第13話:スナイプ1-11「反撃」
ー今現在ー
街と森の間に広がる平原。平時ならば青々とした短い草木が、風に揺られ踊っているこの場所。今は踏み荒らされ、地面が顔を見せている。一面に広がるは獣と鉄の軍勢。数では獣が圧倒的に勝っているようだ。
「撃ち方始め!」
ヒトガタの拡声器越しに放たれたタイレルの号令で戦場が動き出す。生を貪らんと狂い走る大咬達。対する防衛隊のヒトガタは横一列に並び、自動砲を斉射する。弾丸の嵐の中で大咬達は次々と倒れていく。が、それでも弾幕が薄いのか、死を恐れぬ奴らの行進は止めることができず、数の差がカタチになっていく。このままでは壁内の時と同じになることは明白だった。
「いずれも外部動力正常に作動、必要回転数に達しました」
タイレルにもとに防衛隊員が報告しに来る。
「よし!砲撃を開始しろ!」
その言葉に合わせて、周囲の音をかき消すほどの轟音が辺りに響く。そして後方から数多の光が流星群のごとく飛来し、大咬の存在を消し飛ばす。光の主を追うと、そこには高速回転する6つの大きな砲身、それが無理やり荷車に固定されていた。デリーナが使用していた拠点防衛用ガトリング砲と同じもの。それが合計4門並んでいる。動かすには1門につき3機のヒトガタが必要な分、その威力は凄まじく、大口径の弾丸が大咬の軍勢を赤に塗りつぶしていく。
「弾の供給を絶やすな!冷却液にも注意しろ!ここで一気に減らすぞ!…あっ皆さんご無事でしたか!」
デリーナ機がヘレナ機を抱えて着地する。
「援護ありがとうございます。助かりました」
「マジでヒヤヒヤしたぜ」
グード機も遅れて来た。
「発煙筒助かった、グード」
「お安い御用さ。それでお姫様の様子はどうなんだ」
「お姫様呼びはやめてって、前言いましたわよね?」
傷だらけの機体からヘレナが声を上げる。怒れるくらいには元気なようだ。
「先ほど機体の再起動をかけました。あっもう大丈夫、動けますわ」
デリーナ機の手を離れゆっくりと立ち上がる。
「ヘレナ本当に大丈夫か?」
デリーナが心配そうにそう言うと、
「ワタクシの機体”ヴィッキー”は赤ずきん中でも新しい機体。頑強さやパワーもトップクラス。何も問題ありませんわ!」
ヘレナが誇らしげに答える。
「そうか…」
ニーの事もありデリーナは不安が拭いきれない。
(けれど、今戦力は絶対に必要だ。あいつを逃がしてしまってはさらに被害が広がる)
少しの間考え結論を出す。
「わかった!最終チェックの結果を私に報告、それで大丈夫そうだったら連れていく」
「わかりましたわ。…それでどこに向かうつもりですの?」
「そりゃもちろん」
デリーナは不敵な笑みを浮かべる。
「私たち赤ずきんの獲物のところさ」
「ここはもう潮時ですかねえ」
気品の漂う口調で呟きながら、自身の手を揉む影。しかし人語を口にする者の手にしては不自然な点がいくつもあった。指が異様に長く、伸びる爪は湾曲し非常に鋭い。そして、針金のように太く硬い剛毛が手全体を覆っている。それは人ではなく忌むべき化け物、大咬のものであることを表していた。さらに、その大きさは通常体に比べ一回りも二回りも大きく、上の方に目をやるとその頭部には二本の雄々しい角。間違いない、こいつは大咬の長、特異体だ。
「あの大砲はやっかいですねぇ、それに赤ずきんども…次は攻略してみせますよ」
奮闘する防衛隊を観ながらまるで遊戯を楽しんでいるかのようにほくそ笑む。人間達は今通常体に意識が向いている。ツノ付きを一部同伴させている為そちらにも気をつけなければならない。つまり特異体を見ている余裕などない。数十匹のツノ付きを引き連れて2本ツノの特異体はここから密かに撤退を開始していた。もうすでに通常体の軍勢の影に隠れながら森の近くまで来ている。
「どこに行くんだ?(行きますの?)」
女の声。頭上を飛び越え目の前に2つの赤い機影が舞い降りる。
大咬を、特異体を狩るもの、赤ずきん。デリーナとヘレナ。
「お前には借りがある。きっちり返さないとなあ!」
「レディに手を上げてこのまま逃げられると思っているとは、お笑い草ですわ!」
デリーナは自動砲を、ヘレナは拳を構える。その動きに淀みはない。
「さあ狩りの時間だ!(ですわ!)」
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