第56話

 二人は無事に日本へ帰り着き、新たな生活がスタートした。

 新店は順調でお客さんも増えたし、藤堂は新しいチョコレートを日々開発している。

 日本へ帰ったら帰ったでまた新たなもめ事や騒動がいくつか勃発して、そこに美里も藤堂も笹本もいろいろあったのだけれど、それはまた後日報告する事にして。


 日本へ戻って数ヶ月後。


 その時、美里は喫茶室の片付けをしていた。時間帯は午後の四時。

 ちょうど入れ替わる時間帯だったので座っている客は誰もいなかった。

 テーブルを拭いて砂糖やナフキンを補充していた時、アルバイトの由香が言い出した。 由香は地元の大学に通う女子大生で、健康的な娘だ。

「あ、美里さん、昨日のテレビ見ました? 世界びっくりニュース!」

「いいえ、テレビはあまり見ないのよ。何か面白いニュースでもあったの?」

「ええ! もう、気持ち悪いって言うか!」

 その時ちょうど、藤堂が新しく焼けたケーキが入ったボックスを持って厨房からやってきた。

「ハワイで猟奇殺人事件! なんですけど! 有名な大学の教授が男子学生と無理心中したんですって」

「へえ。同性愛者だったって事?」

「ええ、まあ、それならよくあるじゃないですか! アメリカじゃ男同士の結婚もありますしね!」

「そうね」

「でも、びっくりなのが、ここ、重要です。教授の方がサイズの合っていないウエディングドレスを着てたんですよ!」

「……怖いわね」

「ええ! そして男子学生は大事な所を教授のハイヒールで踏みつぶされて!」

 由香は何故かすごく痛そうな顔をした。

「教授は自分で自分の目をえぐって、両目玉がなかったそうです! しかも男子学生の方も何か抵抗して銃で教授を撃ち殺した?みたいな感じで両方とも死亡ですって!」

 何がそんなに面白いのか、由香は顔を真っ赤にしてしゃべり続けた。

「教授が男子学生に結婚を迫って、断られた腹いせに殺したみたいにテレビでは言ってました。教授の方が受けだったのかなぁ? ジョニー、あ、男子学生の方ですけどね、ジョニーの顔写真も出てたけど、攻めって感じじゃなかったなぁ」

 由香が何故この話題に食らいついたは分かる。彼女は腐女子という奴らしい。

 休憩所でいつも青少年同士の恋愛漫画を読んでいる。

「白井さん、店先で物騒な話はそれぐらいにして」

 と藤堂が言った。

「あ、はーい、私、上がりの時間です! お疲れ様でしたぁ! でも世の中にはいろんな趣味の人間がいますよねぇ。私なんか超普通でつまんないくらいです!」

 腐女子の由香はるんるんという感じで奥の方へ消えて行った。

「銃じゃなくて釘打ち機なんだけど」

 と美里が言うと、藤堂が、

「ジョニーじゃなくて、トミーだし」

 と言って笑った。



 あれは我ながらすばらしいアイデアだったんじゃないか、と美里は今でも思っている。

 あの殺し屋にドレスを着せるのは大変苦労したし、トミーの手に釘打ち機を握らせてから何度も殺し屋の死体を撃っておいた。

 藤堂は傷だらけで美里も疲れきっていたが、痕跡を消したりいろいろ忙しかったのも今ではいい思い出……そうでもないか。

 ボブの店にはまだラブラブツーショットを送りつけてはいない。

 藤堂とボブの間で諍いがあったらしく、ボブの事を聞くと不機嫌になる。

 まあ、二度とハワイには行かないという意見は一致してるのでいいかな。

 アメリカ人は嫌いだわ。

 本当にチョコレートと男と電気製品は日本製に限るというのが骨身に染みた新婚旅行だったな、と思った瞬間に、

「全くそうだろ?」

 と、藤堂が言ったので美里はびっくりして藤堂を見た。

「私が何考えてるか分かったの? そんなのありえないわ……ね」

「君の考えてる事くらい分かるさ」

「どうして?」

「愛してるから」

 と言って藤堂が笑った。

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