第53話
男はひいいいっと悲鳴を上げて身体をのけぞらせた。
人を化け物みたいに見ている。
男の顔は恐怖でひきつっていた。
「ひいいい」と言いながら、ずりずりと後ずさっていく。
「美里!」
と声がしたので、そちらへ振り返ると藤堂がいた。
傷だらけだった。
誰の仕業かはすぐ分かった。腕や足に釘が刺さっているから。
「藤堂……」
藤堂の向こうに金髪碧眼の男がにやにやしながら立っていた。
藤堂の方へ足を踏み出した瞬間に、歩きにくい事に気づいた。
自分を見下ろして、美里は愕然となる。
何なの。このドレス。ウエディングドレス?
はらわたが煮えくりかえるとはこの事だった。
美里は眠らされて、ドレスを着せられて、藤堂を釘差しにして、あの男のなすがままだったというわけだ。
「屈、辱」
この二文字しか頭に浮かばなかった。
だがあの殺し屋とやりあうには自分が不利だという事は分かっている。
動きにくいドレス、傷ついた藤堂、何より釘打ち機が殺し屋の足下に落ちている。
美里は振り返った。
まずは美里のチョコレートを盗んだ男に制裁を。
美里の足下で震えながらひいいいと叫んでいる男の手のひらを踏みつけた。八センチはあろう真っ白なピンヒールのかかと、しかも全体重とありったけの怒りを込めて踏みつけた。
「ぎゃああああああああ」という野太い悲鳴に変わった。
ぐに、といういい感触が足に伝わってきたのでヒールの先が手のひらを貫通したようだ。 左手の指が痛いと思ったら、大きな立て爪のダイヤモンドの指輪がはめられていた。
「大きいわね」
左手の拳をぎゅっと握る。ぎゃあぎゃあとまだ叫んでいる男の頭を掴んで顔を引き上げる。男は泣いていた。男の顔面をダイヤの立て爪で殴ってやった。
イタタタタ。
自分の手が痛かった。
だが男の右目は潰れたようだ。少量の血液と体液が流れ出てきた。
左手をひくと、立て爪に男の眼球がひっかかって出てきた。ずるっとした感触があり、細い長い神経のような物がつながっていた。
「思い出した! トミー! トミー……よね? ジョニーだったかしら?」
左目がこぼれて落ちそうなくらい大きく見開かれている。
トミーはベージュのズボンをはいていたのだが、みるみる股間が濡れてきた。
どうやら失禁したようだ。
トミーは抵抗する気力がない様子だった。
右手に刺さったヒールを引っこ抜くと、「うげっ」と小さい声で言った。そして、そのままヒールで濡れた股間を再び踏みつぶした。
柔らかい弾力のある物がぐしゃっと潰れた。
「ぎゃあああああああああああああああああああ」
とトミーが大声で叫んで動いたので、びっくりしてひっくり返りそうになった。
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