第4話:スナイプ1-2「角付き」
夕方に傾き始めた空の下、2台のトラックが土を巻き上げながら走っていく。デリーナは揺られながら外を見ていた。開いた窓から風が流れ込み、彼女は眉をひそめる。
「獣臭。この先だ」
イッチの運転するトラックからニーとグードのヒトガタ、レンの運転するシャスール機関のトラックからデリーナのヒトガタ”モーガン”の3機が立ち上がる。デリーナはトラックの荷台から狙撃銃と自動砲を取り出し、狙撃銃は背中に、自動砲は手に装備した。機体の拡声器で、
「グード、私と来い。ニーはここで待機。異常があれば発煙弾で知らせて。警戒を怠るなよ」
デリーナとグードは警戒しつつ歩みを進める、すると道の真ん中に一体の大咬の姿を確認できた。グードが短くトリガーを引く。が、弾が着弾したにもかかわらず反応が無い。近づいてみると、既に息は無かった。そして頭部に先日の特異体と同じ角があった。
「こいつが特異体...じゃあねぇよな」
「ああ、頭はともかく体は通常体そのものだ」
「はぁ、くたびれもうけだぜ」
グードが愚痴をこぼす。
デリーナはその大咬の傍に寄り調べる。彼女は違和感を覚えていた。大咬の死体をよく見るとグードのつけた銃痕とは別の傷がある。まるで大きな獣が爪で切り裂いたような...
「姐さん!アレ!」
グードの緊迫した声。空には赤い煙が伸び、銃声が鳴り始める。置いてきたニーを含む3人に大勢の通常体が迫っていた。
「グードはあいつらのところへ急行!私はここから援護する!」
「了解!」
デリーナは瞬時に射撃ポイントを見極め移動する。手の自動砲を腰に格納し、背部の折りたたみ式の狙撃銃に持ち替え、展開する。そしてニー達に近づく大咬の頭部へ狙いを定める。重々しい銃撃音と共に弾丸が射出され、その頭部が消し飛ぶ。銃口を向けた先の大咬が引き金を引くたびに、無害な肉塊へと変わる。
かなりの数だったがグードがニー達と合流し、大咬を押し返し始めた。
弾を撃ち切りデリーナが新しい弾倉に替えようとしたその時、背後に気配を感じ振り返る。一体の大咬が今まさに襲いかからんとしていた。体勢を崩しながら間一髪銃で攻撃を受ける。先程確認した死んでいるはずの角付きの大咬。デリーナは後方へステップし、距離を取ろうとするが角付きはそれを許さない。その間にも凶悪な爪が襲いくる。防戦一方。
「ならば!」
狙撃銃を右手で大きく横へ振る。しかしその一撃は角付きに擦りもせず、懐に入られる。息のかかるこの距離では回避できない、お互いに。
「不用心だな」
デリーナは左手で自動砲を腰の位置に構えていた。先ほどの大振りは、自動砲を構える時間をつくることが目的だった。ゼロ距離射撃。激しい閃光と共に鮮血と肉片が飛び散る。大咬は後方に勢いよく飛ばされ、地面の上に倒れ痙攣する。
「あいつら大丈夫かな」
角付きに致命傷を与えたのを確認し、仲間の方を見る。ギチギチ。パッと振り返ると、致命傷を受けたはずの角付きが起き上がっていた。弾痕は向こう側が見えそうなほど深い。にも関わらず、血を垂らしながらゆっくりとこちらへと歩く。
「しぶといやつだなっ!」
狙撃銃に持ち替え弾丸を眉間に打ち込む。脳が完全に破壊され、再び地に伏す。もう立ち上がることはなかった。
味方の方を見ると奇襲してきた大咬は全て倒せたようだが、何やら様子がおかしい。デリーナは急いで仲間のところへ向かった。
「大丈夫か?」
デリーナがヒトガタから降りて声をかける。ニーがレンの手当てを受けていた。
「油断しました。一体動きの違う大咬がいて…ひうっ」
薬がしみて情けない声を上げる。
「一体の大咬を穴だらけにしたんだ。普通ならこときれててもおかしく無い。いや実際奴は息をしてなかったんだが。」
グードが代わりに説明を引き継ぎ、デリーナに付いてくるよう手を振る。
「しかし奴は立ち上がった、まるでゾンビのように。さすがに驚いたよ。そして頭が異様に硬くて脳を破壊するのに手間取っちまった」
とある大咬の死体の前でグードが立ち止まり指をさす。
「こいつだ」
それは特徴的な角が一本、そして角から侵食する様に硬い外殻が頭を覆っていた。デリーナが先程交戦した大咬と同じ特徴。
「こいつらは一体....」
デリーナが呟く。
日が山に隠れ、夜が顔を見せていた。
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