第21話:フィスト1-4「挑発」
特異体が街の地下を通ったことで発生した先程の大きな揺れによって、シャスール機関第4支部周辺に広がる街の実に半数以上の建造物が倒壊していた。この地域では地質、地理的に本来地震は発生しない為、耐震性など考慮して建造されていなかった。
倒壊し瓦礫の山となった我が家の前で愛する者の名を叫ぶ者、放心している者、嗚咽と共に地面に倒れ込む者、皆絶望に打ちひしがれてひた。しかし、彼らは”あるもの”の存在に気づくやいなや悲鳴をあげながら駆けだし、一目散に逃げていく。
”あるもの”とはこの惨状をつくりだした張本人、特異体だ。
大きく口を開けた街の地面の裂け目から姿を現した特異体は、、水遊び後の犬のようにブルブルと体を震わせ土くれを落とす。飛び散る土くれ達が地面に落ちて弾けるとともに、落下点にいた人々の命も儚くはじけていく。
その断末魔を気にする様子もなく、体が小綺麗になった特異体は、土の中を移動中に目に土が入らないように頭の内側に格納されていた目を露出させ辺りを見回した。右へ左へはしらせ、とある方向で目が留まる。
その視線の先には瓦礫の中の一際大きな建物、公共施設である役所があった。街を回すための多くの機能有する為、多くの人員を詰め込む役所は、大きく頑丈につくられており、倒壊せずに残ったのだ。
運よく生き残った街の住人達は、今度は特異体という脅威から生き残るために、身を隠すために、役所に殺到する。役所に入ったところで気休めにしかならないことは明白だったが藁にもすがる思いの彼らは必死だった。我先にと怒号し互いに押し合い、踏みつける。
しかし、その一か所に集まるような行為が仇となる。
特異体は嬉々として役所の人々を見る。大咬ないし特異体は人間を喰らう。大人数がぎゅうぎゅう詰まったその役所は、それはそれは素晴らしいごちそうに見えただろう。特異体は口から涎を垂らしながら一歩、また一歩と役所に近づき、それを見た群衆の悲鳴が狂ったような絶叫に代わっていく。大虐殺が起こるのは時間の問題だった。
「やらせはしない」
ドゴッ!特異体の頭部に大きな鈍い音が出るほどの直上からの強い衝撃。その衝撃が特異体の短い体毛を伝播していくが、特異体は特段ひるんでいる様子もなく目だけを動かして頭の上を見る。
「よう、化け物」
頭の上に悠々と乗ったヒトガタの拡声器越しの挨拶。
そのヒトガタは全体的に丸みを帯び、機体色は澄んだ白である。鎧を身につけたような頭部や通常のヒトガタより一回り大きい胸部を持ち、脚部の側面には瓜を半分に切ったのをそのままつけたような円錐状の推進器が追加されていた。
特異体が頭を踏まれている今の状況を快く感じているはずもなく、大きな手で掴もうとするが、白いヒトガタは特異体を踏み台にして華麗に空高く飛び上がり、くるりと空中で一回転して着地する。そして、手首を返し、クイックイッと特異体を挑発する。文字通り足蹴にされた特異体の頭に太い針金のような血管がいくつも浮かびあがる。
疾走。頭に血が上った特異体は、手の甲から伸びる太くねじのようにらせん状の突起を前に突きだし、白いヒトガタに向けて突撃する。白いヒトガタは軽く体をひねりながら紙一重でその攻撃交わす。躱された特異体は、今度は両手で抱き着くように捕まえようとするが軽い跳躍でまた躱されてしまう。
「ガアァァァァァ‼」
特異体は怒りの雄叫びを上げ、両手を滅茶苦茶に振り回す。が、ヒトガタは後方に跳躍しながらその全て回避する。攻撃が外れるたび深々と地面をえぐり取る。その威力を持ちながらかすりもせず、さらに紙一重で躱されるものだから特異体のボルテージはますます上がり攻撃も激しいものになるが一向に当たらない。
「うわあぁぁぁぁぁ! 足があぁぁぁぁぁ!」
突然、白いヒトガタの乗り手はそう叫ぶと度重なる跳躍で脚部にダメージがあったのか、着地時にバランスを崩して黄土色の枯れた草むらの上で転倒し、そのままゴ転がり地面を耕してく。転がっている途中、体勢を立て直そうとしたのか推進器を吹かすが少し飛び上がったあと頭から地面に刺さり完全に動きが止まる。
そんなヒトガタを見た特異体は息を荒げつつも、完全に勝利を確信したようで口角を上げ、走るのをやめてゆっくりと近づいていく。白いヒトガタにとってまさに絶対絶命という状況だった。
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