第40話:コクーン5「約束」

「タイシューヨクジョウっていうんですの?初めて入りますわ」

「そうなんですか?ここの湯は最高ですよ!」


 ヘレナとローズが木造りの廊下を並んで歩いている。二人は着替えを入れた木製の桶を抱えていた。


「ここ?」


 立ち止まったヘレナが暖簾のついた扉を指差す。ローズは小さく頷き、どうぞと先に入るよう促した。

 ヘレナが扉を開け少し進むと、


「お?ヘレナも終わったとこか」


 デリーナが脱衣所で服の脱ごうとしていた、その隣には小さく手を振るメイジーの姿もあった。

 4人は棚に向かって並んで服を脱いだ。

 ヘレナは自身の肌のベトつきを感じた。今日はそれなりに忙しかったらしい。汗の染み込んだ服が張り付き、脱ぐのに苦戦していると、

 ゴトッ

 何やら重い物が置かれる音がした、それも一回ではなく何回もだ。ヘレナは不思議に思い、音のする方、隣のデリーナの方を見た。


(なんで風呂場にこんなものを!?)


 デリーナの目の前、彼女の使用している棚には銃、その弾倉、ナイフや金属製の糸など物騒なものが置かれていた。

 ゴトンッ

 驚きのあまり固まっていたヘレナの耳に、先程よりも大きく重い音が入ってきた。ヘレナはすぐさま、デリーナの奥、メイジーを見た。そこには大きな手斧が2本置かれていた。


「ヘレナどうかしたか?」


 あまりにもじっと見てだのだろう、デリーナが不思議そうに質問してきた。メイジーもこっちを見ている。


「いや…その武器なんで風呂場に…」


 デリーナとメイジーはなんだそのことかと、


「お守りみたいなものだ。いつも身につけて無いと落ち着かないんだ。まぁ、安心しろ他の誰かが使えないようにしておくから」

「斧あれば安心!」

「そ、そう」


 ヘレナは、ふとローズの方を見た。脱ぎきったローズの棚には服があるだけだった。謎の安心感を得て、ヘレナをほっとため息をついた。


「どうしたんですか?ヘレナお嬢様?」


 ローズはヘレナの視線とため息が気になった。そして、自分を見て、ヘレナを見た。そして納得したように、


「大丈夫ですよ!お嬢様はまだ成長途中です!」


 ヘレナの頭の高さはローズのちょうど胸のあたりだった。ヘレナは体をしばらく震わせて、


「ちがぁいますわぁ!!」


 ヘレナの叫び声が脱衣所に響き渡った。



 満点の星空の下、4人は湯に浸かっていた。

「いい湯ですわ」

「ほんとですね!そういえばメイジーさん、クロエさんはきてないんですか?」

 メイジ―は顔を頬を膨らませて、


「クロエ…忙しいって」


 顔を半分水の中に入れてブクブクと泡立てる。そしてふと思い出したように、


「そういえば…クロエが風呂入ってるの見たことない。もしかしてばっちい…」

「そ、そんな事は無いと思いますよ。そうだ、私、いい風呂場知ってるんですよ、風景が凄く綺麗らしいです。また今度行きませんか?クロエさんも一緒に、皆んなで」

「いいなそれ」

「賛成…」

「気になりますわ、もしかしてローズは風呂に詳しい?」

「たまたま知ってただけですよ(ヘレナお嬢様と行きたくて調べてたんです。グヘヘ)」


 ローズは涎が出そうになり、口元を押さえ、拭い、


「皆さん絶対行きましょう!約束です!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る