第35話

 ジョーンズとケビンが乱暴にミサトの腕を掴んで歩き出した。

 ミサトは少し抵抗したが、大人しく歩き出した。途中で財布から札を出してケビンに差しだすとケビンはそれを受け取ったが、ミサトを解放しなかった。

 二人はミサトをさびれた通りの倉庫に連れ込んだ。この辺りは繁華街からすぐ近くなのに、本当にさびれている。浮浪者がうろうろしてるし、夜には繁華街を歩く日本人達をカモにしようとする悪い奴らがたまってたり、柄の悪いバイカーが来ては騒いでいる。

 僕は恐る恐る倉庫の中をのぞいた。

 ジョーンズとケビンはミサトに乱暴するつもりなのか?

 僕にそれを写真に撮れって言ってるのか?

 リズはそんな悪い事を僕に頼んだのか?

 頭の中がぐるぐるしててどうしていいのか分からない。

 そっと倉庫の中に入る。古タイヤが積んである後ろに隠れる。

 ジョーンズがミサトの顔を殴った。ミサトの華奢な身体は横倒しに倒れた。ミサトはさっき買ったブランドのバッグを大事そうに抱え込んでいる。

「本気でやるのかよ」

 とケビンが札を数えながら言った。

「もちろんだ。日本人とやれるんだぜ。こんなチャンスねえ。おい、犬! 隠れてないでちゃんと写真に撮れよ!」

 とジョーンズが隠れてる僕に対してそう言った。

 僕は決心がつかないまま、物陰で震えていた。

 ジョーンズがミサトに何をするのか想像はつく。

 だけど、僕じゃ助けてあげられない。

 何よりそれを指示したのがリズなんだ。どうしてなんだリズ。

 頭を抱えている僕の耳に悲鳴が入ってきた。

「ぎゃっ」という野太い声。そして「ヘイ!」というケビンの声。

 そっと覗くと立ち上がったミサトが何かでケビンの頭を殴りつけたところだった。

 ジョーンズは倒れて、ぴくりとも動かない。

 ミサトは銃のような物を持っていた。倒れたケビンの足を撃っている。その度にケビンの身体が跳ね上がる。ケビンが弱々しく許してくれ、と言ったが、ミサトには聞こえてないみたいだ。ミサトはすすり泣くケビンをしばらく見下ろしていたが、ケビンの顔面に何発もの弾を撃ち込んだ。いや、銃じゃないのかもしれない。ほとんど音がしないからだ。

 ケビンの身体が跳ねて跳ねて、血と土に汚れて汚くなってしまってから、ようやくミサトは銃を撃つのをやめた。

 それから今度はジョーンズの方へ向かってまた銃を撃ちだした。ジョーンズはすでに死んでいるのだろう。声を上げなかったし、動きもしなかった。

 ただ、両目の辺りに何かが大量に刺さっているように見えた。

 ミサトはジョーンズとケビンの死体を見下ろして、満足そうに笑った。

 その笑顔は素晴らしくチャーミングだったが、心底恐ろしかった。

 彼女は殺人鬼だ。

 僕は息をひそめた。見つかったら僕も殺されるのは明らかだ。

 ミサトは銃をバッグにしまってからケビンのポケットから札を取り戻した。

 そして、何もなかったような顔で倉庫を出て行った。

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