第24話
二人は街を散策して、土産ものなどを買った。
マカダミアナッツを何箱も買い、妙なプリントのTシャツ、それと美里の化粧品。
美里はブランド品にはあまり興味ないが、面白そうに店の中を見て歩いた。
「買えばいいのに」
と藤堂が言ったが、
「見ただけでお腹いっぱい」
と美里は答えた。
「ドイツ製の工具の店の方が良かったかな」
「あら、それは魅力的ね」
それからホテルへ戻って、ビーチで少し泳ぐ。
夕暮れのハワイのビーチではまったりとした時間が流れた。
正直な話、美里は恋愛に免疫がない。真剣につきあった男はいないからだ。
ナンパで寄ってきた男はたいてい殺してしまう。
だから、こういうまったりとした時間を誰かと過ごすのは美里にはつらい時間だった。
夕日が落ちてきて、ハワイの海がオレンジ色になった頃に、
「そろそろ食事に行こうか」
と藤堂が言った。
「ええ」
「知り合いに店を紹介されてるんだ。今夜はそこに行こう」
と藤堂が言った。
「知り合い?」
「ああ、イタリアンの店だけど、どう?」
「いいわね」
「じゃ、行こうか」
藤堂はにっこりと笑った。
日がすっかり落ちても通りの明るさと賑やかさは変わらず、通りは人間で溢れかえっていた。
日本人も大勢いるし、金髪やブルネットもいるし、黒人もいる。
皆、一応に楽しそうだった。
藤堂について歩いていくと通りを一本入っただけで急にネオンが少なくなった。
そして日本人がいなくなった。じろじろとこちらを見る地元のアメリカ人が増えてきた。
「こんな寂しい場所にレストランがあるの?」
「ああ。観光客を相手にはしてないんだってさ。でも料理は絶品らしいよ」
「へぇ、楽しみ。お腹すいちゃった」
やがて一件の店の前に立った。看板らしい物は出ているが、地味な感じのビルの一階だった。
藤堂が木のドアに手をかけた時、美里の背後で声がした。
振り返ると、昼間の無礼なアメリカ人がいた。酔っているのだろう、甲高い声で美里の背中を押した。
「早く入れ!」という風にしっしっと手を払った。まるで犬や猫を追い払うように。
背中に感じたアメリカ人の手の感触が気持ち悪かった。
真っ赤な顔で、鼻息荒く、そして日本人を馬鹿にしている、アメリカ人だ。
ドアを開けながら、藤堂が振り返った。
その時にはもう、アメリカ人の心臓に美里のアイスピックが突き刺さっていた。
アメリカ人は驚いたような表情をしたが、声も出さなかった。そしてゆっくりと倒れ込んだ。
藤堂が倒れたアメリカ人と美里を見比べて、
「君……必殺仕事人みたいだね」
と言った。
アイスピックはお昼に行った大型ショッピングセンターで買った物だ。
こんなに早く使うなんて思ってなかった。
「ごめんなさい」
美里はしおらしい態度で下を向いた。
幸いまだ籍は入れてない。どうせなら破談になってくれた方が気が楽。
だが藤堂は、
「いい、土産になった。日本産じゃないけど」
と言いながら木のドアを押し開けて、中に向かって英語で何かしゃべった。
中から白いコック服を着た太った赤鬼のような男が手を拭きながら出てきた。
顔中人懐こい笑顔だった。
「トードー!」
と赤鬼が言ってから、美里達の足下に倒れているアメリカ人を見てから藤堂に何か言った。
そして、藤堂と会話の後、美里に向かって、
「グッジョブ」
と言って親指を突き出したのだ。
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