槍や、そのせいで根本から引き抜かれた樹木の為に、足の踏み場もない状態へとなっていく。
幾つかの岩や木々は、ベヒモスに踏みつけられてコナゴナだが、騒然となっている事にはかわりない。
「剣も刃コボレしはじめたし、足場も悪くなってきたから、そろそろ片付けるか?」
「そうだな。まだまだ遊び足りないが・・・」
ジーニスは跳びはねながら、上空に2メートル程の水の玉を作り出した。
ドルテアは、岩や木々を腕力で破壊し、小さな窪地を作っていく。
「確かに、ベヒモスは大きくて強い。蓄えた魔力の総量も多いだろうが、その巨体を俊敏に動かせば消費量も半端ではない。空振りの運動をさせ効果のない攻撃を繰り返せば、蓄積した魔力も底をつくだろう」
彼等は、無駄に遊んでいた訳では無いのだ。
現代地上に象やカバ以上の大型生物が居ない訳は、その足腰を支える素材と大きさが、維持して動かすのに消費するエネルギーと釣り合わないからに他ならない。
この世界での大型生物は、睡眠や非運動時に大気中から集め蓄えた魔素のエネルギーにより、補っているが、それも無尽蔵ではない。
膨大で強力な力ではあるが、連続使用にはタイムリミットが有るのだ。
「「じゃあ、そろそろ終わろうか?」」
ジーニスの水球がベヒモスの鼻と口を覆う。
ベヒモスが頭を振り回し、前脚で払いのけようとするが、水球を素通りするだけで成果がない。
呼吸ができずに巨体で暴れまわり、辺りの物を壊し回るが、ジーニスは空中に逃げて更に水球へと水分を送り込んでいる。
ドルテアは、別のベヒモスの脇腹から体の下に潜り込み、その巨体を空中へと放り投げた。
狙って、先に作った窪地へと仰向けに落とされたベヒモスは、手足をバタつかせたり、魔法で岩を生やして起きようとするが、上手くいかない。
近付くドルテアに恐怖を覚えたのか、ベヒモスは手足を引っ込めて守りに入った。
「ムダムダ!例え土属性でも生物である以上は、水分が有るんだから」
引っ込めた頭部付近の皮膚に触れて、ドルテアの手から閃光が走る。
ドン!
まさに、雷が落ちた様な音がして、ベヒモスの手足がゆっくりと伸びてきた。
出てきた頭からは湯気がのぼり、所々が焼け焦げている。
脳だけ焼くのに、たいしたエネルギーは消費しない。
さて、もう片方はと見れば、既に断末魔の痙攣をしているベヒモスを眺めてるジーニスが居る。
こちらも時間の問題だった。
「破壊力だけで勝たない。ヤッパリこれが戦術だよなぁ」
アキラが感嘆の声をあげる。
豪快な剣技や強力な魔法力に頼って、敵を倒す
腕から強力な破壊光線を出せば、その腕も火傷だけでは済まない筈だ。
大砲や銃が連射によって壊れたり、焼けたりするのと同じなのだ。
だから、少ない力を敵の急所に撃ち込むのが現実的であり、だから喧嘩も相手の手足を狙わずに顔や内臓を狙うわけた。
予備戦力として、アキラが控えている事を理解した他のベヒモス達は、既に逃げている。
この二匹は途中から、アキラ達の足止めとしての動きをしていたのだろう。
大型生物であるベヒモスの肉や素材は、硬くて利用価値が無いので、心臓付近の魔石と、特徴的な首の後ろの甲羅を一枚剥いで納める事により、害獣討伐の報告となる。
死ねば魔力の供給が止まり強化魔法も解けるので、ベヒモスの肉体と言えども硬めの獣肉や皮にすぎない。
既に野生動物の、格好の餌でしかないのだ。
暇潰しの魔物討伐の一つは、無事に終了した。
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