第32話:フィスト1-15「鉄拳」

 特異体とヘレナのヒトガタヴィッキーが対峙する。


「ニーニャの言った通りになりましたわ」



 作戦開始前


「私に考えがあります、はい」


 会議室に澄んだ声が響く。その声に導かれるるままにニーニャに視線が集まる。

 彼女は落ち着きを払った様子で、


「防衛隊との戦闘を行なった記録や穴の調査の結果から特異体は地中生物、いわゆるモグラに似た性質が見られます。はい。それならば」


 ニーニャは整備長を見て、


「オオカミ用の催涙弾はありますか?それからヒトガタ程の高さがある長い棒も」

「催涙はあると思うけど少ないよ、棒のほうは整備場の使ってないやつや、骨組みに使う予備のやつならあるけど」

「十分です。報告によると特異体は地中では目を体にしまっているらしいです。つまり地中では目ではなく鼻が頼りだと考え催涙弾は少量でも効果があると思います。加えて」


 次にヘレナの方をみて


「ヘレナさんのヴィッキーは、地面に継続して音や振動を与える事が出来ますか。地面を崩さない程度に」

「衝撃波発生装置を調整すればでできると思いますわ」

「わかりました。つまりこれで特異体は細かい音と振動を感じ取って正確な位置を判断する事が出来なくなります」


「具体的な作戦内容は何ですか」


 痺れを切らした誰かがら口にする。


「はい、作戦はこうです。催涙弾で穴の特異体の鼻を殺します。加えて振動で把握能力を奪い、そしておびき寄せます」

「地中生物モグラと似ているならば一般的に逃げてしまうのではないでしょうか?」


 本来地中生物はそんな事をしてしまえば逃げてしまうそんな当然の疑問にニーニャは微笑を浮かべ、


「私は逆に突っ込んでくると思います。シャスール機関のとの戦闘でも挑発にも我を忘れて罠にハマりました。今回も鬱陶しいのを消してやろうという考えの下動くはずです。はい」


 続けて、


「鼻をやられている特異体は位置を正確に特定することができません。が、私たちはその場所に突き刺した棒の揺れで接近に気づけます。棒を見て接近が確認できたら、ヘレナさん衝撃波を思いっきり地面に解放してください。はい」


 そして地図を指差し


「そして、地下から特異体を出したらここに誘導してほしいです。はい」


 指差した場所、そこは十数年前に閉鎖した石切り場だった。



「ニーニャさんスゴイです!うまくいきましたね!」


 ローズが、ヒトガタ運搬用のトラックの運転席で話す。


「当然です!誘導では無なく、まさか吹っ飛ばすとは思いませんでしたけど。別の場所を警戒していたヒトガタを合流させます。すみませんが、それまで一人でお願いします。ヘレナさん」


 ツウシンキ越しにヘレナは、


「たぶん、合流すまでもちませんわ」


 ヘレナのヒトガタ"ヴィッキー”は拳を前にかまえる。


「さあ逃げ場はありませんわ、醜く踊りなさい」


 石切り場をぴゅうと風が吹く。特異体は奥歯を噛み締め、眉間がピクピクと動いている。


(クソッ少シウマクイッタカラッテ調子ニ乗リヤガッテ!ナラ!)


 大きな声で声で吠えた。


「どういうつもり?」

「気合イ入レタンダ…ヨ!」


 特異体は高速回転した爪で突きを繰り出した。

 ヴィッキーは軽く一歩下がり回避、特異体はすかさず追撃の突きをした。しかし、その突きはヴィッキーには届かず地面に刺刺さる。


「どこを狙ってーー」


 ヘレナがそう口にした時、


「穴ヲ開ケラレナクテモ、削ル事ハケナイ」


 腕のドリルの高速回転によって地面を削り、大量の石の破片をヴィッキーの顔に飛ばす。その程度では機体は傷つきはしない。が、視界を奪われた。

 特異体はその隙に一気に距離をつめ、ヴィッキーの懐に入る、高速回転した凶爪を突き出す。


「!?」


 肉薄されていたはずだったがヴィッキーはそれを回避した。空へ。

 凶爪が機体へ届く1秒にも満たない僅かな時間、ヘレナはヴィッキーの腕部の衝撃波発生装置を下に向けて起動しそのまま斜め後方に飛び上がり回避した。そして、今度は空中で両腕を上にに向けて起動、下方へ加速し特異体の顔面に向けて蹴りを入れる。

 メキッ

 顎に入り、顔を歪めて体勢を崩す特異体。


「多くの人に与えたその苦しみその身に受けるがいいですわ!」


 ヴィッキーの攻撃は止まらない。頭に、胸に、腹に、足に、特異体が反撃する隙を与えず拳を打ち込む。


「ざまあーみろ特異体!さすがお嬢様!」

「あーうるさいなぁ」


 特異体の骨が軋み始める。

 反撃できないと踏んだ特異体は後方に飛んで距離をとろうとしたが、


「もうお忘れ?」


 ヴィッキーの手の平から砲身が現れ両手、計2発の砲撃。

 顔面に直撃し爆発。怯む特異体が見え、爆炎に姿を消した。

 その隙にヘレナは距離をつめたが、ドリルがヴィッキーの顔をかすめる。

 体勢が後ろに崩れるヘレナ機。

 煙がはれると特異体が片手を地面に突き刺しドリルの回転を利用してもう片手のドリルで攻撃していた。

 高速回転ゆえ次の攻撃が早く。体勢を崩したヘレナにはかわす余裕がない。

 金切り音を放ちながらドリルがヴィッキーの顔に接近した時、ヴィッキーは地面に手を当てる。カチン

 放たれた衝撃波が大地を割り特異体の回転の軸手の接地部分にヒビを入れ、僅かに攻撃をずれさせる。ヘレナへの攻撃が空を切る。そしてすかさずヴィッキーは諸手で突きはなち胴体を捉えた。ドンという音と共に衝撃が伝播し、そのまま特異体は石切り場の壁に激突する。


「いっちゃえお嬢様!」


 ローズは興奮してヘレナに黄色の声援を送る。


「なんで…」


 その傍らでニーニャが怪訝そうな顔していた。


「ニーニャさんどうしました?」

「別動隊にさっきから連絡がつかないんです。はい。何かトラブルでも――」


 壊された特異体に赤き狩人が歩み寄る。勝負は決まった誰もがそう思うであろうその時、ヴィッキーの背後に複数の大きな影。

 風の流れが変わる。






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