(87)三部構成

 恭一がゲイバーに行った後、暗転があり、たまきの自宅のクローゼットにつながる件は、何度か書きました。

 今頃ですが、暗転はもう一か所あることを認識、いや気づいてはいたのですが見過ごしていました。

 恭一が離婚を切り出され、今ヶ瀬に電話し、学生時代を回想する。その後に暗転があり、次は今ヶ瀬が恭一の新居を訪ねてきます。


 この二つの暗転は、それぞれ、第一部ここまで、第二部ここまで、と、きっちり分けている気がします。

 あの電話では今ヶ瀬は恭一が離婚することを知り、恭一も今ヶ瀬に彼氏がいることを知り、観客は更に、今ヶ瀬も今の相手と破局することを知ります。

 最初の暗転の後は、恭一と今ヶ瀬の新しい関係が始まりますね、時の流れも感じさせます。「一人暮らしにうんざりしてきた頃でしょ」のセリフです。離婚、引っ越しにはそれなりの時間がかかることも、こちらは想像していますが。


 第二部は、とても長くて様々なことが描かれます。起承転結でいえば、承と転が一挙に描かれる。恭一と今ヶ瀬の関係が濃密になる、瑠璃子や夏生を押しのけて男たちは結ばれる。しかし、すぐにたまきが暗い影を落とし、結局、今ヶ瀬の疑心暗鬼が下で別れがやってくる。

 一部では、k既婚者である恭一を慕っていたたまきが恭一に接近し、ついにベッドイン。でも直後に恭一はゲイバーに行き、やはり今ヶ瀬の影は消えない。

 ここで暗転、第三部に向かいます。


 暗闇の向こうが、たまきの自宅であり、母親まで登場する。恭一はこの母娘に取り込まれたのか。第二部の冒頭では今ヶ瀬が恭一の新居、いままで画面に出てこなかった新しい場所に現れます。

 第三部では恭一が、これまた初めて登場する家を訪問しているのが興味深いです。新しい関係の始まりでしょうが、ふたつの暗転の先には全く別の世界が開けていたのです。

 二部から三部の間の時間の流れは「自転車が埃をかぶっていた」ことで伺えます。たまきとの仲が進み、婚約に至ってしまいますし。

 冒頭から登場した、たまきは、部下、恋人、婚約者、犠牲者じへと立場を変えていきます。

 二部の最後では恭一が泣きますが、三部のラスト付近では今ヶ瀬が泣いている。これも計算しつくされた場面かな、と思います。


 恭一は今ヶ瀬が捨てていった灰皿を楽しそうに洗い、その間に今ヶ瀬が他の男と寝ようとして果たせず泣く場面が挟まれます。ふたたび恭一、今ヶ瀬が恭一を忘れようと足掻くのは、恭一にはさしたる問題ではありません。離れたままでいられるわけないと確信しているから。

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