第23話:フィスト1-6「足元にご注意を」
ヒトガタの一斉射撃の渦中にいた特異体は姿を消していた。特異体が先ほどまでいた地面はえぐれ焦げ付いていた。そして、そこには大きな穴があった。
「警戒しろ!奴は地中に――」
隊長の叫び声を遮るように、特異体は地面から現れ黄土色のヒトガタ一機の胸を手の甲から伸びるドリルで貫き、ヒトガタは力なく倒れた。そして、他のヒトガタ達が銃の照準にとらえるよりも速く再び地面に潜られてしまった。
残ったのは胸に大きな穴の開いたヒトガタ。漏れ出る潤滑油と血のミックスした液体がゆっくりと広がっていく。静寂が場を支配する。
ヒトガタの乗り手達は全身に嫌な汗をかきながら、辺りに意識を張り巡らせる。
(奴は、奴はどこから)
副隊長は注意深く地面を観察していた。そしてとあることに気づく。草むらの中の小さな石がカタカタと揺れている。そしてその揺れは次第に大きくなり、
(来る!)
副隊長機が一歩後ろに下がると、その場所から特異体が地面を突き抜け現れる。
「ビンゴ!」
そう言って副隊長機は勢いよく飛び出した特異体の顔に投擲砲を放つ。至近距離だった為、爆風が機体にもおよび両手が吹き飛んだが、特異体の頭部に直撃させることができた。さすがに一発では硬い皮膚を破壊することはできなかったものの衝撃は頭部を伝播し脳に影響を与え、特異体は動きを止めた。
「今だ!」
副隊長の叫び声に反応して、ヒトガタ一機が特異体の背後に跳躍する。狙うは箱型で穴を空けられ、肉が露出しているあの部分。
「これでもくら…え⁉」
地面に着地して投擲砲を撃とうとしたその時、足元の地面が崩れる。そのまま、すっぽりと胸の下まで埋まってしまい、身動きが取れない。
「落トシ穴ッテイイネ!」
意識を取り戻した特異体は歯を見せて笑い、目の前の副隊長機にドリルを突き立てる。副隊長機は残った腕で胸のコックピットを咄嗟に守るが、ドリルは腕ごと胸を貫き、機体は痙攣しながら地面に倒れる。そして、素早く地中に姿を消した。
「誰か引き上げてください!コックピットのハッチは歪んだのか開かないんです!」
落とし穴にはまってしまったヒトガタの乗り手が周りに助けを求めるが、誰も動かない。正確には動けない。他のヒトガタ乗りの脳裏には懸念があった。特異体はいつの間にか落とし穴をこさえていた。では数は幾つだろうか? 複数ある可能性は否定できない。 場所は? 一歩踏み出せばそこにあるかもしれない。わかることは今自身のいる場所はとりあえず安全ということ。下手に動けば特異体の落とし穴の餌食になる。
「皆さん!何してるんですか!早くしてくださいよ!!な、なんの音だ……ねえ聞こえましたか⁉」」
機体に軽い衝撃。何度か引っ張られた後、機体が地面に引きずりこまれる。
「いやだあぁぁぁぁぁぁ!」
引きずり込まれた穴から悲鳴だけが響く。やがてそれも消える。
「クソ!このままでは…どうすれば…」
気づけばヒトガタを3機やられてしまった。隊長は頭を抱える。この状況を打破する術を懸命に考える。
「あっ!」
隊長は先程、隊員が引きずり込まれた穴に目を向ける。
(特異体はさっき潜ってからまだ出てきていない。つまりまだあの穴の先にいるはずだ。繋がっているはずだ!ならば!)
「各員、3番機が引きずりこまれた穴に榴弾を打ち込め!」
残った6機のヒトガタが一斉に先ほど味方が引きずりこまれた穴めがけ投擲砲を撃つ。ポンポンポンと音を出して射出された榴弾は放物線をえがきながら綺麗に全発、穴の中に入っていく。爆発。大量の榴弾が同時に穴の中で爆発しその爆風、衝撃波が逃げ場のない閉鎖空間を駆け抜ける。そして、隊長機の背後に大きな音を出しながら外に出てくる。
隊長機が咄嗟に後ろを見ると特異体が立っていた。爆風の出口となった穴から数百メートル離れたところに。
「いつの間に外にでて――」
隊長が言葉を終える前に地面が揺れはじめ、足元に亀裂が入る。慌てて跳躍姿勢に入ったが時すでに遅く、地面が大きく崩れ、ヒトガタ達は奈落に落ちていった。
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