第13話
いつの間にか藤堂の恋人役にされてしまった。
確かにあれから何回か食事には行った。笹本の所でなくても洒落たレストランやカフェはいくらでもあるし、そこでは美里は大いに飲んで食べた。藤堂は試作品のスイーツを美里に一番に振る舞ってくれて、こっそり二人で閉店後のお茶会もする。世間的にはデートに見えるだろうし、店のパートさんにつきあってるの? と聞かれる。
藤堂はいつも「俺が口説いてる最中」と笑いながら言い、美奈子をはじめとする好奇心旺盛なパートさん達はいっせいに黄色い声で歓声をあげるのだ。
だからと言って藤堂が美里を愛しているなんて全く信じられない。
肩を落としてるりかの両親を美奈子が連れて帰って行った後、
「悪かったかしら?」
と美里はつぶやいた。
「全然、悪かったって思ってる風に聞こえないセリフだけどね」
と藤堂が笑った。
「まあ……そうだけど。あんなに愛されてるなんてうらやましいなぁと思って」
「俺も愛してるけど? 君の事。誰もがうらやましがるぐらいに」
「笑えません」
「そうかな。運命の出会いとか思わない?」
「運命?」
美里は藤堂を見上げた。
「まさか」
「いいや、運命だね。俺たちは出会う為に生まれてきたんだよ」
「そんなセリフ、恥ずかしくないんですか?」
「いいや、ぜんぜん」
と言って藤堂が笑った。
「彼女があんなになったのは母親のせいだよ」
「お母さんの?」
藤堂は立ち上がって、コーヒーポットに湯と粉をセットした。コーヒーの粉のよい匂いが広がる。
「そう、身の回りの事からすべて母親がしてたからね。小学生くらいまではわりと普通の可愛い子だったんだけど。可愛い可愛いと言われて、母親が甘やかすから何もしなくなって、あんな風になってしまった」
「オーナー、小学生の時からるりかさんを知っているんですか?」
「近所だったからね。妹が同級生でよく一緒に遊んでいた」
「妹さんが?」
「ああ」
藤堂がこの街の人間だと知って、美里は急に疎外感を感じた。るりかと藤堂は幼なじみで、妹もいて。きっと美奈子や彼女の旦那や笹本もみんな知り合いだろう。市長夫妻もあの警察官も。
美里だけがここでは部外者で、しかも美里は人殺しときてる。
急に身体が重くなったように感じた。頭から水をかけられ、ずぶ濡れになって、身体が重いような感じだ。藤堂には妹がいて、美奈子には旦那がいて、皆がきっと愛して愛されてお互いを思いやっているに違いない。
美里には誰もいないのに。
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