第18話

 すぐに誘われて、店の前に堂々と違法駐車している黒のミニバンに乗り込む。市長の息子と新井ともう一人はやけに体格のいい大男だった。市長の息子のボディガード的存在だろうと。藤堂ほどではないが背は高く、前からみても横から見ても同じくらいの身体の厚さがある。筋肉も隆々としていて、やっつけるのは少々やっかいかもしれない。

 乗り込んだミニバンは後部座席がすべてフルフラットシートになっていて、ふわふわした毛皮が敷かれていた。ここで女の子を陵辱するんだろう。一体、何人が犠牲になった事やら。言われるままに靴を脱いで、這い上がる。ボディガードがスーツケースを持ち上げて渡してくれた。

「ありがとう」

 ボディガードは運転席のすぐ真後ろに座った。新井はその横。美里はフラットシートの後方で足を投げ出して座った。

 市長の息子が運転席へ座り、ぴかぴかの黒いミニバンは派手な音をたてて急発進した。

 そして予想道理の道を走る。車は山道を登って行った。

 美里はスーツケースのジッパーを開けた。ボディガードが美里の手元をじっと見ている。

 床にでも埋め込んであるだろうスピーカーがうるさい音楽を流していた。

 ボディガードも新井も動かない。余計なおしゃべりもしない。これは市長の息子が楽しむ為の遊びであって、彼らはただの付き添いなのだろう。


 真っ暗な場所にぽつんと外灯がともっていて、その横には公衆便所があった。かろうじて電気がついているが、薄暗く今にも切れそうにちらちらとなっている。

 車はその横で止まった。

 市長の息子がすけべ面で振り返った。

「ちょっとトイレに行きたいわ」

 と言うと、ボディガードが市長の息子を見た。息子がうなずいたので、車のドアを開けた。美里はバッグを肩にかけて、ブーツを履いた。外へ出ると暖かい社内とは違い、すさまじく寒かった。吐く息が白い。この分ではホワイトクリスマスになるかもしれない。




 ボディガードが美里の後をのこのことついてくる。

 公衆便所の中へはいり、車の方を振り返ると誰もこちらを気にしてはいなかった。ボディガードは美里に背中を向けて、入り口に立った。

 美里はバッグからスタンガンを取り出した。

 ボディガードは背が高かったが、美里ががんばって腕を伸ばせば首筋には届く。

 バチッと音がして、ボディガードはうなり声をあげてよろめいた。すかさず右手に用意していた両刃のコンバットナイフをうなじの部分に突き刺した。ぐるぐりぐりと感触がして、ナイフはボディガードのうなじに突きたったが、筋肉というのはかなり弾力がある。 るりかの時のように尖った物なら簡単に突き立つが、ナイフのような幅広い物は難しい。なので、そこから真横に切り裂いた。渾身の力でナイフを振り払ったので、首が裂けた。

 血がドシュッと飛んだ。ボディガードは叫んだような動きをしたが、ナイフと大量に出た血がすでに喉の奥をつぶしていたので。ぱくぱくと口を開いているだけだった。

 ボディガードの身体は崩れ落ち、トイレ入り口をふさいだ。

「あら、もうここのトイレは使用禁止ね」

 ボディガードの身体をまたいで車に戻る。

 市長の息子が一人で戻った美里をいぶかしげに見た。

「あの人、自分もトイレがしたいから先に戻れって言うから」

 と言った。

 次に新井に、

「ねえ、喉が乾いたわ。ビールでも買ってきてよ」

 と言うと、新井君は市長の息子を見た。

 息子がうなずいたので、新井は渋々車を出て行った。自動販売機はトイレの横にもあったが、少し離れた公園の入り口にもあった。ビールを買う為には公園の入り口まで行かなければならなかった。

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