第39話:コクーン4「斧最強」
「意外と大変ですわね…」
「でも、大咬を狩り尽くした時、役に立つかもしれませんよ」
ヘレナとローズは明日の出発に向けて、掃除、新装備や旅に必要なもの諸々の搬入、整理を行っていた。
その中でローズはヘレナに一般的な手続きのやり方など、生活に必要なものを教えながら進めていた。そういう事務的な事は普段ローズに任せっきりだったため、ヘレナにとって大変に感じたのだ。
「とりあえず一回休憩しましょうか」
ヘレナは木箱に腰掛け体を伸ばし、
「了解ですわ。そういえば次の目的地はどこでしたっけ?」
「エジンバラです。ここからちょうど東に行ったところある大きな都市です。でもそのまえにやる事があります」
「やる事?」
「先程、崖の崩落が報告されました。そこの瓦礫の除去です。物流の主要な道路を防いでいるらしく急ぎみたいです。明日の朝は早いですよ」
「他のヒトガタとかに任せられないの?」
赤ずきんは特異体を狩る事を最優先としている、特異体を狩ることができるのが大規模な軍隊か赤ずきんしかいないからだ。そして、危険地域と呼ばれる場所では特異体は神出鬼没であり大抵赤ずきんが担当する。故に、本来他の事は二の次になるが、
「できる分はやったみたいなのですが、いくつか大きな岩があって普通のヒトガタの出力では厳しいみたいです。私たちもちょうどそこを通る予定ですし」
「まぁ、いいですわ。あっ」
「どうされたんですか?」
「そういえばローズ宛に小包から伝えるように言われて――」
走り出すローズ。その背中を見ながらヘレナは、
「最近ローズ、様子がおかしいですわ…朝何処か行ってますし。こういうのは詮索しない方がいいのでしょうか…」
第一試験場
ダァンッ!
重々しい音がこだまする。
岩壁に沿って並んだ大咬を模した射撃用の的が風切り音と共に吹き飛ぶ。
「この距離で当てるとは!さすがデリーナさん!」
双眼鏡を手にレンが叫ぶ。
連続して射撃音が響く。肉眼では小さな点にしか見えない距離、風も強い、それでも並んだ的の大咬の頭部にあたるところをデリーナの操るモーガンは正確に射抜いていく。
「ふーいっちょあがり!この狙撃銃悪くない、今使ってるのより扱い安いぜ」
モーガンは空になった弾倉と次の弾倉を入れ替え装填していると、
「なんだメイジー」
アッシュがモーガンの肩を叩いた。
「なんで…斧を使わない?」
「は?」
デリーナは思わず間の抜けた声を出した。
「そりゃ、アタシが狙ってるのは遠くの的だし、狙撃銃を使う方がいいだろ?それにアタシの赤ずきんとしてのエモノは狙撃銃だし」
至極当然の説明をデリーナはしたが、メイジーは納得してない様子で、
「見てて…」
そう言うとメイジーの操るアッシュは腰にぶら下がっていた、トマホークを手にして、
「アックース」
アッシュは大きく振りかぶり、その手と反対の足を高々と上げる。
「ライフル!」
思いっきり踏み込みトマホークを投擲する。
周りの砂を巻き上げながらトマホーク飛んでいき、最終的に的に着斧し跡形もなく吹き飛ばした。
アッシュは投げた姿勢を保ちながら、顔だけをデリーナへ向ける。
「…直接顔見なくても得意げな顔してのがわかるぜ…」
デリーナは深々とため息をついて、
「ほらあれだろ?アタシのモーガンは第一世代だろ?パワーは第二世代よりは貧弱だろ?だから――」
「力は…必要ない…コツがある…」
「いやまぁ…それにほら、斧は沢山は持てないだろ?投げてちゃすぐに無くなっちまう。その点狙撃銃だと数十発分は携行できる」
「大丈夫…私は外さない…一撃ズドン」
譲らない二人の会話は平行線だった。
(斧の方が絶対いいのに…)
(斧信者め…)
二人はその後も試験終了まで度々、斧か狙撃銃かで揉めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます