第47話

 僕たちが目指したのは大きな港がある岬の方の街だった。

 そこにはクルージングに出る船がたくさん停泊していて、金持ちが集まる街だった。

 僕たちは別荘が建ち並ぶ街の入り口でタクシーを降りた。

「この街には金持ちしか住んでないみたいだよ。海外のセレブが別荘を持つ街だからさ」

 メアリーからもらった紙切れに書かれていた住所は岬のずっと端の方だった。

 一番海に近い、白い大きなお屋敷だった。

 頑丈な柵の囲まれてて緑の庭がずっと奥まで続いていた。

 屋敷の入り口すら見えずに、門の上の方には防犯カメラが作動中だった。

 柵に近づくとどこからともなく獰猛そうな犬が三匹走ってきて、僕達を見て吠えた。

 トードーが呼び鈴を鳴らすが、返答がない。

「いないのかな」

 と思ったら、門の柵がゆっくりと開き始めた。

 すぐ側まできていた大型犬がうーっと唸っているが、僕たちには近づかない。遠巻きにして僕たちの行動を監視している。

 トードーが細い石畳の通路の上を通って中に入ったので、僕も後に続いた。僕たちが柵の中に入ると、またゆっくりと柵が閉まり始めた。ガシャンと音がして鉄の柵は完全にしまり、そして自動で閂がかかった。

「殺し屋っていうのは儲かる仕事なんだな」

 とトードーがつぶやいた。

 

 犬が僕たちの背後から唸りながらついてくる。

 僕たちはゆっくりと石畳を歩いて、そして遙か彼方の玄関に到達した。

「僕、日本で作られたこういうアクションゲームやったことある。嫌だな~怖いな~。外にはゾンビの群れ、逃げ込んだ洋館にもゾンビの群れ」

「なんだそれ、結局どこもかしこもゾンビか」

 とトードーが言った。 

「そうなんだよ。その洋館から脱出するゲームなんだけどさ。いたる所にワナが仕掛けられて、しかもゾンビが襲ってくるんだよ。謎解きをしながゾンビを銃でやっつけるゲーム」

「ミサトが喜びそうなゲームだな」

「うーん、確かにおもしろいけど、ミサトにはもの足りないんじゃない?」

「そうかな」

「でも、ミサトがゲームで満足出来ればもう危ない事しなくなるかもね」

 そう言った僕を見て、トードーが笑った。

「そしたらそれはもうミサトじゃないな」

「そうなの? じゃあ、トードーは殺人鬼のミサトを愛してるって言うの? そりゃまあ、ミサトはすごくチャーミングだけど」

「もちろんミサトが殺人鬼でもそうでなくても愛してるさ。そうだな、彼女を守る為なら自分が殺人鬼になってもいい」

「へえ、やっぱりトードーは格好いいな」

 と僕が素直な感想を言うと、トードーは首をかしげた。

 玄関から中へ入る。その扉には鍵がかかっていなかった。

 ぎーーとは言わない、スムーズに開いた。

 中は薄暗く、天井や灯り取りの窓から入る日光が所々を照らしていた。

 外観は綺麗な洋館だったし、中も凝ったインテリアでモデルハウスのようだった。

 けど、何か臭い。

 獣の匂いがする。

「なんか匂うね」

「犬の匂いじゃないか。室内でも飼ってるのかもな」

「ああ、そうだね。犬の匂いだ」

「気をつけろよ。いきなり襲ってくるかもしれないぞ」

「う、うん」

 僕はこれと言って荷物は持ってなかったので、インテリアに飾ってあった、燭台を手にした。真鍮かな。重くて、なかなかいい感じだ。これなら犬にもきくだろう。

「敵はナイフ遣いのプロだ。絶対に近寄るな」

 とトードーが言った。

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