第18話:フィスト1ー1「関係」
鉄の部材によって構成された鉄骨構造のジャングルの中で照明に照らされている一つの大きな人影。”ヒトガタ“十数メートルの機械仕掛けの巨人はそう呼ばれている。
そのヒトガタのボディは女性のような滑らかラインを描き、頭から肩にかけては真紅の頭巾を身につけているように見える。両腕は大きく、特に肘から下の太さは胴体の太さを優に超えていた。
その特徴的なヒトガタを見上げる一人の少女の姿。"赤ずきん"身なりから彼女等はそう呼ばれている。少女の瞳は美しい白群で、その容姿にはまだ幼さがあった。
「ヘレナお嬢様!一緒にお菓子でもどうですか?」
ヒトガタを囲む足場の一つから、前髪を綺麗に切り揃えた20代の女性が手を振りながら笑顔で少女に呼びかける。
ヘレナと呼ばれた少女は顔も彼女の方に向けずに、
「フッ、ローズ、あなたと? 冗談キツイですわ。少し外に出てきます」
そう悪態をつき機体格納庫から足早に出て行ってしまった。
ローズと呼ばれた女性は肩を落とし、トボトボと足場を歩く。
「今、大丈夫かい?」
ローズより一回りも二回りも体が大きく、温厚そうな面持ちの女性が彼女に声をかけた。
「ええ、リップ整備長」
リップと呼ばれた女性は片手に持っている書類をパラパラと軽く確認しながら、
「リップでいいよ。今”複製”によってパーツを生成中だから、あんたらのヒトガタ“ヴィッキー”の整備は明日の午後までかかりそうだ。報告にあった”雷撃”とやらで内側がだいぶやられた分、少し生成量が多いからね」
「今回も整備のほう、ありがとうございます。」
ローズは深々と頭を下げた。
「それと、これ」
リップが取り出したのは片手に収まるほどの直方体の機器。正面の3分の1は画面が占めており、残りの3分の2にはボタンがぎっしりと並びんでいた。
「これは何ですか?」
「ムセンキという機械らしい。遠くにいても話ができる、電話の上位互換のようなものだよ。最近”原本”の解析によってつくり方がわかったものらしい。本部から赤ずきん向けに送られてきたよ」
「なるほど。これはどう使うんですか?」
「もう一つのムセンキがヴィッキーに取り付けてある。一度コックピットに行ってから説明するよ。それと……」
リップは少し間をおいて、
「ヘレナには私から説明しとこうか?」
リップはヘレナとローズの会話を耳にしていた。
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です。私から説明します。パートナーですから」
「わかった…でも、あの子のあんたに対するキツイ言い方、どうにかならないものかね」
リップはローズのことを心配してるようだ。ヘレナの言い方はお世辞にも良いとは言えない。
「仕方のないことです。我々は彼女の心にそれはどの傷をつけてしまいましたから」
「でもあんたは直接は関わって無いんだろう?」
「…だとしてもです」
ローズはギュッと拳を握りしめた。
機体格納庫を出たヘレナは夜の帷が下され、すっかり暗くなってしまった道を独り歩いていた。心ここにあらずといった様子でしばらく歩いていると、窓から温かい光の漏れる街に着いていた。
窓越しに各々の生活の営みが見えた。家族で食卓を囲む者、机に向かい、ペンを走らせる者、もうすでに寝ている者、皆それぞれだった。
その中の一つにヘレナは目が留まる。それは2人の少女が向かい合っていて、姉妹だろうか、姉と思われる方が腰に手を当て妹を叱っていた。そして説教が終わると妹は無邪気に姉に抱きつき、姉はやれやれといった様子で優しく妹の頭を優しく撫でていた。
そんなどこにでもありふれた日常風景を目にしたヘレナの目は僅かに潤んでいた。
「マリーお姉ちゃん…」
俯いたヘレナの口から言葉が弱弱しく漏れた。
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