第9話:スナイプ1-7「雷撃」

 私は愚かで無能だ。予測できたはずだ。あいつがバックにいる事を。

 冷静な指揮官なら分かっているだろう。今、何を為すべきか。

 私は同じ過ちを繰り返えそうとしている。自動砲をゆっくりとヒトガタへ向ける。

 ごめんなさい。


 十数分前


 3機のヒトガタが焼けた街を疾走する。火の粉と灰が舞い上がる。その灰になってしまったものはこの都市の人々が築き上げたものの成れの果て。たった一夜で文字通り灰に成り果ててしまった。

 何も知らぬ、知る知能すら持たない大咬達が踏み荒らし牙を剥く。

 満月の夜。月光に照らされ鈍く光る。人類が力で劣るヒトガタで通常体に対抗できる理由。遠距離というアドバンテージを持つ武器、自動砲。跳躍と共に火を吹く。大咬は眉間を正確に打ち抜かれ、鮮血と共に地に伏した。

 3機は驚くほど簡単にツノ付きの前に到達した。距離的には決して近くはない。なぜならツノ付きは街を抜けた先の森付近まで後退していたからだ。

 容易に到達できた理由は大咬の数が異様に少ないことにあった。壁内での戦闘で数が減らされてはいるが、襲撃前の壁外の数に比べてあまりにも少ない。そして、その答えは目の前にあった。ツノ付きを守る様に囲う大量の大咬達。この都市の大咬のほとんどがここにいた。ここからが本番。

 こちらに気づいた大咬が左右に展開しようとする。恐らく挟撃するつもりだろう。が、開き始めたところで前列の大咬達が生物のシルエットを失い倒れていく。その弾痕は自動砲ではない。できえない大きさだ。



「ヒュー、さすが拠点防衛用固定砲台。バケモノだぜ、どっちも」



 グードがデリーナ機の装備を見てそう口にする。

 六つの砲身が円状に束ねられ、外部動力によって回転し、短時間に大量の弾丸を吐き出すガトリング砲と言われる機関銃。しかし、これはヒトガタの武器としては珍しくない。問題はサイズにある。デリーナ機がそのガトリング砲を持つ姿は人がカノン砲を手で携行する様な不相応さである。このガトリング砲は本来ならば拠点防衛、つまり地面にしっかり固定して初めて運用できる代物であり、通常のヒトガタなら1機で運ぶ事すらままならない。それを撃つなど以ての外、反動を制御できずまともに撃つことなどできない。通常のヒトガタならば。シャスール機関の技術の結晶である赤ずきんのヒトガタならば問題ない。モーガンならば問題ない。暴れ馬を力で殺し、多少後退する程度。モーガンもバケモノであった。



「砕け散れ!」



 撃ちながら横に薙ぐ。土砂降りの様な弾丸が大咬の体を削ぎ落とし、血と肉片が宙で踊る。前の列から順に削り取られていき、大咬達の作り出す肉壁は徐々に薄くなり、動きを止めているツノ付きまで近づいていく。

 デリーナ達の作戦はごくシンプル。ガトリング砲の射程までツノ付きに接近し、デリーナが肉壁を真正面からガトリング砲の力技で突破、そのままツノ付きを撃破し、グードとニーはそのカバーを行うというものだった。森が近く増援が来る可能性や街の中の伏兵など予想外の事態が十分が起こりうる状況の為、警戒していたが今のところ事はうまく進んでいる。弾丸の雨がついにツノ付きへ到達しようとしたその時、



「姐さん危ない!」


「な…!?」



 ニー機が突然、デリーナ機にタックルをしたのだ。夜を照らす一筋のいかずち。ニー機がデリーナの視界の端で電撃に打たれる。機体は痙攣し各所から循環液が吹き出す。



「ニー!!」



 急いでデリーナ機はニーのそばに駆け寄る。



「クソッ」



 グードは補充していた炸薬弾を放ち、まだ残っている大咬を牽制する。牽制しつつグードは懸命に状況を理解しようとする。



(雷雲があったのか?いや空は晴れて、星がみえている。それじゃ一体)



 導き出せない答え。あまりにも突発的で彼らはある可能性へたどり着けないでいた。突然電撃に打たれる様な、特別で通常とは明らかに異なるこの状況を。答えは自ら現れた。

 森の木々がざわめく。鳥達が羽ばたく。大量の通常体や新たなツノ付きを引き連れそいつは現れた。2本の雄雄しい角、長い尾、そして通常体の3倍近い巨躯。紛れもない、疑いようもなく大咬の上位の存在”特異体”だった。

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