第14話:スナイプ1-12「変転」

 特異体の行く手を阻む赤き狩人達。

 特異体は肩を震わせる。しかし、その顔には笑みが浮かべられていた。



「ホホホ。私の策に翻弄された小娘が、何を言うかと思えば」



 特異体は目を細め薄く笑う。



「何が策だ。てめえが雷撃っただけだろうが」


「それでお仲間を失ったのは誰ですかねぇ?」


「失ってねぇよ…」



 その声からは沸々と煮えたぎり、今にも溢れだしそうな怒りが感じられる。



「落ち着いてくださいまし」



 ヘレナ機がデリーナ機にコツンと肩を当てる。



「わかってるよ。胸は熱く、頭はクールにだ。さっきの作戦行くぞ!あいつの頭に花火を打ち上げてやろう。あの気持ち悪い笑みを浮かべる顔を歪めてやる!!」


「了解…怖すぎますわ…」



 その言葉と共に狩りは始まる。ヘレナ機が特異体に向け一直線に疾走する。



「さあ我が下部達、お行きなさい!」



特異体の指示でツノ付き達がヘレナの方へ向かっていく。





「ツノ付きが爆発した!?本当か?」



 特異体のもとへ向かう前、狩りに向けデリーナとヘレナは情報を共有していた。



「ええ。おかげで衝撃波発生措置が使いものにならなくなってしまいましたわ。あの威力、デリーナの機体じゃ恐らく耐えられない」


「なら、ツノ付きの動きにも十分注意しないとな。とはいえ仲間を爆弾にとは胸糞悪い奴だな。」



 デリーナは顔には顕著に嫌悪感が表れている。



「作戦はどうしますか?デリーナ」



 デリーナは笑みを浮かべ



「私に考えがある。私の予想ではー」






「さすがデリーナですわ。予想通りに大咬が動きましたわ」



 ヘレナの方へ向かっていたツノ付きの一部が彼女を避け、デリーナに向かっていく。



『私の予想ではツノ付き同士は情報共有ができるはずだ。ツノ付き達が壁に攻撃してきた時、私達が南を撃破した後の北での防御や撤退がやけに早かった。二本の角をもつ特異体もおそらく同じことができるはずだ』



 デリーナは向かってくるツノ付きに対して自動砲を放つ。ツノ付きは小刻みに左右にステップを踏みながら近づいてくる。自動砲は一発で手や足を傷つけることができるが、ツノ付きの硬い頭部を傷つけるには数発撃ち込まねばならない。ツノ付きの動きによってその難易度は格段に上がった。当然、背部にマウントされた高威力の狙撃銃を用いたとしても、近づかれる前に処理しきるのは至難の技だ。



「ホホホ。情報通り。後方の赤ずきんは遠距離型。遠くから背中の長い飛び道具でチクチクされてはたまらない。早めに潰させてもらいますよ。その豆鉄砲でせいぜい頑張りなさい」



 やはり特異体にもデリーナの事は共有されていたようだ。特異体は満悦な様子で微笑む。



「さて、こっちの赤ずきんはどう料理しましょうか」



 ヘレナとツノ付きの戦闘も始まっていていた。今は群がるツノ付きに対して優勢に立ち回っている。が、爆発のダメージがやはり残っているのかあるのか、先ほどと比べて動きが悪い様に見える。一つ手を加えられれば状況が傾く危険性を孕んでいた。



「そうですねえ。小石を投げつけてみるのはどうでしょう」



 特異体には余裕があった。ひょいと近くのツノ付きを持ち上げる。そして振りかぶり投げようとした時、とあることに気づく。銃声が止んでいる。



「ホホホ。もう終わりましたか。案外早かったですねえ」



 特異体が視線をデリーナの方に向ける。



「…何ですと!?」



 特異体が驚きの声を漏らす。

 特異体の目に映っていたのは、頭から血を吹き出し倒れているツノ付き達。それを踏みつける赤いヒトガタ。2体のツノ付きが同時にそのヒトガタに襲い掛かる。それに対し赤いヒトガタは手にしているナイフを目から深々と一体に突き立てる。その刺したツノ付きをもう一体に投げつけ、体勢を崩したところを今度は頭のてっぺんからその硬い頭部をナイフを使い、無理やり力で貫いた。その赤きヒトガタは当然、デリーナの機体“モーガン”だった。



「なめるなよ。第一世代の赤ずきんのヒトガタとはいえ、でかい武器がなくても、銃が効かなくても、この距離ならナイフだけで対処できるんだよ。思ってた通り甘くみてやがったか、むかつくなあ」



 悪態をつきナイフの血を振り払う。デリーナを襲ったツノ付きはもう一体たりとも動いていない。正確に脳を破壊され、血を吹き出しながら倒れている。

 それを見た特異体は頭に太い血管を浮かび上がらせている。が、まだ口元は笑っていた。



「何を得意げに言っているのやら。足元をごらんなさい。その子らの角の一つ一つが強力な爆弾。ずいぶん動き回ったようですね。散らばった爆弾が爆発すればどうなるか!!」



 特異体の角が輝き、角と角の間に光を蓄積していく。それを見たデリーナは鼻でフッと笑う。



「知ってたさ!そのことも、てめえが行き詰るとすぐ雷で対処しようとすることもなぁ!ヘレナ!!」



 デリーナはヘレナの名を叫ぶと、ナイフに持ち替える時に腰に収めていた自動砲を素早く構える。



「承知しましたわ!!」



 ヘレナはデリーナの声に答えると、交戦中のツノ付きの一体の角をもぎとり空へ投げる。

 デリーナはそれを確認すると短く息を吐き、宙を舞うその角を狙い撃つ。弾丸は角に当たり、角はとある方向に回転しながら飛んでいく。



(ま、まさか!!)



 そう心で叫んだのは特異体。角の飛んでいった先は特異体の角と角の間。そこには蓄積した光の塊、もうすでに飽和状態。特異体自身でさえ止めることはできない。


 爆発。眩い光が辺りを照らす。その光はツノ付きの角が爆発した時よりも激しい。デリーナが撃った角だけでなく特異体の角までもが爆発したのだ。衝撃も凄まじく、特異体の護衛としていた近くにいたツノ付き達は跡形もなく消し飛んだ。

 閃光が消えたそのあとは、辺りの大地が削れ、ボロボロとなり白目をむいた特異体が一体、地面に倒れていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る