(85) 粘着質のゲイ
靴音も高くやってきて夏生は、
「こわーい、粘着質のゲイに呼び出し食らうなんて、あたしどうなっちゃうのかしら」
今ヶ瀬は不敵な笑みを浮かべ、
「やる気満々の顔で来られてビビりまくりですよ」
静かにバトル開始。
本作で「ゲイ」という言葉が使われたのは、ここだけです。おまけに「粘着質の」が付く。夏生の何らかの意図を感じます。悪意と言ってしまっていいのかと。
完全にバトルの場ですから、言葉のあちこちにとげがあるのは当然でしょう。「引いてください」と今瀬は言い、夏生は、それはお前の方だと言わんばかりの態度。
偶然を装って、今ヶ瀬は、恭一と夏生のデートを字余しに来た。恭一が泥酔して、奈生が部屋まで送ってこなかったら、あの対決シーンはなかったかもしれません。
「あの男なんだよ」
と訊かれ、今ヶ瀬は。久々に連絡がきて食事に誘われた、と答えますが、おそらく今ヶ瀬の方から連絡して、あの店に誘ったのでしょう。夏生に対しては偶然会った感を出せるし、高杉の様子を見れば、ゲイ友達だと判るし、今ヶ瀬は自分の性的傾向を隠すつもりもない。以前から夏生が気づいていたことですしね。
以前、夏生は恭一に未練があったのでは、と書きましたが、今では、特によりを戻す気はなかった。ような気がします。しかし、たまたま再会した、はずの今ヶ瀬が、実は恭一と同棲していた。大恥かかされた元カノは、反撃に出たのです。恭一は大したことなくても、今ヶ瀬から奪ってやる、くらいのことは考えたのでは。
夏生は学生時代、恭一と一緒の時、今ヶ瀬の視線を感じた。今ヶ瀬は恭一が好きなんだと確信し、わざと恋愛相談など持ち掛けて今ヶ瀬に嫌がらせをした模様です。なかなかに性格が悪い。
恭一にねだったライターを今ヶ瀬が持っていたことで、今も好きなんだと確信する。
今ヶ瀬が男を連れてきたことで嫉妬が噴出、夏生には学生時代の今ヶ瀬の気持ちを告げられるし、で、泥酔してしまう恭一。結果、夏生が自宅前まで来てしまい、今ヶ瀬との事実が発覚。このへんの脚本は本当に見事です。
このことがなくても早晩、男たちの関係はばれたと思いますが、恭一といい感じで食事したその夜に、ですから、何食わぬ顔で現れた今ヶ瀬を「粘着質のゲイ」「どぶ」という言葉で貶めたくなった気持ちも理解できます。
どちらにせよ、夏生との三人模様は中盤のクライマックスで、何度見てもニヤニヤ、ハラハラ、どきどのでした。
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