第37話:コクーン2「強化プラン」
ヴェリテは皆を一瞥し、
「ヘレナは日程を終えているだろう。聞く必要ないはずだが…まあいい」
彼女は一つ咳払いをして、
「今回の強化プランは赤ずきんのヒトガタ"シュバル"の第1世代〜第3世代の性能を底上げをするのが目的だ。
皆の知ってのとおり"シュバルの心臓"は通常のヒトガタの心臓と違い、原本を直接用いなければならない。その上、原本の解析によって早くはなっているが今現在でも半年に一機、年に2機しか生成できない。その心臓を使ってこれまでに造られたシュバルは30機、内15機は破壊され、2機は損傷によりシュバルには使えない。残る13機で我々は大咬と戦わねばならない。我々はもう1機も失う事はできない。
そこで今回の強化プランだ。全体的に装甲の強化や人工筋肉の改良型の導入、及びデリーナの第一世代シュバルのモーガンは心臓の外部ユニットによる性能向上、メイジーの第二世代シュバルのアッシュも同様だ。
ヘレナは既にテストを終えている、2人はこれからだろう、君たちの頑張りが大きな影響を与えるそのことを忘れずに取り組むように。
私からは以上だ、テストの詳細はクロエに任せる。では失礼する」
ヴェリテが部屋を出ていくと、クロエが正面に立ち口を開こうとしたが、
「資料で大体わかってる、少し席を外す、構わず続けてくれ」
デリーナがそう言って部屋から出て行ってしまった。
デリーナは駆け足でヴェリテを追う。
「おい!待てババァ!」
「相変わらず口が悪いな」
ヴェリテは立ち止まり振り返って鼻で笑った。
「あんたに言いたいことがある!」
「拠点都市ヴァーレの壁の件だろう?」
「ああ!そうだ!あそこへの壁の建設を進言したのは私だ!何故第3壁の建設が中止になった事を伝えてくれなかったんだ!」
「あそこの住人が決めた事だ。それにお前に言ったら直接赴くだろう?赤ずきんの目的はなんだ?大咬を狩ることだろう?あそこに関わるとお前は冷静さを失う!」
「ぐぅ…」
「実際、あそこでの狩りで冷静を失って人的損害をだしたらしいじゃないか。ヘレナに援護要請もしたのだろう?」
「うぐぐ」
「そもそも緊急じゃ無ければ、貴様にあの地区に行かせたりしない。ヘレナが2日もかからない内に来れたのは、最初から危惧して配置していたからだ!故郷を想うことは悪いとは言わない、が貴様は赤ずきんとしての自覚が無さすぎる!我々の目的は大咬、特に特異体の討伐が目的だ!各々の赤ずきんが効率的に特異体を倒していくことが人類がここに停まれる唯一の方法だ。それが貴様の故郷を守る事に繋がる!故郷にだけに終着しすぎるな!」
デリーナはツノ付き特異体との一件を思い出し苦虫を噛んだような表情をしていた。
「ヴァーレに執着し過ぎなのは認める…私は確かに冷静じゃなかったな」
完全に勢いを失ったデリーナは俯いてしまった。
「話は以上か?いくぞ?」
ヴェリテが再び歩こうとすると、
「ま、待ってくれ。あと一つ、私を20年前助けてくれた"始まりの赤ずきん"についての情報はないのか?」
ヴェリテため息をつき、
「悪いな、その件は調査中だ。めぼしい情報は得られていない」
「そうか…話は以上だ…」
ヴェリテはそのまま廊下を歩いて行った。
力無い歩みで部屋に戻るとミーティングは始められていなかった。
「あ!デリーナさん帰ってきた。これちょっと見てくださいよ!」
「ちょ、ローズ」
ローズをヘレナは必死に妨害しようとするが、防ぎきれず、一枚の写真がデリーナの元に届く。見てみると写真に写っていたのはドレスを着たヘレナだった。
「何これ…」
「ほらこんなもの見ても」
ヘレナがデリーナの手から写真から取ろうとするが、
「へ?」
それをデリーナはかわした。そして、上に掲げて
「かわいぃぃ!」
「そうでしょ!他にもこんなにも」
ローズはどこに隠し持っていたのかヘレナを撮った写真をたくさん取り出した。
「こっちもなかなかいいな」
「抱っこしたい…」
クロエとメイジーにも好評らしい。
ローズはご満悦で、対するヘレナな顔を真っ赤にしてうずくまっていた。
「ヘレナもいいが、こっちもいいぞ!」
そう言ってクロエも写真を出して皆に見せた。
「何よ…これ…」
そう呟いたのはメイジー。写真に写っていたのはメイジーの寝顔だった。
「かわいい!」
みんな一斉にそう口にした。
メイジーはそれを奪おうとするが、身長の高いクロエが上にやって、子供がおもちゃを取り上げられたような状況になった。
「カメラは!作戦に有効利用する為に使いなさいって!原本の解析後!優先的に赤ずきんに提供されたはずでしょ!」
珍しく叫ぶメイジー。
「有効利用してるよ。寝顔で健康をチェックしてるさ」
「そんなこと言って!」
ヘレナとローズ、クロエとメイジーが言い合っている。
レンはそれを遠目に見ていて、そばにデリーナがそっと近づき、
「あんたは何か撮ってるの?」
「ええ、まぁ」
そう言ってレンはバッグから写真を取り出した。期待してそれを見たデリーナだったが、
「何これ…」
そこに写っていたのは特異体の死体ばかり
「特異体の生態調査の為に利用してます。彼ら謎だらけなん――」
そこで突然、デリーナがレンの頭を叩く。
「痛っ!何するんですか!」
「撮れよ!私を撮れよ!!40歳のババァは撮れないってかぁ!?」
「ええぇ」
彼らがミーティングを始めるまで暫く時間を要した。
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