第31話
ホテルへ戻ってシャワーを浴びる頃には雨はすっかりやんで再び太陽が顔を出した。
びしょ濡れのブランドのバッグを綺麗に拭いて、窓際に置いて乾かす。乾いても綺麗にはならないかもしれない。釘打ち機と残った釘はまとめてブランドバッグの袋に入れておいた。
ベッドに寝転んでいるとうとうとと眠くなってしまった。
どれくらい眠っていたのかは分からない。人の気配で目が覚めた。
誰かが美里の顔にキスをしている。
ちゅちゅちゅっと頬に当たるので、手で押しのけた。
「遅くなってごめん」
と声がした。
「ボブの人肉料理はおいしかったの?」
と聞くと、
「いや、腹ぺこ。君は? 何か食べた?」
「とってもおいしいハンバーガーを食べたわ」
美里は上に覆い被さっている藤堂の身体を押しのけて起き上がる。
「何してたんだい?」
と藤堂が聞くので、美里は、
「ハンバーガーを食べて、ブランド品のお店に行って、バッグを買ったわ。でも雨に降られて濡れちゃった」
と言った。
「へえ」
「藤堂は? リズに何を作ってあげたの?」
「メニュー?」
「いや……いいです」
時計に目をやるともう夕方の四時だった。
「昼には戻るって言ってませんでした?」
「ごめん。ちょっとトラブって」
「ふうん、さぞかし可愛いトラブルだったのよね」
「あれ、やきもち? 嬉しいな」
と言いながら藤堂が美里を押し倒そうとする。
「違います!」
朝と同じような不毛な会話をして、美里はベッドから飛び降りた。
「お腹がすいたわ」
「俺も、食事に行こうか?」
「ええ」
着替えて部屋を出る時に、美里はふと振り返る。
藤堂はすでに廊下に出ていた。
カタカタと音がしたような気がした。
釘打ち機を入れてあるブランドの袋が小刻みに震えていた。
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