第48話:コクーン13「病室」
「容体は?」
「もう生命の危機は脱したと言っていいでしょう」
クロエは白衣に身を包んだ男と並ぶ。白一色の病室、その中のただ一つのベッドの前に二人は立つ。そのベッドにはヘレナが横たわっていた。
「いやはや、さすが赤ずきんというべきか!!必要な成分を経口摂取させるとヘレナさんの体はまず内臓を修復し、今では欠損している手足を修復し始めています。このペースでは1週間足らずで完治するでしょう!実に素晴ら――」
「私がいつ貴様の感想を聞いた?これの説明がまだだ」
クロエの横目で睨みつけ、指差した。
「ああ、それですか」
無骨な鎖、病室にふさわしくないそれはヘレナの全身へ繋がれていた。金属製の鎖で一つ一つの部品が太く、まるで猛獣を繋いでいるようだった。
「体は問題ないのですが、心へのダメージが大きくてですね、時々――」
ガシャンと鎖がベッド叩いた。激しい呼吸、全身から汗が流れ出る、ヘレナが
ベッドの上で急に暴れ出した。全身を捩りながら鎖を引っ張り、鎖と繋がるベッドが軋む音をあげた。
「ローズ!助けるから!!いかないで!いかないで!」
ヘレナが大声で叫び、窓ガラスが激しく揺れた。彼女の目の焦点は合っておらず、うわ言を言っている。彼女は悪夢にうなされる中、虚空へ手を伸ばした。鎖がピンと張り、最終的にちぎれ飛んでしまった。
「はぁ」
白衣の男は溜息をつくと素早くヘレナの枕元に近づき、首元へ太い注射針を刺した。透明な液体を最後まで注入すると、ヘレナの呼吸は穏やかになり、先程の行動が嘘のように、すやすやと眠りについた。男はもう一度、ため息をより深く吐いて話し始めた。
「覚醒する度にこのように暴れるので、普通ならば致死量の鎮静剤をその度に打ち込んでいます。そうしないと止まりません。しかし、いくら赤ずきんといえどもこのまま続ければ死んでしまいますよ」
体が治ろうとも心は混沌の中。ヘレナはローズの名を口にしていた、彼女の目の前にはまだ生きているローズが見えていたのだろう。彼女を救おうと未だに足掻いている。もう変えられはしないのに。
クロエは小さく息を吐き、ヘレナの頭を撫でて優しく微笑みかける。
「辛いだろうな。けど乗り越えなくはいけないよ。少しずつでいい、前に進むんだ」
「ん?なんですか?」
「こっちの話だ。b47を投与を許可する。安定するはずだ。我々には仕事がある、後は頼んだぞ」
クロエがそう言って、白衣の男が何か言おうとしているのを無視し、病室を出た。重い扉をゆっくりを閉めるクロエの目は優しさから色を変えた。
「待たせたな」
扉の左右に赤ずきんに身を包んだ女性二人、メイジーとデリーナが立っていた。
「ヘレナは?」
デリーナが心配そうに尋ねた。
「"体"は治っていってる」
「そうか…」
クロエが先頭を歩き、そのあとに2人が続く。3つの足音が廊下へ響く。
「デリーナ、奴の位置は?」
「追跡班によると、最寄りの街に向かって飛んでいる。だが、まだ飛び慣れてないのか、休み休み飛んでいるらしい。辿り着くのは明日になるってさ」
「…クロエ」
「ああ」
クロエは立ち止まり振り返った。その目は殺意に満ちていた。
「奴は私の、私達の仲間を大切な仲間を傷つけ、殺した。許すな!撃ち抜け!切断しろ!」
「風通しを良くしてやるよ」
「フフ…大咬のカタチいる?」
赤いずきんの影の下、二人が不敵な笑みを浮かべた。
「全装備の使用を許可する。試験中のも構わん、私が全責任を負う。思う存分狩りつくせ!!」
「「了解!」」
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