第39話
翌日、僕は朝早くからホテルの前で待機していた。
いつトードーとミサトが出てくるか分からなかったから、早朝からこうやって待ってるんだ。ボブの話では今日、オアフ島を出て他の島へ回るらしいから、二人に会えるのは今日が最後のチャンスだ。
二人が出てきたのは午前中も半ば過ぎてからだった。大きなスーツケースをごろごろ押してホテルの玄関へ出てきた。
「トードー!」
と僕は声をかけた。トードーが僕に気づいて、ミサトへ何か言った。ミサトは僕を見て少し微笑んだ。何て可愛らしいんだ。悪魔だなんて言って本当に申し訳ない。ミサトは素晴らしいハンターだって事はもう僕にも分かっている。
「何の用だ」
とトードーが言った。
「謝りたくて……その……ミサトの事を悪魔だなんて言ってごめんなさい。ミサトは素晴らしいハンターだって、ボブやお祖父さんに聞きました。それに、あなたの作ってくれた、フレッシュ・ブラッディ・メアリーはとても美味しかった」
「へえ」
とトードーが言った。含み笑いっていうのか? 何ていうんだろう……少しだけ人を馬鹿にしたような笑いだった。
ミサトがトードーに何か言った。トードーがそれに返事をすると、ミサトはあからさまに気の毒そうな顔で僕を見た。
「あの……何か」
「ミサトはあの肉を食う奴の事が好きじゃないんだ。あの肉を食う奴とは友達になりたくないらしい」
「え、でも、ミサトはハンターなんでしょ?」
「まあ、人の趣味はそれぞれだからな。お前がミサトを悪魔と思うのも勝手だし、ミサトがお前を嫌うのも勝手さ」
「そうなんだ……」
「ミサトは趣味を楽しんだだけだから、肉を調達した礼を言う必要はない」
僕は酷くがっかりした。
昨日の事を謝って、そして連絡先を交換してもらえないかな、と思ってたからだ。
いつか日本にも行ってみたい、なんて期待して来たもんだから。
やっぱり日本人てよく分からないや。
「そうだ、ついでにこいつをボブに渡してくれないか」
とトードーがミサトの手荷物を僕に差しだした。
その時、ミサトがトードーに抗議したのだが、トードーが少しきつい口調でミサトに言い返した。ミサトは唇を尖らせて、つんとよそを向いた。
「何です?」
僕は小さなバッグを受け取った。見覚えがあるぞ。これはミサトがジョーンズに襲われた時に持っていたブランドのバッグだ。やけに重い。
「何でもいい。頼んだぞ」
トードーは面倒くさそうにそう言った。
「え、ええ」
「じゃあな」
とトードーが言い、ミサトは僕にぎごちない笑顔を向けた。
二人が手をつないで去って行くのを僕はしばらくその場で見ていた。
後日談だが、ミサトのバッグをボブに渡すとボブはそれの中身を見て酷く興奮した。
「こいつは高く売れるぞ!」と言ってから、
「いや、やっぱり売るのはやめて、店に飾ろう。この店の目玉になるぞ! 日本人ハンターが実際に使用した武器だからな!」
と言い直した。
「この業界も競争が厳しいからねぇ。トードーとミサトが機嫌を直してまた来てくれればいいわね」
とメアリーが言ったので、やっぱり僕は二人に会いに行きたい、と思った。
明日から語学は日本語のクラスを取ろう! そして、日本に行くぞ!
とても、とても、楽しみだ。
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