第6話:スナイプ1-4「死の踊り」

 夜も深く、冷たい風が肌を撫でる。



「完全にのけ者だな。ああさぶい」



 グードが震えた声で愚痴を言う。デリーナ達は大咬の多い北では防衛隊の邪魔になると、第3壁のある比較的大咬の少ない南に移動するように言われた。南は当然、配置されている防衛隊の人員やヒトガタは少なく、南門の見張り役は先ほどから睡魔と戦っている始末。

 3人はドラム缶を用いた簡易式暖炉を囲んで温まっている。ニーが寒さのあまり、手をすり合わせながら、



「仕方ないですよ、実際部外者ですし。それはそうとレンさん達大丈夫ですかね」


「シャスール機関の特別製の隠れ家だ。大丈夫だろう」



 ヴァーレへの道中、再び大咬に遭遇することを考慮して、トラックを運転するレンとイッチはグードのいう各地に点在するヴァーレの隠れ家に置いてきた。



「けど姐さん、俺たちの出番がなければレンに頼んだあの子への連絡、意味なくなるぜ。そして絶対怒られる」



 デリーナは隠れ家を離れる前にレンにとある人物への連絡をお願いしていた。



「あー怒るだろうな。甘いもの用意しないとな」



 3人とも同じ人物を思い浮かべる。



「あのう」



 中年の女性が3人に声をかける。顔が疲れ、目に覇気がない、恐らく第2壁の外から逃げてきてきた人だろう。



「寒いでしょう。よかったらこれを」



 お盆に並ぶあったかいスープ。3人は感謝の言葉を述べ、口にする。口にいっぱいにうまみが広がり、体の内側から温まる。

 スープ堪能しているデリーナを女性はじっと見ていた。



「どうかされましたか?」


「いやその、突然なんですが、どこかで会った事ありませんか?初めて会った気がしなくて」



 デリーナは驚いた表情をした後、顔を逸らし、



「気のせいだと思います」


「そうですか、そうですよね」



 一礼をして女性は去って行った。

 体も温まったところで、3人は機体に乗り、操縦席で待機することにした。




 北門でタイレルが隊員達に忙しく指示を出していると、見張り台から連絡役が来た。



「隊長、角付きが現れたのですが、奴らの動きが妙で。見張り台におこし頂きたいのですが…」


「わかった、すぐ行く」



 角付きは現状、その動きには最も注意しなければない。部下に仕事を引き継ぎ、タイレルは足早に見張り台に向かった。



「なにしてるんだこいつら」



 タイレルが目にしたのは、大咬が踊る姿だった。正確にはそう見えるというべきか。角付きと通常体は手をとりその場で踊るようにステップを踏み、回っていた。それが壁を囲むように並び、他の通常体は回る者たちの後ろで待機している。

 その回転は徐々に速くなっていき、角付きと手をつなぐ通常体の足が浮き始めた。そして、ハンマー投げの要領で通常体を投擲する。放物線を描き、ついには壁を越え内側落ちていく。今日、壁の上を越えて訪れる者は2回目だが、今回は悪魔の来訪に他ならなかった。




 デリーナ達のいる反対側、南門の方で散発的に銃声が寒空に響く。



「なんだ?あいつら大咬射撃大会でもはじめたのか?」



 グードが冗談を言っていると、空から何かが飛来し、土煙を上げる。はれるとそこには壁の内側にいるはずのない化け物、大咬の姿。一機のヒトガタが手の届くほどの距離で大咬と対峙している。そのヒトガタはグード機だった。

 この至近距離ではヒトガタは分が悪いと考えるのが一般的だ。ヒトガタの主要武器と言える自動砲を構えるより先に、大咬の一撃が到達してしまう。また、赤ずきんの機体でもないかぎり力では通常体にすら敵わない。

 つまりこの状況は絶対絶命。

 大咬がグード機へ腕を振り下ろす。回避したとしてもこの距離では損傷は免れない。だからといってガードしたとしても、腕がひしゃげ次の一撃で沈んでしまう。

 この状況でグードはいずれの行動も選択せず、半歩前に出る。そして、大咬の振り下ろす力を利用して投げる。そこに自動砲や力は必要ない。数瞬の出来事。簡単に投げられた大咬は地面に倒れる。無防備に起きあがろうとした時、眉間に穴が開き、鮮血を吹き出し崩れ落ちる。



「あぶねえなぁ」


「グードさんさすがです!」



 ニーが興奮した様子で近寄る。



「余裕よ、余裕」


「柔の腕は衰えてないな」



 デリーナ機が肩をコツンと当てる。そして、グード機とニー機は自動砲を、デリーナ機は狙撃銃を構え、



「さあ来るぞ!」



 空から大咬達が迫っていた。

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