第12話:スナイプ1-10「内側」
数十分前
「ニー!!返事をしてニー!!」
担架の傍でデリーナが名を叫ぶ。デリーナ達はヘレナの救援によって壁内に無事到達できていた。今はニーを手術室に運んでいる最中である。
「姐さん落ち着いて!後は医者達に任せよう」
そのまま手術室まで付いて行きかねないデリーナをグードが手で制し落ち着かせる。デリーナの目には涙が溢れていた。
「はい、深呼吸。吸って吐いて」
グードに言われるまま、デリーナは深呼吸をする。
「少しは落ち着いた?」
「うん」
まるで少女の様な振舞。
「そうかよかった。けど今日の姐さんおかしいぞ? いつも冷静沈着なのに、今日は焦って追撃したり、やけに取り乱したり、いったいどうしたんだよ」
デリーナは俯きしばし黙り込んだ。デリーナはここに来て、戦闘が進むにつれ冷静さを失っていた。
「それは…多分…ここが私の故郷だからだと思う」
親に悪事を問い詰められ告白する子供ように力なく答える。グードは頭をワシャワシャとかきながら、
「前話してたレンの兄貴との場所か。そういうことか」
どうやらこの都市は彼女と深い関りをもつ場所らしい。
「すまない」
グードは大きくため息をつき、
「なんで言わなかったんだ?」
「すまない…私の個人的な感情に巻き込みたくなかった」
グードからまっすぐ向けられる目、思わずデリーナは顔を逸らして答えた。
「もう巻き込んでるよ…ニーも俺も。それに人が動く時、根底にあるのは感情だ。それをないがしろにしてたらうまく戦えない」
デリーナは内側が揺れてしまうこの場所の事を仲間に告げず、渦巻く感情を押させつけたつもりでいた。しかしその感情が彼女を曇らせ、焦らせ、その結果ニーは生死の境をさまよっている。
「私は隊長失格だな..」
自身の愚かさが、導いてしまったこの結果が、彼女の胸を鋭く突く。
自責の念で顔を歪める彼女の肩に軽く手が置かれる。
「俺も姐さんに頼りすぎた。誰だって心象が良くないことがある。その原因を確かめる事や姐さんへのフォローが足りていなかった。隊長のサポートは二番手の大事な役目、すまなかった」
深々と頭を下げる。
「俺ら二人はニーに絶対に謝らなくちゃいけない。それも互いに生きて面と向かって。そのためにはこの戦いを終わらせなきゃならない。特に特異体を狩るには姐さんやヘレナの赤ずきんの力がいる。もう一度力を貸してくれ」
デリーナは目を丸くしてグードを見る。
「グードはほんと優しいな。期待に沿えるよう頑張るよ」
グードは顔を上げデリーナに優しい笑顔を向ける。デリーナはこれまでこの笑顔幾度も救われた。彼女の張りつめた心は落ち着きを取り戻していた。
「そろそろ機体の仮修復と補充が終わる頃だろう。ヘレナは今も戦ってる。確認に行くぞグード」
「おう!デリーナ姐さん!」
二人は整備中の自機の元へ向かうため駆け出そうとしたその時、
「デリーナ殿!」
後ろから声がかかる。声の主は防衛隊長タイレルだった。二人は顔を見合わせる。
「タイレル殿、どうされました?」
「我々もご一緒したいのですが」
タイレルの後ろには数十人の部下たち。彼らは大咬の襲撃によって戦意を喪失していたはずだ。しかし今は皆同じ目の色をしている。デリーナはこの色を知っていた。復讐の色だ。家族を、仲間を、大切な人を奪われ、復讐に燃える者の色。デリーナの目にも映る色。余計な言葉は必要無い。信頼できる。デリーナとグードはアイコンタクトを取り合う。そして、
「わかりました。防衛隊の皆さんは通常体をお願いします。私はまず今も戦っている赤ずきん、鉄拳のヘレナに加勢します。皆さんが通常体を抑えてくれれば、元凶であるツノ付きや特異体までの道が開けます」
「わかりました。全力であたらせて貰います!」
大咬に奪われた者達の心が鼓動し脈を打つ。
「必ずや大咬を駆逐し、この都市の平和を取り戻しましょう!」
その言葉はタイレルだけに向けた言葉ではなかった。復讐を誓いし者達への言葉。
「「「ウォォォォ!」」」
防衛隊が雄叫びをあげる。彼らは壁の先の地獄へ踏み出す。この都市の平和を取り戻す為に。
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