第34話 フィスト1-エピローグ

 狩人は狩りを終え次への準備をする。

 ヘレナとローズは次の特異体討伐を命じられ、第四支部に帰ってすぐに準備に取り掛かった。


「次は2日かかるから、これはいる、これはいらない」


 ヴィッキー修理に半日かかる為、その間ローズは次の旅に必要なものを用意していた。トラックの運転席や助手席とヒトガタを乗せる荷台の間に位置する収納スペースで荷物と睨めっこしている。

 その収納スペースの扉の窓から覗き込む影あった。


「トラックありがとうございます。直ぐに出られるとは思いませんでした」

「ほんとよ。こっちも予備のトラックを使う機会があるとは思ってなかったわ。体当たりするなんて聞いたとないし」


 ローズが機体格納庫で整備長と話している。トラックや機材についてのようだ。トラックは大破し、中にあった機材の大半が壊れてしまった。ところが、幸いトラックや機材の一部は予備があった為問題なく揃いそうである。そんな内容の会話をしている二人を頭上の足場から覗く影が一つ。


「?」


 ローズがその影に気づいて見ると、その影は慌てて躓きながらその場から逃げるように走り去った。


「すみません。特異体の被害が凄くてこれだけなのですが大丈夫ですか?はい」

「いえいえ十分です!ありがとうございます!」


 今度はニーニャとローズが旅に必要な食料について話している。旅に食料は重要だ。十分確保しておかなければならない。彼女らがいるのは食料庫。たくさんの木箱が積み上げられ、並べられている。そのうちの一つの木箱の塔から顔を覗かせる小さな影。


「それではまた後で…あっそういえば――」

 ローズがニーニャと別れようとして、言い忘れていたことを思い出し身を翻すと、影はそのフェイントにつられてバランスを崩し盛大に倒れた。


「どうかしましたか」


 ニーニャが別な方を見ていたローズが気になって振り向いたが、そこには誰もいなかった。


 半日が経ちヴィッキーの修理が間も無く終わる。ヴィッキーを受け取れば次の狩場に向けてすぐに出発しなければならない。その為トラックでローズが最終チェックをしていた。手に取ったリストにチェックをつけて確認がしていく。


「はぁ〜」


 その途中でローズは深いため息をつき、顔をしかめる。そして、


「何か御用ですか!ヘレナお嬢様!」


 トラックの隅に隠れていたヘレナはゆっくりと出てくる。


「なんでも無いですわ!何にも…無いです…わ…」


 ヘレナはモジモジしながら、口を開いて何かを言いかけて口を閉ざすのを数度繰り返す。そして、拳を強く握り意を決したように顔を上げて、


「ごめんなさい!」


 ヘレナが深々と頭を下げる。ローズは驚き、


「どうされたんですか!?また何か殴り壊したんですか!?」


 ヘレナは頭を左右に振る。


「いやそうじゃなくて…これまでの態度とか…言い方とか…」


 ローズはなんだその事かと、


「私共のやった事を考えれば当然の態度だとおもいます。そのお言葉ありがとうございます」


 ローズも深々と頭を下げたが、そのままあげずに、


「あーでもちょっと傷ついたなぁ」


 ローズは顔を上げて眉をひそめた。ヘレナの表情が目に見えて暗くなり、俯いてしまう。対するローズは悪戯な笑顔で、トラックから一つの大きなバッグを取り出した。それはトラック大破の時、無事だった数少ない一つ、彼女はその中に手を入れ、


「これ着てもらわないとなぁ、屋敷から持って来たんですけど」


 バッグから取り出したのはヒラヒラしたドレスだった。落ち込んでいたヘレナの眼が鋭いものになり、


「嫌ですわ、ローズ。わたくしがそういうの着たく無いの知ってますわよね?」

「えー絶対似合いますよ?着ましょ!」

「嫌ですわ!」

「着てください!」

「嫌っ!」


 二人は笑顔だった。あの事件から生まれた軋轢、それがやっと消えた。

 近づいた二人の心、それが彼らの狩りをどう導くのか。彼らの狩りは続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る