第11話:スナイプ1-9「爆発」

 通常体がヘレナの周りを大きく囲む。彼女に退路はない。その大咬製のリングにツノ付きが入場、数は12。

 ヘレナ機はツノ付きの様子を伺いながらゆっくりと構える。無音のゴングが鳴ったように、突然駆け出したツノ付き。内4匹はヘレナを囲み両手を広げ、襲いかかる。ヘレナは通常体にしたように地面に拳を叩きつけ、衝撃波を発生させる。地面を伝導しツノ付きは吹き飛ばされる。それを躱し迫る影。間隔の短い次なるツノ付きの襲撃。全方位。前後左右はもちろんのこと、空までも塞いでいる。



(弱点にもう気づくとは、なかなかですわ)



 弱点。それは衝撃波を使った範囲攻撃や砲撃は非常に強力ではあるが、次使用可能になるまでの間隔が長い。それをカバーするためヘレナはすぐに回避行動に移っていた。しかし今、逃げ場はない。鋭利な爪がヘレナ機を串刺しに…



「芸のない攻撃ですこと」



 できなかった。剣さしマジックをのマジシャンのように器用に体をくねらせ紙一重で避ける。



「さようなら」



 幼い声を奏でる唇は薄く笑っている。ヘレナ機はくねらせた体を戻しながら一匹のツノ付きの頭部へ裏拳。熟れた果実が強く強く叩きつけられる様を見たことがあるだろうか?皮が裂け内包物を勢いよくぶちまけ、ちぎれ、辺りを果肉の色に染める。裏拳を受けたツノ付きの頭部はまさにそれだった。

 ヘレナを囲むツノ付きの堅牢は崩れた。一撃また一撃と粉砕されていく。彼らの見立てが甘かったと言わざるをえない。確かに衝撃波や砲撃をヘレナは多用した。しかし、それはあくまで処理の効率が良いから使用したのであって、ヘレナ機のその拳は十分な破壊力を持ち合わせていた。

 現在の流れは完全にヘレナに向いている。一方的に果実が叩きつけられていく。リング内のツノ付きが半分になろうとした頃、特異体が動き出す。双剛角が光り出す。荒れ狂う竜のような雷撃がヘレナの方へ放たれた。



「そのような攻撃あたりませんわ」



 ヘレナはすぐさま近くのツノ付きの影に隠れる。まっすぐ向かってくる雷撃はそのままツノ付きを打つ。ヘレナはこの時気づかねばならなかった。雷撃はヘレナに向かっていたのではなく、ヘレナが隠れたツノ付きの頭の角に向かっていたということに。



「え?」



 ヘレナ機が眩い光に照らされる。光源はツノ付きの角。衝撃、ヘレナ機が吹き飛ばされる。まともに受け身が取れず、地面激突。地に伏す、立ち上がれない。


「がぁ…一体なにが…」



 ヘレナは朦朧としながら爆心地を見ると、そこには上半身が失われ、かろうじて足が残っているツノ付きの姿。



(ツノ付きが爆発するなんて…)



 雷撃を受け取ったツノ付きの角は爆発し、その衝撃は自身の主までも巻き込んだ。しかし、威力は確かなもので、まともに受けたヘレナ機は今も立ち上がれずにいる。



「ダメ…システムがダウンしてますわ…っく!?」



 再び衝撃がヘレナを襲う。しかし今度は角の爆発ではない。短い間隔で何度も繰り替えされる。辛うじて機能していたヘレナ機の瞳が、外の状況をヘレナに伝える。それはツノ付きがヘレナ機に群がり、腹いせのように機体を踏みつけたり、蹴り上げている様だった。生殺与奪の権は大咬達にある。今は完全に遊んでいた。少しずつ機体の傷が増えていく。しかし、ヘレナにそれを止める術はない。



「デリーナは無事にニーを連れていたのかしら」



 終わりが近づいている中、何もできないことによって生まれた心の余裕。ヘレナはデリーナ達の身を案じていた。そして唇を軽く噛み、ふと、とある人物の名を口にする。



「ローズ…」



 機体の揺れがおさまる。ツノ付き達の遊びが終わったことを表していた。ここからは命を貪る時間。一体のツノ付がが涎をたらし歪に並んだ牙を見せる。笑っているようにみえた。嘲笑っているようにみえた。首元まで裂けた口を大きく開き、咬みつこうとしたその時、そのツノ付きの頭部から脳漿が飛び出す。そして突然ヘレナの周りを濃い煙が覆う。



「発煙筒!?」



 ヘレナ機は捉えていた。円柱状の煙を吐き出すものが地面に転がっているのを。



「ヘレナ!!」



 彼女の名を呼ぶ声。ツノ付き達は突然視界が奪われた為か右往左往している。最初に煙の中から飛び出したのは深紅の機影。女性のようなシルエットが二つ。一機はもう片方に抱えられていた。



「ごめん!遅くなった!」



 デリーナが助けに来たのだ。機体はある程度修理されてヘレナ機を抱えられるまでになっていた。軽く跳躍して大咬のリングを出る。しかし、大咬達がだまって見ているわけがない。二人を逃がすまいと一斉に走り出した。



「放て!」



 走り出した無数の大咬達に鉛の土砂降り。前の方から爆ぜていく。大咬の歩みは急に止められた。大咬達と対峙する者達がいる。防衛隊だ。壁の中で味わった苦渋を、市民を、仲間を殺された恨みを晴らすため、守りに徹していた彼らが壁から出撃し、大咬達の前に立ちはだかる。



「生きて帰れると思うなよ」

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