(78)海辺の二人

 別れを決めた恭一と今ヶ瀬が海に向かいます。

 強風の中、車の前に並んで立つ二人。

 場面は恭一の部屋に変わり、たまきと朝を迎えた恭一の姿。もうこうなったのか、と初回はがっかりでした。

 その後、映画はクライマクスに向かい、恭一がたまきに別れを切り出す。

「(15)海の音が聞こえる」で、私は下記のように記しています。カフェで聞こえる車の音、の下りです。


【これ、波の音だ。

 恭一はいま、あの海にいるんだ。

 もうすぐ海のシーンになるのですが、早くも恭一の心は海にいる。というより、恭一は、ずっとあそこにいたんだ。

 なぜ?

 今ヶ瀬への思いを、決めた場所だから。

「恭一の思いは、あの海で決まった」との監督の言葉は、なかなか腑に落ちませんでした。別れを決めた直後の、あの海で、どうして?】


 分断された二つの海のシーン。その間にラストへの重要な場面が詰め込まれています。

 たまきを選んだのにゲイバーに行く。

 恭一が、たまき母娘と親密になっていく、今ヶ瀬が車から恭一を見ている。

 婚約、その帰りに隠れ方へたくそな今ヶ瀬との再会。そばに置いてください、との懇願を拒絶。

 たまきが料理を作りに来て灰皿とライター、タバコを見つけて帰宅。今ヶ瀬を迎えに行く恭一。

 激しく今ヶ瀬を求める恭一。

 今ヶ瀬の「じゃあ彼女と別れてください」という要求に「明日別れる」と恭一は明言したのに、無理ですよ、と、まるで別れてほしくないような言い方。

 ここは本当に不可解です。


 ダメに決まってる、いや、ダメでなければならない。そのくらいの気持ちで口にしたのが、あっさり了承されて戸惑ったのか。

 嫉妬に狂い、ファンデーションの件で恭一を責め、別れを決定的にしてしまった今ヶ瀬。苦しい胸の内を恭一が知っていたから、恭一のために別れようと決めたものの。

 結局はストーカーやってんじゃん。

 しかも、半年に一度でいいから会いたい、体の関係なんかいらない、と下手に出ても恭一は突き離す。削除シーンには別の展開が描かれていますが。


 たまきに「コトコトする料理、するの?」

 と尋ねた恭一。この時すでに今ヶ瀬とよりを戻しているのですが、それでも妻にするつもりだったから、今ヶ瀬が言った「あなたに向いている女」なのか確認。今ヶ瀬のお眼鏡に叶う女かどうか知りたかった? 

 カフェでの「ずっとこのままやっていくつもりだった」も恭一の本心でしょう。今ヶ瀬も同様、たまきにバレないように結婚後も関係を続けるつもりだった。でも恭一は、たまきと別れ、今ヶ瀬に「一緒に暮らそう」と。

 何故それを受け入れられなかったのでしょう。軽い関係でいたかったのかな。


 分断された二つの海のシーン。その間に様々なことがあり、別れるつもりだった恭一の心が、今ヶ瀬を選ぶまでが絵描かれます。カフェでは、たまきに結論と決意を告げたのですね。


 ラストでは、もう一つの分断シーンがあります。

 とても短いけど意味は深い。

 灰皿を洗う恭一。他の男と寝ようとして果たせない今ヶ瀬の姿が挟み込まれます。

 再度、恭一。洗い上げた灰皿をテーブルに置き、今ヶ瀬の定位置だったハイチェアから満足そうに眺める。

 恭一の心の平安と、今ヶ瀬の混乱の対比。結局、今ヶ瀬は恭一なしでは生きていけない。すぐには戻れずストーカー行為でごまかそうとしても、最後には恭一の元に戻るに決まってる、あれはそういう暗示なんだと今は確信しています。

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