第50話:コクーン15「投擲」

 特異体の額からドロリと血が流れ出す。しかし、それだけだった。血の流れは止まりそれ以上は出てこない。特異体が頭を下に傾けると赤みを帯びた弾丸が下へ落ちていった。


「嘘っ!?」


 デリーナが放った弾丸が頭蓋骨に対し垂直ではなく角度をつけて着弾したのだろうか?それならば納得がいくはずだ、弾丸の持つエネルギーが滑るように流され充分に力が作用しなかったのだろう。しかし、デリーナは思い返してみたが、確かに弾丸は頭蓋骨に対し角度をつけずほぼ垂直に着弾した。にも関わらず頭蓋骨を貫く事すらが叶わなかった。その先の脳を傷つける事などもってのほか、特異体の受けたダメージはほぼ皆無と言えた。

 理由は単純、この特異体の頭部があまりにも硬すぎたのだ。少し頭蓋骨を削った程度で弾丸を止めてしまった。

 何事も無かったように特異体が動き出す。真っ直ぐ手を飛ばしモーガンを指越しに捉え、狙いを定めた。特異体の手のひらから空気が噴き出すような音と共に糸が飛び出す。


「チッ」


 デリーナは当たらぬように螺旋を描きながら飛行し回避した。そしてそのまま接近し特異体の一振りを躱して背後に取り付く。折り重なった分厚い特異体の装甲の間に手を入れ、引き剥がそうと暴れる特異体をいなし、バルーン横から突撃銃を取り出した。

 まず、照準は頭部を捉える。


「通らねぇよな」


 この選択は本来ならば唯一沈黙させられる手段であるため最適であるが、通りはしないだろう。振り払おうとする特異体の動きがだんだんと激しくなる。機体が上下左右に振られてが手が少しずつ抜けていっている。デリーナは次の手を求めて見回した。昆虫のような鎧を纏った特異体の体、デリーナの持ち合わせた武器では通すことはできないだろう。あのモーガンより力の強いアッシュでもできなかったのだから。メイジーのアッシュでも。彼女はハッと、すぐさまとある場所を注視した。


「メイジーに感謝しないとな」


 そう言って命綱である、手を装甲から抜いてしまった。このままでは弾き出されてしまう。が、そうはならなかった。抜いてから素早くデリーナは突撃銃をとある場所に突き立てた。そこはメイジーが斧を振り下ろし装甲にできた亀裂があった。銃の先端が削れつつも突き刺さり、振り落とされずに済んだ。光明が見えた。


「全弾ぶち込む」


 そのまま、モーガンは目一杯引き金を引いた。弾丸が装甲の内側で暴れ回り、筋繊維を削り焼いた。特異体は痛みのあまり呻き声をあげる。砲身が熱で焼き切れるまで放った。しかし、傷口は広がったが、それでも特異体は落ちない。


「まだだ!これも食らえ!」


 ツボ状の爆弾を突き刺した。爆発というより焼夷で、熱により装甲が亀裂を起点として歪み割れ始めた。もう一本突き刺そうとした時、特異体が突然、背面飛行を始めた。対応が遅れ体勢を崩したデリーナの機体に糸が絡みつく。そして、無理矢理引き剥がされ、そのまま首根っこを掴まれてしまう。特異体の手に力が入る、ミシリと機体が悲鳴を上げた。

 万事休すかと思われたその時、空気を切り裂く音、続けて鈍い音が響く。モーガンに空気そして特異体の腕から振動が伝わる。

 特異体の肩に何かが突き刺さっていた、デリーナが集中的に攻撃した場所だ。それは一振りの斧。


 デリーナのはるか下の地上で"彼女"が見上げる空には光が一つ。デリーナが焼夷で焚いた光がまだ輝いていた。


「アックス、ライフル!」


 アッシュはそこへめがけて弓の弦を限界まで引いたように全身を使い、斧を投擲する。

 2発目の斧。この距離でも"彼女"メイジーの投擲の威力、精度は落ちない。


 ミシリ


「おいおいまじかよ」


 デリーナの耳入るほどの骨の崩壊音が響く。

 後もうひと推し、そう考えたデリーナは2つあるバルーンの一つを切り離しぶつけた。横に残っていた武装を爆発させる。

 そうすると特異体の羽はあられも無い方向に曲がり、特異体はギャァと悲鳴を上げた。羽ばたくことができず、螺旋をえがきながら落下していった。減速することなく特異体の巨体が地面に叩きつけられ大地が深々とひび割れた。

 ちょうど目の前にメイジーがおり、遅れてゆっくりとデリーナが降りてきた。


「目印、閃光良かった。わかりやすかった」

「虫なら焼けるかなと思ってやっただけだぞ」


 全身の痛みに震えながら特異体は立ち上がる。それをデリーナは一瞥して、自分の頭を軽く叩いた。


「そいえば、何だっけな」

「骨も残さないでしょ?」

「ああそうだった」


 余裕のある言葉を交わし二人は武器を構えた。メイジーは2つの斧、デリーナはライフルと突撃銃を構える。


「ラウンド2だ!いくぞ!」

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ブラッディフード イシナギ_コウ @ishinagi_kou

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