第38話:コクーン3「徒手」

 焦げ茶色の地面に整地したのだろう、無数のローラーが通った跡がある。山沿いには大きな的が幾つもの並んでいた。ここは第一試験場。主にヒトガタに関する試験が行われる場所である。 

 その中に日光に照らされ鈍く光る二つの人影があった。十数メートルの人影、印象的な真紅のボディ、その手には戦斧あるいは狙撃銃を持っていた。


「あー聞こえるか?」


 その2機を少し離れたところから車窓越しに確認したクロエが、手元のマイクに呼びかけると、


「聞こえてる」

「聞こえてるぜ」


 メイジーとデリーナ両名は赤ずきんのヒトガタ通称"シュバル"に空いた片手を挙げさせて返事をした。


「よし、今日は合同試験だ。とは言っても改良後のただの慣らしだがな。2人とも調子はどうだ?」

「フィードバックが少し強い気がするが、神経接続は特に問題無いな。全体的に良好だ」


 デリーナのシュバル"モーガン"が慣れた手つきで狙撃銃を操作する。


「デリーナ、実際試験を開始してフィードバックが戦闘に影響が出そうならまた教えてくれ。メイジーはどうだ?」

「この斧…凄くいい…!!」


 メイジーのシュバル"アッシュ"は手の中で斧をくるくる楽しそう回している。


「大丈夫そうだな…。レン、スケジュールをもう一度確認させて」


 クロエの隣に座って、メイジー達を見ていたレンは慌てて、彼女に試験場の日程を記した紙を見せた。


「…余裕あるな。まぁせっかくだ、久しぶりに慣らしの一環として、2人で素手で殴り合ってみないか?」

「ああ、いいぜ」

「…望むところ」


 クロエに対しメイジーとデリーナはすぐに返事を返し、シュバルを構えさせた。


「大丈夫かなぁ」


 その2機を見ながらレンが小さく呟く。


「レン、2人が徒手で戦うのを見るのは初めてか?」

「ええ」

「どっちが勝つと思う?」


 レンは間を開けず答える。


「それは、デリーナさんのモーガンは射撃型の第一世代、メイジーさんのアッシュは近接格闘型の第二世代、シュバルの心臓の出力も改良されたとはいえ世代での性能の差は大きいですし、普段から近接格闘をしているメイジーさんが有利かと思います」

「レン、デリーナのパートナーになってからどのくらい経つ?」

「え?グードさんから引き継いで1年ぐらいになります」

「ならいい機会だ、パートナーの事を知るにはな」



 対峙する2機。暫く距離を保ったままだったが、動き出した。最初に仕掛けたのはメイジーだった。大きく振りかぶり、モーガンの頭部目掛けて殴りかかる。これを力を抜いて構えていたデリーナは、冷静に半歩ほど横に動いて回避する。巻き起こった風が鳴き、モーガンの頭部を撫でる。

「もらった….」

 デリーナが回避した先には間入れず繰り出したアッシュの拳をがあった。モーガンの今の体勢から回避するには困難な位置であった。


「こんな見え見えのをまぁ」


 回避する必要がないと言わんばかりにデリーナはそれを受け流し、その拳を地面の方向に逸らす。地面に落ちた拳は大地を割り、辺りを揺らした。クロエとレンの乗る車も激しくゆれ、机の上のものが次々と落ちていく。


「わぉ」

「あれ、本気過ぎません⁉︎当たったらただじゃすみませんよ⁉︎」


 温度差の激しい2人をよそに格闘戦は激しさを増してく。主に攻めているのはメイジーであるが、攻撃はデリーナの機体を捉える事がいまだ出来ていなかった。


「…いい加減に…!!」


 痺れを切らしたメイジーが大きく振りかぶっり拳を突き出した。


「スキあり!」


 デリーナはメイジーの勢いを利用し頭部にカウンターの拳を当てる。体勢を崩しよろめいたアッシュにモーガンがそのまま肉薄した。


「うっ!」


 アッシュが苦し紛れの一撃を繰り出す。腰が入っておらず、先程まで繰り出していたものとは比べ物にならない弱々しいもの。その突き出した腕にモーガンの腕が絡みつく。

 アッシュの体が宙に浮き、そして地面に叩きつけられる。そして、地面に倒れたアッシュの顔の直ぐそばをモーガン踏みつけた。


「そこまで!」

「ああ…負けた…」


 クロエはレンに対し、


「デリーナの体術は赤ずきん随一なんだ」


 ムセンキ越しにそれを聞いたデリーナは小さく息を吐いて、


「対人ではな、大咬相手じゃあんまり役に立たない」

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