第42話:コクーン7「大岩」
「マリーお嬢様ったら、お化けが怖いって言ってメイド寮まで一人で来たんですよ。本館から分かれていましたし、夜だったのでそっちの方がよっぽど怖いと思うんですけど」
「フフ、お姉ちゃんにそんな事が」
次の目的地への道中、ローズとヘレナは、今は亡きヘレナの姉マリーについて話していた。ヘレナが姉の事について矢継ぎに質問し、彼女はその答えを一言一句聞き逃さないよう聞いていたのだった。その時の彼女の目は、小さな子供のようにキラキラと輝いていた。
「ワタシの知らないお姉ちゃんがこんなにも…」
トラックの助手席でヘレナは微笑んだ。姉が死に、途切れてしまった記憶がローズが知る姉の記憶によって、広がりはじめた。
「ローズ!もっとお姉ちゃんの事教えて!」
「はい!」
彼女らは時間を忘れるほど夢中に話をしていた。
しばらくして、
「おーい!」
彼女らを止めたのは中年の男性、彼の背後には複数の輸送車が停まっていた。運転手だろうか、
「この先はまだ、通れないぞ!大岩が道をふさいでて赤ずきんが来るまで待たなきゃならない、あっ!」
男は助手席のヘレナに気づき言葉を止めた。ヘレナの服装に気がついたのだ。
「その服、あんたが話の赤ずきんか。早くどかして貰いたいんだ!すぐにものを届けなくちゃならない」
道が通れるようになるのを今か今かと待っていたであろう男はヘレナ達を急かした。大岩の確認の為、男に案内されて現場に行ってみると、そこにはナッツの様な楕円の岩が垂直に地面へ突き刺さっていた。その岩は大きく、崖を回り込むように伸びている道を完全に塞いでいた。
崖は一部が崩れていた。順当に考えれば、その一部が落ちてきたのだろう。
しかし、ヘレナ達は違和感を覚えた。
「崖の破片にしては大きすぎるますわ」
「そうですね、どこから来たのでしょう?」
そう、崩れた崖のパズルを埋めるピースにしてはあまりにも大きかったのだ。
「なんでもいいから、早くしてくれ」
男が再び急かす。ヘレナはまず道を通れるようにする事が先決だと、とりあえず浮かんだ疑問を保留する事にした。
だが、幸いな事にすぐに答えがわかる。
ヘレナ達がヒトガタ起動のためにトラックに向かおうとした。その時、道を塞いでいた大岩が音をたてながら倒れる。
土煙が立ち昇った。岩の様子が見えない。代わりに岩が裂ける音が聞こえてきた。
そして、その音が一瞬消えたかと思うと、今度は耳をつん裂く様な轟音が響き渡った。獣の遠吠えの様なその音はすぐに消える。
土煙の流れが変わる。一つの大きな影がゆらめく。
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